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分かり合えたと思ったその瞬間にすれ違う

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映画「ちひろさん」(監督 今泉力哉)

劇中、主人公ちひろ(有村架純)が風俗嬢をしていたときのシーンで、ちひろに膝枕された客が呟く。

「人は皆、人間という箱に違う星の人の魂がそれぞれ入っている。だから分かり合えなくて当たり前……」

たしかに言い得て妙である。たとえ親兄弟であっても所詮、違う星の住人なのだ。分かり合えるわけなどない。

私の人生を振り返ってもそう思う。父も母も兄も同じ星の住人だったとは思えない。おそらく死んだ妻ですらも──。娘や息子はそうであって欲しいとは思うものの、彼等からしたら、同じ星? とんでもない、と思うのだろう。

まれにこの人は同じ星の人ではないか、と思えることもある。とりわけ恋愛初期の男女はそう勘違いしがちだ。だが、早晩違う星の住人であることを知る。

それでも非常に少ない確率で、同じ星の住人と思えることもある。ちひろにとっては、幼い頃に出会った元祖ちひろ──ちひろは彼女の名を拝借して源氏名とした──と、弁当屋の目を患った年老いたおかみさんの二人だ。

だが、そうした同じ星と思える人と出会い親しくなれたからと言って、必ずしも居心地が良いわけではないのだ。それは、どこか自分を見透かされているような居心地の悪さかもしれない。あるいは、そう思った瞬間にすれ違いが始まるからかもしれない。

親しくなればなるほど、いずれやっぱり違う星の人だと思う瞬間がやってくる。分かり合えない方が自然で当たり前──そう思って生きる方が楽なのだ。たとえ、どんなに寂しくてもだ。

いずれにしても、ちひろは旅立った。分かるような気がする。

画像引用元 ひとシネマ

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