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頑固な苗箱

サンダルを脱ぎ、足を入れる。
にゅるり。
生あたたかい。
ちっちゃなエビが、ぴょこぴょこと挨拶をしにくる。
カエルは慌てたのか、こちらにダイブしてくる。

***

先日、熊谷の実家に田植えの準備の手伝いに行った。
妹の萌と待ち合わせ、前日の夜から熊谷入りをする。
「苗運び」
田植えといっても、いろいろな作業があり、わたしが昨年から手伝っているのがこの苗運びというもの。
バット(苗箱と言います)の底に古新聞紙を敷き土を入れ、稲の種をまく。水をやりながら発芽をまつ。
発芽した苗箱を小さな田んぼにずらりと並べ、ムロをつくる(昨年はここを手伝った)。
稲の赤ちゃんがトラクターで田植えができるくらいまで成長させる。

「今年は大苗(おおなえ)でやってみようと思っていて」
父が言う。
大苗とは、稲の赤ちゃんの成長をよちよちよりも、つかまり立ちくらいまで大きくしたもののことらしい。大苗を植えるほうが、田んぼに雑草がつきにくいと有機農業の講習会で聞いた、と父。

今年は、父の代では初めての二毛作に挑戦。つい10日前まで麦畑だったところを耕耘し、水をはってトラクターで代かきをする(父のがんばりで麦は豊作だった!)。畑の土も、急な方向転換にとまどったのか、入れた水を吸収したため、父は苗運びの当日まで代かきをしていた。
萌と2人、はりきって作業着に着替えて待機。予定よりスケジュールはおしたものの、13:30から苗運びはスタート。

久しぶりに田んぼに入る。
つかまり立ちほどに成長した苗をはがして、専用の棚に入れて軽トラで運ぶ。
これだけのことなのだが、おおなえ……恐るべし。
つかまり立ちどころか、え、まもなく成人……? というほどに、田んぼに根をはっている。つまり、バットが土からはがれない。(根切りシートというものを苗箱の下に敷いてあるのだが、生育期間が長すぎたのか、シートをつきぬけ根をはっている)
頑固な思春期苗をなだめすかし(たところで何も変わらない)、力いっぱい端から引き上げる。これ、160箱もあるんだけど……。
びくともしない苗を引きはがすために、スライドして根切りできる専用の道具が急遽登場。同じことで困ったひとがこれまでにもいたのだと実感。
この道具を使ったとしても、全体重をかけ大苗に立ち向かわなくてはびくともしない。
苗箱をはがす人。
苗箱を軽トラに運ぶ人。
苗箱を運搬、本番の田んぼでトラクターにのせやすい感覚で苗箱を設置する人。
それぞれ交代しながら作業した。
17時には、160箱をすべて運ぶことができた。

冒頭は、必死に苗箱を引きはがしながら出合った生き物たち。

膝をつき、腹ばいになっていたから上から下まで泥だらけ。夜は、腕の筋が痛くて痛くて……。でも苗運びの話をして、いつまでも笑っているような出来事ではあった。
1年ずつの反省をいかして、来年はもう少しマシに作業できるはずだ。


働き者の軽トラも泥だらけ。あちこちについた泥を落とすのは父。

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