10世紀初頭イングランドの薬草・ハーブ
新作小説『The DANELAW』1巻の主人公ヨールンが治療師ということで、その仕事ぶりを細やかに描くにあたり、当時(10世紀初め)の薬草・ハーブについて専門書籍から学ぶ機会を得た。
元々ハーブには興味があり、自分でも育てたりしているものの、今回は10世紀のイングランドに存在した薬草を調べるところから始めなければならず、様々な文献にお世話になった。
とりわけ『西洋中世ハーブ事典』(八坂書房)には中世初期にフランク王国を治めたカール大帝(シャルルマーニュ)の薬草園に植えられていたハーブのリストと見取り図が掲載されていて、物語に出てくる「マーシア太守の薬草園」の参考にさせていただいた。
とはいえ、フランスより北に位置するイングランドであるから、地中海地方原産のハーブなどは耐寒性の問題で南部でしか育たないかもしれない。
その疑問に答えてくれる古い資料は見つけられなかったが、現代の書籍に興味深い記述を発見した。例えばローズマリーはイングランド南部ではふつうに栽培可能だが、北部においては冬場は防寒の為にネットを被せるなど工夫が必要だという。
マーシア太守の本拠グロスターでは育つけれど、ヴァイキングの王国があるヨークでは無理があるかも……といったところだろうか。
ヨーク、10世紀のヨールヴィーク王国は物語の舞台の一つなので、こちらで使われたと思われるハーブも調べておく必要があった。
そこで役立ったのが Daniel Serra / Hanna Tunberg, AN EARLY MEAL ― A VIKING AGE COOKBOOK & CULINARY ODYSSEY(CHRONOCOPIA PUBLISHING AB)。ヴァイキング時代の諸地域(スカンディナヴィアと英国)のレシピと共に、考古学的な発見をもとに存在した(と思われる)食材のリストが掲載されているのが大変有難かった。
上記の写真は、現代の北欧人に愛されているディル。
ノルウェーサーモンに欠かせないハーブであるが、ヴァイキング時代のスカンディナヴィアには無かったようだ。
ヴァイキングが移住したヨールヴィーク(ヨーク)でのみ、発見されている。ただし、12世紀以後はデンマークでも存在が認められるようである。
果実類はリンゴのほかベリー類が豊富で、ラズベリー、ビルベリー、ブラックベリー、ワイルドストロベリーはスカンディナヴィア各地で存在した。
今回は主に薬草・ハーブについて書いてみたが、食材一般についても機会があれば記事にしたいと思う。