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色の力は大きな価値。今、なぜ「白」が注目されるのか。

2024年6月、樹脂の着色剤メーカー・オーケー化成株式会社とJAFCAとのコラボレーション商品として、「白」に特化した樹脂素材のCMF見本『白の標本』を発売する。Vol.1 “MATERIAL”は、12種類の樹脂で24通りの色と質感を表現。今後さらに色みの違いや透明感、加飾のバリエーションを加えてVol.4まで、全100色の標本が展開される予定だ。今回の対談では、JAFCAディレクターの大澤かほるとオーケー化成営業部・カラーデザインチームの浜辺久美子氏が、今、なぜ「白」が注目されるのか、その背景と動向について語り合った。

オーケー化成 営業部 カラーデザインチーム チーフカラークリエイター 浜辺久美子 
一般社団法人日本流行色協会(JAFCA) クリエイティブディレクター 大澤かほる 

コロナ禍を越えて、
世界的に「白」が求められている

JAFCA 大澤(以下大澤)
今日はよろしくお願いいたします。さっそくですが浜辺さんは日々、オーケー化成の営業部・カラーデザインチームとしてお仕事をされていますが、白という色について、最近はどのように感じておられますか?
 
オーケー化成 浜辺(以下浜辺)
はい、よろしくお願いします。コロナ渦以降、白の人気が急激に高まっているということを実感しています。理由として考えられるのは、まず清潔感。そして他の色との調和のしやすさということがあると思います。店頭でも化粧品のパッケージや生活雑貨など、白が使われている商品をよく目にします。
 
大澤 インターカラー※では、2024年、今年に向けて「白」が注目されています。「スペクトラム」というタイトルをつけて、光の白、始まりの白、原点回帰の白、知性の白・・・など、ニュアンスのあるさまざまな白が提案されています。
※インターカラー/世界17か国が加盟、年2回2年先の時代背景、市場の動向を見定め、色彩志向の方向性を検討、市場の水先案内となる色を選定する。
 
浜辺 2024年春夏のJAFCAのセミナーで「白は“新しいキャンバスに描く”とか“新しい時代に飛び込んでいく”というように新しい何かを象徴する色」というお話がありました。今、日本でも様々な業界で「新時代」という言葉がキーワードになっていると思うのですが、そのことと関係があるのでしょうか。
 
大澤 もちろんあります。まず新型コロナ感染症の蔓延は、世界的に大きな衝撃でしたよね。それに伴って様々な場面でデジタル化が進み、社会のあり方がものすごい勢いで変化していきました。その中で人々の意識として、「原点回帰」とか「これまでの概念を捨ててゼロから始める」など、白が持つイメージと共通するものが生まれたのだと思います。
 
浜辺 なるほど。日本だけでなく、世界的な流れなんですね。
 
大澤 はい。そんな中で発表された『白の標本』は、デザイナーさんなど商品企画をする側の人たちと、実際に現場で樹脂の色をつくる人たちとをつなぐ、大切な役割を果たすと確信しています。一般的には両者が直接話をする機会って、あまり多くないのではないかと思うのですが、浜辺さんたちカラーデザインチームは、企画側の人と直接話をして要望を聞いたり、さらに色のご提案などもされているんですよね。
 
浜辺 はい。私たちも5,6年前までは、お客様から紙などで色見本のチップをいただいて、それに合わせて色をつくるという従来のフローで仕事をしていました。ところが技術の進歩に伴って、樹脂にも様々な素材が生まれ、色の選択肢も増えていき、これまでのやり方ではお客様の求められる色を正確に把握することが難しくなってきたんです。またデザイナーさんが色の指示を出す時には、通常は紙などの色見本帳を使われることが多いのですが、色見本帳には白が少ないので、特に色みの違いを伝えるのが難しいと聞いていました。さらに弊社のような着色剤メーカーとデザイナーさんとの間には、商社や成形加工会社など多くの会社が存在していて、色の指示も伝え聞きになってしまい、結果として何度も再調色、つまり色づくりのやり直しをしていたという現実があったのです。
 
大澤 それではいつまでたっても、ゴールにたどり着きませんね。素材の多様化に加えて、樹脂には透明度の違いというのもありますから、紙のチップではなかなか伝えにくいでしょう。
 
浜辺 その通りです。実際、このショールームに色を選びに来られるお客様は、紙の色見本帳では指示が難しいからと言ってこられることが多いんです。
 
大澤 今、注目されている色だからこそ、デザイナーさんも微妙な色みの違いを求められるのでしょう。それによってデザインの差別化を図れるという側面もありますね。『白の標本』の中には、マットで落ち着いた白、黄みがかったナチュラルな白、清潔感のある青みがかった白、華やかなパール調の白というように、多様な白がありますね。
 
浜辺 その違いを味わっていただくのが、『白の標本』の一つの目的です。Vol.2では“STANDARD”と題して、もっと多様な色みの白をご用意しています。
Vol.3はさらに深掘りし、“TRANSPARENT”と題して樹脂ならではの透明感の違いを加えます。透明感は紙にはできない、プラスチックの一つの強みでもあるので、そこを生かした白の表現を見ていただけると思います。さらにVol.4はパール調など加飾を施した白を提案します。

カラーデザインチームは
つくり手と技術者との間に立つ“翻訳者”

大澤 このショールームにも驚くほどたくさんの色見本が並べられていますが、樹脂に表現できることが増えたからこそ、企画側からの要望も多様になってきたということでしょうね。
 
浜辺 はい。弊社はお客様立会いでの調色も行っておりますが、それはお客様から、例えば「温かい感じの白がほしい」というような、感覚的な表現でのご要望が増えてきたという背景がありました。そこでショールームに来ていただき、実際に色見本を見ながらイメージしてもらい、その場で弊社の調色技術者がお話を聞くことにしたのです。するとお客様が欲しいと思われている色のニュアンス、質感などが手に取るように分かり、格段に調色がしやすく、逆にお客様も実際に色を見ることでイメージが膨らんだり、指示を出しやすかったりという利点があったのです。このフローに手応えを感じ、次の段階として、こちらからお客様にプレゼンをしに行くようになりました。その時に立ち上がったのがカラーデザインチームです。
 
大澤 すごい!それはある意味“ものづくりの革命”とも言える画期的なことですね。
カラーデザインチームは、デザイナーさんと技術者との間に立つ“翻訳者”のような働きをする人たちだと言えますね。
 
浜辺 ありがとうございます。私たちとしても、お客様からデザインコンセプトやターゲットなどを直接お聞きすることで、提案がしやすくなりました。例えば「もうちょっと眠たい白が欲しい」とデザイナーさんから言われた時に、なぜそこに“眠たさ”が必要なのかという意図を私たちがしっかり理解できていれば、例えばくすみを足すべきなのか、半透明にするべきなのかなど、どんな要素が適しているのかが分かり、技術者に具体的な指示ができるのです。
 
大澤 今、色に一番求められているのは、色そのものというよりも、色の持つ質感やニュアンスなんですよね。質感を表す言葉って、例えば“温かい”、“ふんわり”、“ツヤツヤ”などのように、形容詞やオノマトペなどが多いと思うのですが、それって人によって思い描いているものが少しずつ違うんです。
そこをすり合わせていくことが一番難しいところです。色の質感をどうつくるかというのは、つまりエンドユーザーにどういう気持ちでその製品を使ってもらうかっていうところにつながる、とても大切な部分です。着色剤メーカーとして、そこを追究するチームを立ち上げられたというのは、本当に素晴らしいことだと思います。
 
浜辺 樹脂素材は新しいものがさらに開発され、またシボ加工など皮膚感覚に訴える表面加工などもどんどん出てきています。
デザイナーさんも、色や形だけでなく、触感まで追求されることが増えてきました。もちろん私たちは色の提案がメインなのですが、求められる触感を出すために、素材から提案することもよくあります。
 
大澤 見た目のデザインのみにとどまらず、皮膚感覚にまで訴えるデザインということですね。これも時代性と言えるでしょう。デジタル化が進み、身の回りの様々なものが非接触化される一方で、私たち人間は本能として、触り心地、つまり身体性を求めるのです。今後はますます“触感”が追究される時代になるのではないでしょうか。【後半に続く】

「白に特化した、プラスチックの色見本帳」発売開始。
JAFCAとOK-KASEIは、樹脂素材による白のリアルなCMF見本「白の標本」を発表します。
[ 内 容 ] vol.1  MATERIAL 基準となる白1色と12種類の樹脂で24の質感を展開します。
[ 価 格 ] 各vol 60,500円(税込み)+送料
[ サイズ ] パッケージ:約W366㎜× D250㎜× H63㎜
カプセル:W50㎜× D50㎜× H30㎜
以上を予約、限定販売いたします。第一弾は、4月末予約締切、6月以降に順次お届けします。
お申込みは、https://jafca.org/onlinestore/shironohyohon-vol-1-material/

取材日時:2024年2月1日(木) 
取材場所:オーケー化成株式会社 本社ショールーム
取材・文: 岩村 彩 (株)ランデザイン
撮影:江口 海里 (株)江口海里スタジオ


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