見出し画像

夜間工事のランプたち

しばらくぶりにライブハウスへ。
階段を降りて、重い扉を押して、タバコの香りがして、闇と光がパキッと分かれている世界へ……
と、かつてのライブハウスのイメージを思い出し思い出し向かったそこは、昔とは違った。
開催がお昼ということもあって、ガラス張りのエントランスは陽光が入り、やわらかい空間になっている。中に入ってもタバコの香りはしない。

会計を済ませ、ドリンクチケットをもらって、カウンターバーのお兄さんに「ジャスミンハイ」を頼む。わたしゃ、もう「ジントニック」じゃないのさ。ふふん(学生の頃、嫌ってほど飲んでた)。

このたび、ライブを観るという素敵な機会をくれたのは、音楽家・小田晃生さん。8月に、八ヶ岳のキャンプ場・ist - Aokinodaira Fieldでのライブを体験し、すっかりファンになった。
生で小田さんの歌を聴くのは、夏ぶりだ。あのときは、ソロの弾き語りだった彼の歌は、このたびバンド編成になるという。
たおやかでたくましい、そして小さくて繊細なことも表現する小田晃生さんの曲。その歌声は“歌と唄のあいだ”みたいで、歌詞と音の世界を行き来しながら聴けるのが心地いい。

「名無し」という曲をうたう前に、小田さんは言った。

「夜、クルマを走らせていたとき、赤信号かなんかで止まったんでしょうね。工事をしていて、いくつかのコーンが並んでいて、その上がそれぞれ光ってた。パ、パ、パ……って点滅してたんです。で、その点滅がパ、パッ、パパ……パパ、パッ、パって隣同士でずれるんですよ。あれって一定のリズムじゃないのね〜って思って」

音楽家が見た、夜の工事の風景はこうなるのか……! リズムか〜。

「曲の題材になるようなもの、日々思い浮かんだことをメモにとるようにしているんですけど、たまにメモをするのを忘れちゃうことがある。あのときのあの感覚って何だったっけ? って思うことがあるんですよね。そういう僕の前を通り過ぎていったものたちのことを曲にしたのが、次の曲です」

いまある世界をめくって、別のものを見つけようとするひとのうた。
手にしそびれたものごとたちにまで、思いやりを向けるひとのうた。
わたしもそんな風に「名無し」を愛でたいと思ったのだった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?