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嬉しくて恥ずかしい

石川県七尾市。
のと鉄道にゆられ、わたしたちは笠師保(かさしほ)駅へ降り立った。わたしたちとは、学生時代のアルバイト仲間だ。バイト先は居酒屋、もう20年くらい前になるのか。
かなり久々の顔合わせなはずなのに、ちっともそんな感じがしない。
わたしたちが向かったのは、オーベルジュ「Villa dera Pace(ヴィラ・デラ・パーチェ)」。かつてのバイト先の後輩である、メイジュが営む宿泊できるレストランだ。

笠師保駅に迎えに来てくれたメイジュと会うのは何年ぶりだろう? 一緒に働いたり、ふざけたりしていた学生の頃と何にも変わっていない、と言いたいところだが、メイジュはすこし凛々しい顔つきになっていた。
駅からクルマで5分ほどのところに、メイジュのお店はあった。
もともと白砂の海水浴場の海の家だったという建物をレストランに改装。能登半島の入江の奥にあって、窓から静かな海が一望できる。

メイジュは挨拶もそこそこに、コースの料理を出してくれた。プロのソムリエ・シオジさんが料理の説明と、とびきりのナチュールワインを出してくれた(種類もたくさん飲みました……!)

そんななかで、わたしたちは学生の頃となんにも変わらない、みたいな風にして当時の思い出話や冗談話を続けた。出てくる料理を味わっては感動し、はしゃぎながらも、ずっとしゃべっていた。立派になった後輩の姿を目の当たりにし、うれしかったし、なんだか照れくさかったから。

50種類の野菜を異なる調理法で味付けした、とんでもなく手間がかかったサラダが出てきた。
サラダには「畑」という名が付いていて、ひとつずつ生産者のところへ行ってメイジュが選んだものだと言う。50種類もあるというのに。

食材だけでなく、器やカトラリー、この場にあるすべてのものが地元の作家たちによってつくられているようだ。ひとつひとつの作品と作家名もメニューに記されているから。
足を運んで、一人ひとりに出会ってきたんだねえ……。

***

夜は、隣接するVillaにて酒盛り。この人たちはよく飲むのです。仕事を終えたメイジュも顔を出してくれた。
そしてやっぱり、わたしたちは昨日のことのようにバイト時代の話をし続けるのであった。

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