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エロさの裏側に垣間見えるのは?

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小説「Red」(島本理生)


読みだして数十頁で感じたのは──エロい……。

まるでアダルトビデオを観ているかのようだ。性行為の描写については、これまでにもいろんな作家のそれに触れているが、ここまでではなかったように思う。いや、描写だけならもっとすごいのもあった。官能小説家と呼ばれる人たちの描写は、もっと率直で具体的だ。だが、それら以上になまめかしく感じる。

それは一つには、女流作家によるものだということがある。男目線で作られるAVとさして変わらないということは、なんだ、女性の目線も同じなのか……と思わせる(もちろんそれは半分当たっていて、もう半分は決定的に間違っている)。

もう一つには島本理生という作家だからというのもある。彼女の作品は「ナラタージュ」と「波打ち際の蛍」くらいしか知らないが、こういうイメージではなかったはずだ。巻末の解説では「傷つけられた過去を持つ少女」から「傷つけることができる立場の大人の女」への過渡期の作品と位置付けている。

そんなわけで私の中の女流作家・島本理生のイメージとは異なる性描写に興奮して、頁を繰る手が止まらなくなる──ということにはならなかった。逆である。この本に関しては、そうしたシーンをその先に予感するたびに、なぜか息苦しくなって本を閉じてしまいたくなった。いや実際に何回も閉じた。

この主人公のように人目を憚る関係というのは、多くの人が経験していると思う。ネット上でちょっと調べただけでも、例えば就労している既婚女性の46%が不倫を経験しているそうな。不倫の定義もあいまいだし、ちょっと盛り過ぎの数値のような気もするが、特別なことではないのは確かだろう。

だが、不倫に限らず道ならぬ関係というのは、行くところまで行かずに終えることができれば、むしろ人生を彩る思い出として、その後キャラメルのように長く味わうことができる。しかし、それができずに行くところまで行ってしまうと、必然的に悲惨な結末を迎える。

エロさは、それを予感するからこその代償である。裏を返せば私の感じた息苦しさの原因もそこにある。

誰かが言っていた。

「体の関係がなくなれば不倫は終わる」

あとは長い時間をかけて風化するのを待つだけだ。この主人公のように。

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