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Machine of the Eternityー黒い剣士と夜の月ー

初めにー

心臓部の核の力により人と見紛う容姿をもつ<永遠の人形(エターナルドール)>のイオはある日黒い髪と瞳を持つ希少民族<倭民族>の青年、満長誠を死の淵から救い出す。
そこから便利屋として過ごすイオのありふれた毎日が大きく変わり出す。

誠の依頼とその決断はーーー・・・・?
人と機械とが共存し合う未来を描いた世界で人造人間と希少民族の青年との絆を描いたファンタジー作品。

「報酬次第だーーーー」

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2012年文芸社より出版した作品を大幅に改変し始動。


プロローグ

さて皆さん。今日は私は機械の街ベルヘムにお邪魔しています。今回はこの街の繁栄を生んだ世紀の大発明〈永遠の人形(エターナルドール)〉のお話をしましょう。

突然ですが皆さんはこんなことを考えて事はありませんか?
人はなぜ、永遠の命を手にできないのか、と。

人間の成分はカルシウム・ナトリウム・酸素・炭素・水素・窒素その他諸々。
皆さんのお小遣いでも充分に調達出来るものから形成されていますね。
しかし、皆さんがご存知の通り、この成分で出来ているが故に人は老い、病、怪我などで死を迎えます。だからと言って一つでも欠けてしまえば人が生まれることはないでしょう。これはごく当たり前の自然の摂理。正に生命の神秘。今の人の力で永遠を生きる人間を作り出すことなど不可能だ。と言うのが世の定説です。
しかし、その不可能を可能にしたのは我らが繁栄の創造主カイン・レンブロンです。彼は平凡な街に生まれたいたって普通の技術者でした。そして、平凡故に彼もまた永遠の命意味を望んでいたのです。そんな彼が創造主と呼ばれる存在にまでなり得たのは、ある日、戦争の爆撃によって右腕を失った兵士に、世界初の脳から発する電気信号と連動した義手を与えたことから始まります。人の足りない部分を機械で補うという新たな思想。そして気が付いたのです。機械技術と人間との融合。それこそが永遠の命を持つ人間を人工的に生み出すことが出来るものなのだと。
カインはまず、医師の協力のもと、機械で代用が可能となる臓器を次々と生み出しました。脳信号と連動した義手の大量生産を既に確立していた彼にとってそれは容易な物であったと後に本人が語っています。そして、臓器の機械での代用が生身の人間の三分の一を超えたところでカインは最難関にして最重要の臓器、心臓を生み出す事を試みたのです。それこそがいま我々が〈核(コア)〉と呼ぶ永遠の人形の心臓なのです。研究期間はなんと25年。そして更に5年の歳月を経てカインは永遠の人形の開発成功を全国に発表しました。
生身の人間と寸分違わぬ成分をを使用することによって確実に人間にしか見えない外見、なめらかな関節の軌道揚力により人間としての動きの繊細さを忠実に表現。その技術は技術者、研究者であれば誰もが望んだものでした。
しかし、人間離れした治癒能力、不老の身体、豊かな感情表現を成す事の出来た永遠の人形の感情の大本でもある<核>の制作技術は本来神にしか成せない技とまで言われ政府からの命により国家機密となり、当時はカインの認めた一部の研究者、現在は彼の儲けた研究機関と国が定めた最難関国家資格と技術実績をもつごくごく一部の人間しか開発方法を知ることが出来なかったのです。
その後彼のその半世紀にもわたる研究は賛否両論をもたらし世界を揺るがせました。危険地帯などへの労働要員、ボディーガードや救助隊員に起用し、高性能機器としての使用。例えば脳に難易度の高い手術の技術をプログラミングし行わせることにより、成功率は確実に向上しました。このように様々な使用用途が様々な人によって検討され、希望されました。しかし、逆に様々な問題も世間では浮上したのです。研究段階や永遠の人形がこの人間界で生きていくうえでの人権問題、使用用途、人口増加、医療問題、処分方法などなど。挙句の果てには永遠の人形の製作反対を呼び掛ける抗議運動までもが始まってしまったのです。
しかし、彼は実に野心家でした。その本性を現すのにさほど時間はかからず、あくまでも自分のために永遠の人形を生みだすのだと世間の懸念も希望もまるでお構いなしに永遠の人形を増やし続けたのです。もちろん世間の反感はすさまじいものでした。しかし、永遠の人形の完成発表は衛星を介したテレビ中継で行ったため研究所の所在地は不明。開発当初の研究員の身分、研究協力者、パトロンまでもが謎に包まれ、カインを止める術などありませんでした。そして、人々が気づかぬ間に永遠の人形は私達の生活の一因となり、その存在が当たり前になっていったのです。今では、カインの遺志を継いだ研究員たちが〈永遠の人形〉を生産、販売を行い永遠の人形を自由に作れる時代が来たのです。

――――では皆さん、ここで問題です。
カイン・レンブロンが生涯を費やした永遠の人形の研究。しかし、その究極の研究にカイン自らピリオドを打つことはできませんでした。それは、彼が後世に託すとまで遺言に記したやり残した研究があったからです。では、その後「カインの宿題」と言う名のついた今や研究者達が彼の後に続こうと躍起になっているその研究とは何の事でしょうか!

―――はい、正解は『怒り』『悲しみ』『痛み』のコントロールですね。技術科選考者の皆さん、入試の必須事項ですから、よーく覚えておいてくださいね。

さて、『カインの宿題』の話題に入ったところで一旦カイン・レンブロンから話題を変えましょう。先程言ったように、カイン・レンブロンは謎多き研究者。研究員はもちろんのこと彼の家族、肉親についてもその所在は誰も知りません。情報を少しでも手に入れたら家族、知人友人全て惨殺という説も一時期囁かれましたよね。そんな中、 世界公認のカイン・レンブロンの後継ぎとまで言われ、カインの宿題を研究し続ける人がいます。

―――そう。かの有名な技師であり、今や永遠の人形の研究に関して右に出る者がいないとまで言われているライディーン・クウォーツ。彼は、二十年前に最愛の一人息子が事件に巻き込まれ‥‥。

ブツン。

俺は、四六時中喋りっぱなしの教育テレビの美人解説者の顔に一瞥をくれ、リモコンを足で操作して電源を切った。テレビ局は、録画された教育番組を一体何週に渡って流しつづけるつもりなのだろうか。
まあ、首都で起きている永遠の人形の暴走事件で政治が機能していない今、テレビ局としても下手な番組が流せないのだろう。テレビは今どのチャンネルもニュースか、永遠の人形の性能や構造を事細かに説明した教育番組か、首都で暴走しているものは違法改造されているので我社の人材となっている永遠の人形は大丈夫ですよ。といったCMが延々と流されているばかりだった。

「‥‥あ」
新聞のテレビ欄の味気無さと比例する世間のテレビ局への避難を想像しながら、煙草の箱を手に取った。そして、開ける前に空だったことに気づく。ストックも切れている筈だ。
足の踏み場もない部屋を掻き分け、床に散らばった小銭をポケットに突っ込んで部屋を後にした。