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「顔芸」

「選挙の応援よろしくお願いします。」

と商店会の会長さんが店の入り口から大きな声を僕に向けてきた。

あいにく僕は数分前に掛かってきた業者の方と電話中で会長さんのところへは行けず。

スタッフもストックで銀行入金の準備中という何とも間の悪い僕たち。

でも何で商店会の会長さんがそんな事をわざわざ言いに来たんだろうと電話で話しながらも思い巡らせると、「そう言えばさっき会長さんの店の前で都議選街頭演説してたな。ということは、これがいわゆる固定票か。既得権がある特定の組織やその周辺は、代々与党と結びついているからな」と考え合点がいく。

「はいっどうぞ」と電話先からメモの準備ができたという合図が送られてきて、僕は現実に呼び戻される。

「えーっと郵便番号が・・・」と電話口の業者の方に店舗の住所を伝え始める。

それを見てた商店会の会長さんが、「えーっ!? 応援お願いしますって商店会会長の私が言ってるのになんで前に出て来ないの?ちょっとそれは困るよ」みたいなメッセージが入った顔を向けてくる。

いやいや、そんな顔芸だされたってこっちも仕事中だから、見ればわかるでしょと負けじと僕も「かんべんしてくださいよ、会長さん。そもそも会長さん普段そんなに愛想のいいほうじゃないでしょう。都合のいい時だけ会長だぞみたいな雰囲気をだされてもね」みたいなメッセージを込めた顔を作って送る。

実際に届いているかどうかはわからないけど、でも僕としてはそういう気持ちを込めた表情を作って送った。

しかし、次の瞬間、会長さんの顔芸の意味、いやっここでは裏メッセージというべきか、その意味を思い知らされることになる。

会長さんの後から出てきたのは何と全国で高い知名度を誇る大物議員の片山さつきさん。

「どうも、片山さつきです。」

満面の笑みで店の前に登場です。

どうやら応援に来ていたようだ。

さすがに何もしないわけにはいかないので、僕は電話で話しながらも片山議員に向けて頭を下げる。

しかし、前に出て来ない僕を見てしびれを切らしたのか「あれっ、もう一度言ったほうがいい?知ってるでしょ?わたし。さつきだよ。さ・つ・き。か・た・や・ま・さ・つ・き。」と片山議員までもが立ち止まって芦田愛菜だよばりに顔芸を出してくるではありませんか。

「困ったな。前に出たくないんじゃなくて業者と電話中だから行けないんだけどな・・・」という顔芸を僕も必死で送る。

電話口の業者からは早く続きを言ってよみたいな感じで催促気味の「もしもーし」が入る。

「あっ、はい、すいません、えっーとですね、板橋の・・・」とちょっとオーバーなジェスチャーを入れて、片山議員に電話中なんですというメッセージを送る。

ここで状況を把握していただけたようで、片山議員は練り歩きを再開。

「古池や蛙飛び込む水の音」情景描写を学んだことがフル活用された時間でした。

でも、この片山議員との顔芸対決をしているときにはすでに店の入り口のフレームからはMCハマーばりにフェードアウトしていた商店会の会長さんにはこの僕のメッセージは伝わっていない。

仕方ない、顔芸のスキルを高めていくか。

いやいやそうじゃない笑

普段からコミュニケーションって取っておかないといけないんだなと強く感じた出来事だった。

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