見出し画像

イェリングのルーン石碑を読む


デンマークのユラン半島、ヴァイレ近郊にあるイェリングは、ヴァイキング時代には王都が置かれていました。
今はそんな面影も感じられない小さな町ですが、王の墓と思われる墳墓群とルーン石碑が残されています。

By Casiopeia - photo taken by Casiopeia, CC BY-SA 2.0 de, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=197294
2004年の画像。私が訪れた時もこんな感じでした。
By Alicudi - Own work, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=18743098こちらは2014年の画像。ガラスケースに覆われ、いかにも観光地っぽくなりましたね…。


ルーン石碑2つのうち大きい方(上記画像、左)は、デジタル機器用の近距離無線通信規格の一つ Bluetooth の名の由来となったデンマークのハラルド(ハーラル)青歯王(ca. 958-987)が両親(父ゴルム老王と母テュリ王妃)を記念して建立したものです。

Side A photo by VIKING LANGUAGE 1, JWP
Side B, C photo by VIKING LANGUAGE 1, JWP
VIKING LANGUAGE 1, JWP より

ルーン解読
Side A
: haraltr : kunukʀ : baþ : kaurua
kubl : þausi : aft : kurm faþur sin
auk aft : þąurui : muþur : sina : sa
haraltr ias : sąʀ : uan : tanmaurk
Side B
ala : auk : nuruiak
Side C
auk tani karþi kristną


Old Norse
(古ノルド語)訳文は VIKING LANGUAGE 1 より
Haraldr konungr bað gera kumbl þessi ept Gorm fǫður sinn ok ept Þyrí móður sína - sá Haraldr es sér vann Danmǫrk alla ok Norveg ok Dani gerði kristna

注)
ルーン文字 ᛅᚢᚴ はそのままアルファベットを当てはめると auk となりますが、多くの古ノルド語テキストでは ok と書かれるため、訳文ではそちらに合わせています。
※ ok は現代英語の and 


日本語訳
 (拙訳)
王ハラルドは父ゴルムと母テュリのため、これらの記念碑を建立す。ハラルドは全デンマークとノルウェーを勝ち取り、デーン人をキリスト教に改宗させた。


下記の画像は、コペンハーゲンの国立博物館にあるペイントされたレプリカ。

By Nationalmuseet - The National Museum of Denmark from Denmark - The Jelling Stone - VIKING exhibition at the National Museum of Denmark - Photo The National Museum of DenmarkUploaded by palnatoke, CC BY-SA 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=26755810


小さい方のルーン石碑は、ゴルム老王が妃テュリを記念するモニュメント。

VIKING LANGUAGE 1, JWP より
VIKING LANGUAGE 1, JWP より

ルーン解読
表面
: kurmʀ : kunukʀ :
: karþi : kubl : þusi :
: aft : þurui : kunu
裏面
: sina : tanmarkaʀ : but


Old Norse
(古ノルド語)訳文は VIKING LANGUAGE 1 より
Gormr konungr gerði kumbl þessi ept þurvi (þyri) konu sína, Danmarkar bót


日本語訳
 (拙訳)
王ゴルムは、デンマークに彩りをもたらした妻テュリのためにこれらの記念碑を建立す。

注)Danmarkar bót は直訳すると「デンマークの装飾品」となるのですが、この文では「美しいデンマーク王妃」の意味で亡き妃を偲んでいるように思えるので、上記のように訳しました


参考文献
Jesse L. Byock, VIKING LANGUAGE 1 
Learn Old Norse, Runes, and Icelandic Sagas  Second Edition, JWP 2017.


おまけ
スカンディナヴィア各地(多くはスウェーデン)に残された沢山のルーン石碑は、書物に歴史を記すことのなかった古代~中世初期北欧の歴史を知るための貴重な一次史料です。
もっと多くのルーン碑文を日本語で読んでみたい方に、下記の書籍をおすすめします。
ルーン石碑の解読部分は本文の付録のようなものですが、付録にしてはかなり良い扱いになっており、資料価値も高いです。

マッツ・G・ラーション著(荒川明久訳)『悲劇のヴァイキング遠征 東方探検家イングヴァールの足跡 1036-1041』新宿書房、2004年。

マッツ・G・ラーション著(荒川明久訳)『ヴァリャーギ ビザンツの北欧人親衛隊』国際語学社、2008年。

『ヴァリャーギ ビザンツの北欧人親衛隊』より。
ルーン石碑のイラストまたは写真(両方の場合も)、ルーン碑文と解読、古ノルド語に加えて
現代スウェーデン語訳と日本語訳を掲載。



『ヴァリャーギ』は出版社がなくなってしまったため、入手困難になりましたが、図書館で借りられます。
『悲劇のヴァイキング遠征』は今も新品で入手できます。
スウェーデンヴァイキングの首領イングヴァールの事績を記したルーン石碑を解読しながら、当時の東方遠征について知ることができる良書。
「イングヴァールのサガ」の翻訳も掲載されています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?