なぜ政策論争はすぐ「人間性」と「知性」の問題に帰着してしまうのか
保守美「安保法制を審議していた頃からずっと思っているのですが、国会って、本質的な問題を審議できてない時間が結構長いですよね」
リベ太「ここ数十年、ずっとそうかもしれないね。中曽根内閣時代に、中曽根首相が社会党委員長の石橋さんとやり合っていた頃は、まだそこそこ本質的な議論が多く行われていた気がするけど」
左代子「原因は決まってるじゃない。まともな答弁をしないからよ」
右比古「まともな野党がいないからだろ」
保守美「こんなふうに、与党も野党も、相手方に問題があると思っているんでしょうね」
リベ太「どうも問題は双方にありそうな気がするな」
保守美「そうですよね」
安保法制の本質はどこにあったのか
保守美「例えば、安保法制を審議する際に最も本質的なポイントは、『国際貢献によって日本が確固たる地位を築くために、つまり日本の国益を確保するために自衛隊を海外派遣することが、どの程度自衛隊員と国民を危険にさらすのか』という点だったはずです」
左代子「本質的なポイントはそこじゃないわよ。安保法制は、安倍政権が憲法を改正して日本を『戦争をできる国』にしようとする準備だったのよ。そこが本質よ」
右比古「こいつらは、すぐにこういう存在しない論点を妄想するんだよな。こんな奴らとまともな議論が成立するわけがねえだろ」
リベ太「いや、左代子の話は、あながち妄想とは言い切れないんじゃないかな。自民党の中には、『憲法改正によって国際紛争に武力で貢献できるようにすることで、日本の国際的地位をより高めよう』という意見もあるはずだよ。表立っては口にしないだろうけどね」
保守美「本音を言うと、私はそれはアリだと思ってます。アメリカもイギリスもフランスも、多くの先進国は国際紛争に対して武力による支援を行っているじゃないですか」
左代子「なんてこと!? あの戦前の悪夢の再来じゃないの???」
保守美「いえいえ。それは発想の飛躍が過ぎますよ。戦前の日本は、国家総動員法やら検閲制度やら徴兵制やら、ひどく国民の権利を抑圧する国だったと思いますし、そんな時代に逆戻りなんて、保守派の私だって嫌ですよ」
右比古「俺は大日本帝国はそこまで悪い国じゃなかったと思ってるが、今の時代に国家総動員、検閲、徴兵はあり得ねえし、絶対支持しねーぜ」
左代子「あら、右比古でもそう思ってるのね」
リベ太「つまり保守美は、欧米各国と同程度に軍隊を他国に派遣して国際貢献する国を目指せば良いと考えているんだね」
保守美「そうです。欧米各国と同程度の国際貢献をしたからといって、『すぐさま大日本帝国に逆戻り』なんて飛躍し過ぎです。どの国もしっかり民主主義が根付いているし、自国が空襲を受けて焼野原になったりなんかしてないじゃないですか」
左代子「アメリカは同時多発テロを受けたけどね」
保守美「まあ、安保法制が憲法改正の準備かと言われると、それは別問題であって、別途議論すべき問題だと思いますけどね」
リベ太「まあ、安保法制も憲法改正も、国際紛争に対して、より生々しい形で、より紛争現場に近いところで貢献して、国益を確保しようという点では共通してるよね」
左派は右派の考えを「人間性の問題」と決めつける
左代子「どうかしてるわよ! 戦争で人を殺して、それによって国益を得ようだなんて」
右比古「『戦争で人を殺す』と言っても、こっちから侵略戦争を起こそうってわけじゃねえんだよ。罪もない人が侵略国の軍隊に殺されている現場に出て行って、被侵略国を救おうっていう話なんだよ。その際に侵略国の側に多少の犠牲が出ても仕方がねえだろ」
左代子「話し合いで解決すべきよ。たとえ侵略国の軍隊であっても殺してはいけないわ」
右比古「ダメだこいつ話にならねえ」
左代子「与党はみんなこんな考えなのかしら? 人殺しによる利益の確保なんて、人間じゃないわよ」
保守美「そうだとしたら、世界のほとんどの国の政府首脳は人間じゃないことになりますね」
リベ太「左代子。僕も国際貢献の名の下に武力介入するのは、日本を危険にさらすと思うから反対の立場だけど、この外交政策の考えの違いは、果たして人間性の問題なのかな?」
左代子「何を言うんです? 血の通った人間なら、戦争に反対して当たり前です!」
リベ太「自分から侵略戦争を起こすことと、既に行われている戦争に参加することとを混同してはいけないよ。前者が人非人の仕業だというのはまだ良いとして、後者の方は人間性の問題じゃなく、見解の相違だと思うよ」
左代子「見解の相違? それじゃリベ太先輩は、日本が他国の戦争に巻き込まれてもいいって言うんですか???」
右比古「おいおい。こんな奴と議論したって無駄だぜ。こっちがいくら論理的に話したって、感情でしか話せねえ生き物なんだから」
リベ太「左代子。僕がやりたいのはね。『他国の戦争に武力で介入して国益を勝ち取る』という案に対して、そのメリット・デメリットをよく検討した上で、『デメリットの方が大きい』という結論を弾き出して、最終的に棄却する、という手続を踏みたいということなんだ。それがリベラルの保守に対する最大の反撃なんだ」
左代子「戦争のメリットなんてあるわけないじゃないですか!」
リベ太「いやいや、そんなことを言っていてはまともな議論が成り立たないよ。そして、政策を議論しているのに、相手の人間性の問題に帰着させてしまっては、相手をよりまともな議論から遠ざけてしまうよ」
右比古「そのくらいにしとけ。いくら説き諭しても無駄な人種がいるってことに気づいた方がいいぜ」
リベ太「そして、右比古のような考えもまた問題なんだよね・・・」
保守美「そうですね・・・」
右比古「は???」
右派は左派の考えを「知性の問題」と決めつける
保守美「右比古先輩は、左派の思想について『知性が足りない』とお考えですよね」
右比古「そりゃそうだろ。戦争が起こってるのに、『話し合いで解決』なんて頭の中がお花畑じゃねえか」
左代子「なんですって!?」
リベ太「右比古。それはおかしいよ。歴史の中で、戦争が話し合いで解決された事例はいくらでもあるじゃないか」
右比古「そりゃ、話し合いで解決を試みること自体は大事なことだ。だが、だからと言って常に戦争を放棄するなんてアホだろ」
保守美「でも、右比古先輩。これまで憲法9条が果たして来た役割は大きかったと思いますよ」
右比古「あ??? お前がそんなこと言うとはな・・・!」
保守美「だって、戦後一貫して軽武装の経済大国が発展途上国に多額のODAをつぎ込んできたわけでしょう。米ソ対立の中で自国の立ち位置を見定められずにいた小国にとって、なかなか特定の軍事大国と結びつくことは勇気が要ったと思うんです。そんな中で、日本だけはアメリカに守られていたとはいえ軍事色の薄い経済大国だったわけですから、安心してODAを受けられたと思うんですよね」
左代子「保守美、いいこと言うじゃない!」
右比古「じゃあ、左代子の言う非武装中立みたいな夢物語を、お前は現実性のある政策だと言うのかよ」
保守美「いえ、現実性のない理想論だと思います」
右比古「じゃあ議論の余地はねえだろ」
保守美「でも理想論から得られるものは大きいんじゃないでしょうか。55年体制の中でも、自民党の政策が社会党の理想論によって軌道修正を受けてきた面は否めません」
右比古「こいつらと議論することに価値があるってのか・・・?」
リベ太「右比古。もし旧社会党的な価値観が、全くもって知性の欠如した夢物語だというなら、それが名だたる学者によって提唱され、多くのインテリ層に受け入れられて来たのはなぜなんだい? むしろ我が国の知性を代表する面々が、こぞってリベラルの旗を挙げてきたじゃないか」
左代子「そうよ。あんたはネトウヨの方が知性があるって言うの?」
右比古「そういうわけじゃねえが・・・」
リベ太「つまり、与党は『野党と議論したって無駄だ』と思っているから、まともな答弁をしないんだよね」
本音の議論をしよう
保守美「もし右派が『他国の戦争に武力介入することのメリット・デメリットを議論しましょう』と言い出したら、左派はどんな反応しますかね?」
右比古「ギャーギャーわめいて、議論を開始することすらできねえと思うな」
左代子「まあ、戦争のメリットなんか議論したくはないわね」
右比古「ほれ、左派が先に態度を変えてくれねえと、こちとらどうしようもねえんだよ」
左代子「違うわよ。右派がまともに議論をしてくれたら、乗ることは乗るわよ」
リベ太「政策論争は人間性の問題でも知性の問題でもない。あくまで政策論争だ。ちゃんと政策を議論する土壌ができてくれると良いんだがなあ」
保守美「左右双方とも、歩み寄ってほしいですね」
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