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アメリカの光と影(1)

日本のニュースで見るアメリカはカッコよくて、愉快な人が沢山いて、世界のリーダーに見えると思います。
自分もそれに憧れてアメリカに来たクチですが、実際に暮らしてみると色々見えてくることがあります。
これはもちろん海外の人が日本に抱くイメージと、我々が知る日本の現実とのギャップと同じだと思うのですが、とにかく感じた事を書き残しておきます。

テック企業の光と影

アメリカには沢山のハイテク企業があり、最近ではChatGPTを開発したOpenAIも有名ですが、言わずと知れたGAFAMなど世界に広くビジネスを展開する巨大企業が目白押しです。
そういった企業は莫大な収益を生んでいて、優秀な人材を獲得するためにびっくりするぐらいの高給で社員を雇い入れます。
例えばサンフランシスコ地区のGoogleでの賃金相場を調べると、最低はJanitor(掃除人)の$55,764(約725万円)となっています。学生のインターンでも10万ドル(1300万円)を超える給料がもらえるようなので、日本のイメージとはかけ離れています。

さぞかし輝かしい生活が送れるのだろうなぁ…と思いますが、実はアメリカの学卒、院卒の社会人は膨大な額の学生ローン(全米平均で一人当たり$28,950:約376万円)を抱えている人も多く、さらに都市部での信じられないぐらいの家賃と物価高に悩まされていて、決して裕福な生活が保障されている訳ではありません。

しかも恐ろしいことに、アメリカには日本のような労働基準法がなく、あくまで雇用者(企業)と被雇用者(従業員)の契約で成り立っています。就職する際には必ず雇用契約書にサインするのですが、そこにはいつでも契約を終了できる事が明記されていて、いつでもクビになるリスクがあるのです。(よく映画である「You are fired!」というヤツです、そこまで極端なケースは私は見たことがありませんが…)
また、人事のことをHR(ヒューマン・リソース)と言うだけあって、企業にとって従業員は電気やガスと同じ「リソース=経費」にあたり、業績が厳しくなったら経費削減の効果的な手段として「レイオフ」が行われます。
もちろん経営者によって日本のようにギリギリまで従業員を守る会社もありますが、巨大企業では業績がさほど悪くなくても容赦なくレイオフがあります。
2022年には9万3000人がテック企業で職を失い、2023年にはこれまでで約14万人が失職したそうです(データ)。
一方で、業績が回復したらまだ素知らぬ顔で大量に人を雇うのがアメリカの雇用市場なので、仕事をクビになってもあっけらかんとしている人が多いのも事実ですが、日本の感覚で仕事をしているとショックを受けます。

ツイッターはイーロン・マスクが買収してから5000人以上をレイオフしました

億万長者とホームレス

フォーブスが発表した世界の長者番付では、ビリオネアと呼ばれる10億ドル以上の資産を持つ人は、アメリカ人が735人と最多で、それに中国(495人)、インド(169人)が続いています。日本人は14位(40人)らしく、やはり日本が足踏みをしている間に多くの国に追い抜かれてしまったようです。
トップのイーロン・マスクは1800億ドル(約23兆円)というとんでもない金額の富を手にしていて、アマゾンの創業者であるジェフ・ベゾスやマイクロソフトのビル・ゲイツなども巨額の資産を一代で築き上げました。
また、世界一の投資家として有名なウォーレン・バフェットもバークシャー・ハザウェイという企業を一代で築きあげましたし、アメリカン・ドリームというのは都市伝説でもなんでもなく、努力すれば大きな成功を手に入れることができる社会であり、失敗しても何度もやり直しができるのもアメリカの素晴らしいカルチャーだと思います。

一方で、いまアメリカの都市部で大きな問題になっているのは、大量に発生しているホームレスです。
日本でも昔ホームレスが大きな問題になっていましたが、15年前に1万8000人いたのが今では3,500人ほどまで減少しているそうです。しかし統計に表れない潜在的なネットカフェ難民のような人も多いそうなので、実際にはもっと多いのかもしれません。
しかしアメリカでは桁が違っていて、2022年の集計では57万7000人ものホームレスがいるとされており、カリフォルニア州だけで11万人となっています。
アメリカの人口が3億3000万人ほどで日本の3倍近くはあるものの、このホームレス人口はものすごいものがあります。
実際に私が生活しているサンフランシスコでもホームレスは日常の風景の一つであり、街を歩いていると必ず何人ものホームレスを見かけます。

これはサンタクルーズ市のホームレス地区

アメリカでは2016年頃からホームレスが増加しているそうなので、必ずしもコロナだけが原因ではないようです。調べてみると、根本的には必要な住宅の不足と家賃の上昇が関係しており、更にはアフガンなど世界の紛争地から帰還した軍人のPTSDなどからドラッグに手を出してしまい、普通の生活が送れなくなった人も多いと聞きます。

サンフランシスコではテンダーロインという地区にホームレスが集中していて、昼夜を問わず大量の(本当にたくさんの!)ホームレスの人たちが徘徊しています。
ボランティアの人たちも多くいてできるだけのケアをしていますが、ホームレスの人達はドラッグ中毒で社会復帰できないケースが多く、中でもフェンタニル(Fentanyl)という鎮痛剤を過剰服用して死亡する事例が増加しており、アメリカでは年間7万人もの人が命を落としているそうです。
治安の悪化でテンダーロイン地区にはドラッグ(麻薬)の売人が入り込むようになり、とても大きな社会問題に発展しています。
その為、この地区の治安回復のためにドラッグの売買を撲滅するために5月1日からNational Guard(国家警察)が投入されています。

このように、アメリカにはまぶしいぐらいの栄光や素晴らしい人生を歩んでいる人も沢山いる反面、その闇はとても暗くて深く、日本の比ではありません。
それによってアメリカが悪いと断定するつもりはないのですが、この国で生きていくためにはそれなりの覚悟や割り切りが必要だということは言えると思います。

テンダーロイン地区の近く。
閉店廃業している店も多く、殺伐としています。





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