J・K・シモンズとシシ神の森(バットガール、もののけ姫、ジャスティスリーグ)
2022年公開予定の『バットガール』にシモンズがゴードン役として再登板するという報道は嬉しい反面、私には一抹の寂しさを感じさせるものでした。それはまるで『もののけ姫』で「ここはもうシシ神さまの森じゃない」と言ったサンのような気持ちでした。
順を追って説明しますね。
作品の内容や結末に言及しますのでネタバレが苦手な方はご注意ください。
▼一度は消えたDCEUのシモンズ=ゴードン警部:
元々は2014年に発表されたDCEUで計画されていたバットフレックの単独映画を見越してゴードン警部にはオスカー受賞俳優であるJ・K・シモンズが選ばれました。しかしDCEUのプロダクションの混迷から計画は廃案となり、バットマン単独作はユニバース《一つの世界》から独立し、マルチバース《複数の世界》の中の1つとして制作されることが決まり、ブルースウェインはロバート・パティンソンに、ゴードン警部も別の俳優(ジェフリー・ライト)に変更されました。
2017年のジャスティスリーグでは、シモンズほどのビッグスターを起用しながらチョイ役程度(屋上の場面だけ)にしか出てこないのが勿体無いなんて言われましたが、2021年にZSJLが公開されてもその状況には変わりなく(いくつかの繋ぎのシーンが追加されたのみ)、このことからスナイダーの構想の中でもシモンズのゴードン警部は紹介程度にとどめて、バットマン単独作で奮起してもらう予定だったのでしょう。しかしその夢はマルチバースへの方針転向で消えてしまったのです。
▼マルチバースで帰ってきたシモンズ=ゴードン警部:
しかし驚くべきことにシモンズはバットガールのユニバースに帰ってくることが報道されました。一部ではスナイダーヴァースなのかと期待が湧く声も出ていましたが、本人の語る所によるとZSJLとは別の世界線であることが明白に確定しているようです。
つまりライミ版とMCU版のように、同じ俳優が演じているが、あくまで別の世界の別の人物という方針で現在はプロダクションが進んでいるということですね。だから、私たちが見ることになるゴードンは、かつて私達が見ていたゴードンとは違うのです。
そしてコレはまさに『もののけ姫』の最後で起きていたことです。
▼もののけ姫のラストの正しい解釈:
映画『もののけ姫』の終盤でアシタカとサンは斬られたシシ神の頭を返還しますが、寸手の所で夜が明けてしまい朝日を浴びたダイダラボッチは爆発して消滅します。溶けて消えた(風化した?)身体から生命のようなものが撒き散らされて周囲一帯には緑が芽吹くのですが、まるで牧草地のようにのどかで、それまでの鬱蒼と生い茂る森林とは似ても似つきません。
これは森の目線に立てば完全にバッドエンドなんですよね。シシガミもモロノキミもオットコヌシも死にました。森は太古の昔からの守り神を失って、それまで人間のような弱い存在を寄せ付けなかった恐ろしい場所ではなくなりました。人間によって飼い慣らされた都合の良い草木が広がるだけです。つまり人間の勝利であり、技術と文明による環境破壊が完了したのです。
だから最後にサン(もののけ姫)は悲しい顔をして言うんですね。
この清濁織り交ぜた感じとか、簡単に割り切れない感じが、とてつもなくリアルで、残酷で、本作を至高の名作に押し上げている一因と言えます。
実際に日本列島には何千年の昔から森林が存在しましたが、現在私達が見かけるほとんどの森林は、江戸時代までに木材として伐採された後に植林された人工的で若い森(神が人間に負けた森)になります。もちろん人里離れた田舎とも呼べない程の山奥には残っている地域もありますが、木が生えるくらいの場所ならほとんど人の手が入っていると考えて良いので、現在では数千年レベルの原生林は相当レアで、それこそ屋久島にでも行かないと見られないような、希少価値が高い場所となっています。
▼消えたスナイダーの世界に想いを馳せて:
私は見た目が似ているだけのものを求めているのではないのです。
マルチバースの中で新たな世界線の物語が始動することには何の問題も感じません。各クリエイターが自由に創作できるのは良いことだと思います。しかし、そこに出てくる登場人物が同じ顔では、否応なしに昔好きだった世界線を思い出してしまって、それが少し寂しいだけです。
特に私はZSJLの世界線が一番好きであり、なおかつ一度計画されたのに中断したからこそ、余計にその想いが強くなっているのでしょう。スースクだって、新作がどんなに面白い出来になろうが、エアーカット版のハーレイとジョーカーを観たいと未だに思っていますしね。
世界線を分け隔てたいなら、主要キャストは変えたほうが得策だと思いますけどね。現に、フラッシュとかDCEUとCWで別俳優で綺麗に棲み分けできているのだから。それを言えばホアキンジョーカーもそうでしたね。
私もサンの言葉を借りて、気持ちを表明してみましょう。
よみがえっても彼はもうスナイダーの世界の住人じゃない。
スナイダーの世界は消えてしまった。
J・K・シモンズは好きだ。でも当時のDCの責任者を許すことはできない。
といった所ですかね。笑。
了。
最後まで読んでいただきありがとうございます。ぜひ「読んだよ」の一言がわりにでもスキを押していってくださると嬉しいです!