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舞台「LOOSER〜失い続けてしまうアルバム〜」を再び観た話

初演を観た者としての不安と期待

私は今複雑な想いで、森ノ宮ピロティホールのとある席に着いている。
これから私が観ようとしているのは、過去にTEAM NACSが初めての全国公演を行った演目の、部外者による再演だ。なかなかに珍しい事なので、当時を知る者の一人として観ておくべきだろうと思ったのである。

初演当時の私はと言うと、北海道の様々な小劇場を観て回っていた。劇団イナダ組劇団千年王國ほか、北海道の演劇シーンがやたら元気で充実していた時代だ。石造りの倉庫を使った芝居小屋コンカリーニョが、タワーマンションに建て替えられるために一旦閉鎖になったり…… まあこの辺りは長くなるので止めておこう。

TEAM NACSの演目は基本的に、彼ら自身のキャラクターを生かしたものが多い。
初期は客演を迎えた割と「普通」の演目が多かった。四組の男女のカップルを描いた「LOVER〜想い続けたキミへの贈り物〜」や最大の客演数を擁した「WAR〜戦い続けた兵たちの誇り〜」。WARは全員男性でむさ苦しいことこの上なかった、ではなく圧巻であった。
そういった試行錯誤から佐藤重幸(戸次重幸)作・演出の「ミハル」を経て、メンバー5人だけの劇として特化したのがこの「LOOSER〜失い続けてしまうアルバム〜」 なのである。

よくこれの再演をやろうと思ったな、というのが、公演情報を知った時の感想だった。
幕末の騒乱と現代が交差するこの物語は、登場する人物の数が多く、五人でそれを切り替えながらやっていかなければならない。そして、それが話のキモであり観客を罠に落とし込む装置でもある。
さて、上演時間が近づいて来たので、取り敢えず一度スマホの電源を切って観ることにしよう。

再演を観ての正直な気持ち

幕末の二つの勢力をそれぞれの視点から描いた二時間強の演目が終わり、帰りの道すがらこの文章を再び書き始めている。
この面倒な演目をよく頑張って演じきったなと驚きの感情が支配し、再びLOOSERを観られたことへの感謝の念から思わずパンフレットを購入してしまった。宝塚のパンフレットの二倍以上の値段にも関わらずだ。
原作通りに五人で演じ切ったことも驚きだが、元の舞台を尊重した上で演出が豪華になっているのも良かった。とにかく元作品に対するリスペクトが感じられた。

主役であるシゲは言わば「日々に閉塞感を覚える、何処にでもいそうな普通の青年」を体現しており、言い方を悪くすると誰が演じてもおかしな事にならないキャラクターである。
その辺り崎山つばさは非常に塩梅よく演じていた。きちんと「崎山つばさが演じるシゲという人物」になっていたのだ。
普通を演じることはとても難しい。それを演じきれたことは素晴らしいと思う。

問題は原作で大泉洋と安田顕が演じたキャラクターである。
両者を俳優として存じている方ならわかると思うが、とにかく個性が強くて濃ゆいくどい。森崎博之が脚本を手がける際はその個性を最大限に生かす為、個性の暴走機関車になりがちである。
ではその二人を他の人が演じたらどうなるか?
今回は二人の演技をトレスする形で処理したようだ。そのせいか二人が出てくるたびに、どうにもこうにもあのモジャ毛と変態の顔が頭にチラついてしまった
本作で大泉洋が演じた土方歳三役は鈴木裕樹、安田顕が演じた芹沢鴨は株元英彰が担当している。
はっきり言ってモジャ毛や変態よりはるかにイケメンだ。演技そのものも当時の彼らより上手いかもしれない。
それでも越えられない壁があった。
それだけ大泉洋と安田顕がとんでもない役者である事を、再認識したのである。

最後に

今回演出を心がけた方は、TEAM NACSをよく知る方である。それ故に改変し辛かった部分も有ったと思う。
今はただ、新鮮な顔ぶれでLOOSERを再び観られたことに感謝している。改めて良い演目だったんだな、とも再認識させられた。

最近宝塚方面に足を延ばす事が多かったため、男性若手俳優に関しての知識が不足気味になっていた。主役の崎山つばさ氏に対しても「2.5次元の人」という知識しか無かったため、観るかどうか悩んだのも確かだ。
懐が厳しいのでなかなか難しいけれども、もっと多くの舞台を観たいと私の心がウズウズしている。

ホントに舞台って面白いなぁ。

TEAM NACS版もよろしくね。




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