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気候テックブームの現状分析

1. はじめに

インターン生の早舩です。今回は、海外のレポートを参考に気候テック(Climate Tech)についての記事を執筆しました。気候テック世界的な気候変動の問題を解決するため、CO2排出量の削減や地球温暖化の影響への対策を講じるテクノロジーのことを指しています。

そして、前回のnote「【10月まとめ】海外資金調達レポート」において、脱炭素・エネルギーに関する調達が多く見受けられるなど、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、多くの気候テックに関する技術が発達してきており、一大トレンドとなっています。


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2. 第一次気候テックブーム(2006~2011)の振り返り

覚えている方も多いかと思いますが、米国において2000年代後半にも気候テック(旧クリーンテック)ブームが広がっていました。当時は、シリコンバレーのVC企業が気候テックの領域にどんどん参入していき、IPO企業も数多く誕生しました。更に当時の米大統領であったオバマ大統領がグリーンニューディール政策を実施し、様々な補助金を市場に投入していました。また、一般消費者もアル・ゴア氏の映画『不都合な真実』をきっかけに気候変動に対する意識が高まり、ソーラーパネルやバイオ燃料などが身近な存在になっていました。
しかし、次第に多額の資金の必要性・開発期間の長さなどの課題が浮き彫りになり、2011年の終わりには、気候テック企業の株価は落ち、過去10年間にシリコンバレーで設立された多くの再生可能エネルギー新興企業は境地に立たされ、ブームは次第に衰退してしまいました。


3. 最近再注目されている気候テック

しかし、2015年のパリ気候変動サミットで、43カ国が2050年までに二酸化排出量をゼロにする事が発表され、気候テックが再注目されています。米国VCの動きを見ても、2015年から2021年の間に調達額は3倍投資額は5倍以上に増加しています。タイガー・グローバルやテマセク・ホールディングスなどの大手投資家も参入しており、それらのディールサイズの中央値はそれぞれ$100Mと$207Mに達しています。

4. 目標とのギャップ

2050年でのカーボンニュートラルを目指して、各国は様々な施策を打っていますが、現在の政策下と目標達成にはまだまだギャップがあります。現在の政策のままでは、2100年に2.9℃の温暖化に見舞われ、海洋生態系の崩壊や海面上昇23フィート(約7m)以上といった深刻な事態が予想されています。そして、現在の二酸化炭素排出量は年間55(GtCO2)ですが、温暖化を1.5℃に抑えるためには、二酸化炭素排出量を年間25(GtCO2)まで抑えなくてはいけません。そしてその差の30(GtCO2)を削減するには、この分野に年間$2.1Tの追加費用が必要だと試算されています(現在は$3.5T)。

5. ハイプ・サイクル

現在、様々な気候関連技術が開発されていますが、それらをハイプ・サイクルで見てみましょう。

The Future of Climate Tech report
Silicon Valley Bankより参照

ハイプ・サイクル(hype cycle)
ハイプ・サイクルの図は、曲線を使って新技術の登場によって、関心が高まり、期間と誇張(「ハイプ」)が高まり、やがて失望を経て安定するまでを説明しています。技術がいつ、どのように次の段階に進んで利益を生み、社会に受け入れられていくかも示しています。
1. 黎明期(Technology Trigger)
2. 過度な期待のピーク期(Peak of Inflated Expectations)
3. 幻滅期(Trough of Disillusionment)
4. 啓発期(Slope of Enlightenment)
5. 生産性の安定期(Plateau of Productivity)

株式会社シナプス
マーケティング用語集より引用

気候関連技術のほぼすべてが、今後10年のうちに規模を拡大する位置にありますが、電気自動車(EV)は、多くの気候関連技術の将来の軌跡を象徴しています。EV を実現する技術である電池は、過去 15年間に改良され、規模が拡大してきました。バッテリー技術が成熟すると、VCによる多額の投資が続き、EVのトレンドは大きくなり、ほぼすべての主要自動車メーカーがこの動きに追随しました。そして、この産業の移行を支えるために、インフラとサプライチェーンは継続的な投資で規模を拡大する必要があります。


6. 創業メンバーのバックグラウンド

気候テックは、先端材料科学・原子力工学・海洋生物学など、幅広い分野にまたがっているため、創業メンバーは通常、大手ハイテク企業からスピンアウトしたエンジニアと、学術研究の発展を目指すさまざまな科学・工学分野の博士号取得者で構成されています。また、数十年にわたる伝統的なエネルギー産業の経験を活かして、自然エネルギーを主流にしようとする石油・ガス業界出身者も見受けられます。

このような人材を育成するために、 現在米国では96の大学がサステイナビリティを専攻科目を提供しています。例えば、起業家の卵を大量に輩出するスタンフォード大学では、2022年9月に気候変動学部を開設し、既存の取り組みを集約・発展させる予定です。


7. ボトルネック

気候テックは"ディープテック "と呼ばれる科学的な発見や革新的な技術を活用する事が多いですが、このようなディープテック・ソリューションは開発に多大な時間と資本を要します。また、研究室での科学を工場生産にまで拡大することへの難しさ・比較的短期間でリターンを目指すVCとの相性の悪さもまたボトルネックとされています。さらにディープテック全般に当てはまる事が多いですが、ソフトウェアのように拡張性がなく、利益率も比較的低いという事も指摘されています。

8. 注目テクノロジー(米国)

8.1 炭素回収・CCUS技術

現在の炭素回収市場の大部分は、自然を利用して炭素を貯蔵していますが、貯蔵だけでは経済的に成り立ちません。よって、炭素を燃料、化学物質、先端材料などの使用可能な製品にリサイクルするようなCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)テクノロジーが必要とされ、2021年には、100カ所近くの新しいCCUS施設が建設されました。しかし、現在の技術では、温暖化を1.5℃に抑えるために必要な炭素回収のういわずか12%しか回収できないと推定されています。また、最近主要な二酸化炭素排出者・組織がゼロエミッションの達成を約束する中でカーボンクレジットの需要も高まりつつあります。


注目企業
Lanza Tech
Solugen
Newlight

8.2 水素燃料

水素燃料は何十年も前から存在していますが、商業化に至るまでには、十分な市場規模・インフラ整備・水素燃料の持続可能性などが必要です。
現在は、水素を製造・輸送・利用するために必要なインフラは限られており、米国では2013年から水素自動車が市販されているものの、充電ステーションは52カ所しか存在しません。しかし現状を打破すべく、米国では超党派インフラ法の一環である「ハイドロジェン・ショット」プログラムに80億ドルを割り当て、グリーン水素のコストを10年以内にキログラム当たり1ドルまで引き下げることを目指しています。

注目企業
Monolith
H2Pro
Hyzon

8.3 AgTech

食料システムは、土地利用・農場での排出・生産前および生産後の排出から、世界のGHG(温室効果ガス)排出量の3分の1を占めています。課題は、有限な作付面積で増加する世界人口に食料を供給しながら、これらの排出量を削減することです。この問題の解決策は、より効率的で持続可能な生産方法を用いて作物収量を増加させることです。MITの地球変動に関する共同プログラムでは、1.5℃の温暖化シナリオでは、 2050年までに農地1エーカーあたりの生産量を77%増加させる必要があると試算しています。

注目企業
Pattern Ag
Bowery
Pivot Bio

8.4 グリーンセメント

水に次いで、コンクリートは世界で最も消費されている材料です。セメントの生産は温室効果ガス総排出量の8%以上を占めているのですが、技術革新によって排出量を76%削減できる可能性を持っています。例えば、セメント生産に伴う排出物の大部分は高温の工業加熱を伴う工程から排出されているので、この工程で水素燃料を使用することで、セメント生産におけるGHG排出量を削減することができます。

ただ、2021年の12件のディールのうち9件が助成金による融資を受けているなど、急成長しているとはいえこの分野へのVC投資はまだ比較的小規模で、企業の大半はまだ開発段階にあります。そのため、スタートアップ企業には十分なチャンスがあると言えるかもしれません。しかし、コンクリート業界はHolcimやAnhui Conchといった少数の大手企業が利益率の低い業界を支配していることには注意が必要です。

注目企業
Solidia
Brimstone


参考文献(目次番号[]と参照した資料一覧)

[2] Venture Capital and Cleantech: The Wrong Model for Clean Energy Innovation. An MIT Energy Initiative Working Paper (2016).
[3,4,5,6,7,8] The Future of Climate Tech report(Silicon Valley Bank)

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