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多様化するニーズを受け止め、リアルの価値を提供したいー東急さんインタビュー(後編)

(前回に引き続き、東急株式会社さんのインタビューを掲載します。前回のインタビューはこちら

2.ニューノーマル時代の観光はどうあるべき?

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コンテンツの魅力を高め、いつでも楽しめる観光を

山崎さん:「どういうことが求められるのか」を考えていかないといけないんですね。最近、テクノロジーのおかげで、色々なことが疑似体験できるようになっています。旅行でさえも、オンラインで日本にいながら海外の遺跡などが見られるようになってきています。これからオフラインの観光に求められるのは、「リアルな体験価値」をいかに高められるか、ということだと思います。コンテンツが大事なんですね。MICEの話でも出てきましたが、カンファレンスだけではなく、現地での観光的要素とか、人々がリアルで集まったからこそできる機会、価値といったものが、非常に強く求められてくる時代になっていくと思います。

また、休日や平日といったオフピークを意識したアプローチもやっていきたいですね。段々とワーケーションができるようになって、教育の方でも学校の休みのあり方が変わってきたり、平休日繁閑差がなくなっていけば、平準的な旅行ニーズを意識した観光アプローチができるようになっていきます。スタッフ側の人員配置もさることながら、コンテンツ・商品についても、週末だけではなく平日でも盛り上がる何かが必要になってきます。

旅行は、偶然の出会いに価値があるのではないかと思っています。今は、インターネットで検索すると目的とするものは簡単に見つかる時代です。ところが、旅行などで現地に実際に行くと、買おうと思っていたものや行こうと思っていた場所以外で良いものに出会ったり、感動を得たりします。そこで予定と変わった行動になったり、目の前のものが欲しくなって買ってしまうという「偶発性」はリアルの旅行ならではの楽しみですよね。今後の観光の在り方としては、そこに色々な可能性が秘められていると思います。

ニーズの多様化に付加価値を付けていくことが課題

安住さん:全般として言えるのは、これまで、東京は同じ時間に集合がわさっと動いていく、というマスの生活・消費パターンだったんですね。そうしたマスのパターンが、コロナを機に分散化、個別化、ニーズの多様化が激烈に進んでいる。今まで観光業界はマスをどう捉えるかというビジネスモデルでしたから、少額の手数料で大きく数を取るという収益構造でした。ホテルも稼働率重視でなかなか単価が上げられず、利益率が低かったんです。それが、今後はニーズやピークの分散化、個別化や多様化といったものに、いかに付加価値を付けて、観光業界のエコノミクスを高価値に回していくかが課題となってきています。

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マイノリティへの対応は引き続き取り組むべき

そのような流れの中で、マイノリティへの対応も重要ですね。食であれば、ハラル、アレルギー、ビーガンといった食の禁忌にいかにきめ細やかに対応できる仕組みを整えるかが、高単価商品のためのカギになります。LGBTなどの性的指向にも適した環境を用意していく必要もあります。日本は特にこれまでそういったところが弱かったんですね。イスラムの方への対応としては、例えば渋谷にお祈りする場所、プレイルーム(pray room)がないということでオリンピック前に作ろうという話もあったんですが、コロナでいったん立ち消えになってしまいました。

パンデミックで各国のお客様が来られないのは一時的なものです。感染症が収束してお客様が戻ってきたときに、これまでの日本の取組がゼロになっていてはいけないと思います。オリンピックに向けてやろうとしていたことはしっかりと引き継いでいかないといけないですね。

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日本人の国内旅行もより盛り上げていきたい

山崎さん:他方で、インバウンドに過度に期待してしまっていたのは私たちも反省点なんですよね。インバウンド客向けに刺さる日本の見せ方もあるんですが、日本人観光客向けにもそうした魅力付けができるようになっていきたいところです。食もそうですし、文化的な体験、景色、歴史といったものは日本国内でも地域ごとに違う魅力があるので、そこを引き出していきたいと思います。

安住さん:今、盛んにDX(デジタルトランスフォーメーション)が叫ばれていて、経営効率の観点でも重要な視点です。しかし、観光のコアバリューをDXしてしまうのは、観光業界にとっての自滅行為になると懸念もしています。「不便益」という言葉がありますが、ある程度の不便さを残しておくことが観光では大事だと考えています。

山崎さん:遠くに売っているものでも、今日注文して明日には届くような時代です。ただ、現地で消費されるからこそいいものもありますよね。例えば沖縄で飲むオリオンビールや、北海道で食べるジンギスカンが格別に美味しく感じたり。旅行先で楽しむからこその楽しみをこれからも提供していきたいと思います。

安住さん:交通インフラの観点からは、交通機関の発達で旅行期間はどんどん短くなって短時間で目的地まで到着し、効率的で便利になってきていますが、その分、移動の楽しみは損なわれている側面があります。以前は寝台列車に揺られながら目的地を目指すことも旅行の醍醐味で人気がありましたが、今では寝台列車はサンライズ瀬戸とサンライズ出雲だけしか残っていません。便利になることでなくなってしまう魅力もあります。移動も含めた旅行の楽しみ方はこれからも提案していきたいと思っています。

3.新しい観光における東急さんの強みは?

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ハレにもケにも深くコミットしてきたからこそできる新しいサービスを展開していきたい

安住さん:仕事や日常が「ケ」の世界だとすると、観光はいわゆる「ハレ」の世界だったんですが、それがコロナで一体化して、ごちゃ混ぜになってきたんですね。東急グループはコロナ前からハレにもケにも深くコミットしてきたので、その変化にも対応できるだけの広い事業領域を有しているというのは強みだと思います。事業が観光だけだったら、この世の中の変化に対応するのは難しいのではないでしょうか。東急が鉄道やバス、スーパーマーケットやCATV事業のほか、エンターテインメント、ホテル、レストラン、スポーツと幅広いサービス提供をしてきたことはこれからの時代の強みです。また、渋谷を拠点に伊豆や北海道など、地方のリアルな拠点を持っているので、土地にしっかりコミットしていることも、オンラインの時代にあって逆説的ではありますが大きな強みです。新しい観光の在り方にも深い提案ができる素地になっていると思います。

山崎さん:今、当社では、アフターコロナにおける新しい暮らしのご提案として、「tsugi tsugi」という定額制回遊型住み替えサービスの企画を進めています。旅をしながら仕事もすることができ、いくつもの「地元」を持つような、新しい暮らし方を提案しています。

https://tsugitsugi.com/


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定額で東急ホテルズや東急バケーションズが提供する様々な宿泊施設に滞在して、各地の観光を楽しみながらワーケーションをすることができます。60泊で36万円、30泊で18万円の2つの定額プランがあり、ポイントは同伴者1名まで無料というところです。今年4月に先行体験の募集をしたところ、100名の枠に900名以上の申込みがあったんですよ。まだ実証実験の段階ではありますが、今回の先行体験の結果も検証しながら、新しいサービスとして商品化を進めてまいります。

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インタビュー後記

リアルの価値、偶発性、個別化・多様化、不便益…。東急さんのインタビューからは、アフターコロナにおける大切なキーワードを多く聞くことができました。

行政や民間のデジタル化で情報整理やシステム連携が進むことは、私たちの生活をより便利にしてくれます。他方で、人間には何か抑えられない欲求として、現実の「旅」があるのではないでしょうか。特に、日本人はお伊勢参りなど昔から旅行が大好き。同じ日本の中でも、縦に長い日本列島は本当に地方ごとに豊かな魅力にあふれています。現地での偶然の出会いがその人の人生を変えることもあります。ワクチン接種が進めば、きっとまた素敵な出会いを求めて、人々はその足を各地へと運ぶことでしょう!

忙しい時期にインタビューの時間を作ってくださった、東急株式会社の山崎さん、安住さん、改めてありがとうございました!


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