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映画『カラオケ行こ!』をもう一度見た〜ブロマンスに浸る

この数週間、私の頭の中は『カラオケ行こ』でいっぱいだった。
ほとんど予備知識もBLやブロマンスとしての期待もさほどなく観に行った作品に、こんなにはまってしまうとは予想外だった。
見たいものを無理して我慢するのは精神衛生上よろしくないので、また観に行った。混んでいた。お客が入っている。
この映画はBLやブロマンスに興味がなくても笑ったりジーンとしたりできる、誰だも楽しめる映画だ。

しかし、私はこういうnoteを書いているので、今日はブロマンスファンとして感想を書いていきます。


既に物語を知っているのに笑えた。やはり面白い。脚本がいいのかな。
綾野剛のあのつかみどころのない感じと、聡実くんの純粋さが絡み合って病みつきになる。

最初は狂児に懇願されて仕方なく一緒にカラオケに付き合ってあげた聡実くん。
二人の気持ちが近づくにつれて、カラオケへの行き方がどんどん変わっていくのが面白かった。
最初は誘われて断わりきれずいやいや連れて行かれたのに、そのうち狂児に呼び出されていつもの”カラオケ天国”に一人で出向くようになりカラオケ天国の入り口ロビーで待ち合わせ(というか事情があって狂児が待ち構えてた)。そして仕舞いには一緒に扉を開けて楽しげにお店に入ってきた。一体どこから一緒だったのか。まさかさすがに中学校の校門前からいつもの車に乗せて来たんじゃないだろうけど。真面目で熱いハートを持ったあのかわいい後輩の和田くんに見つかったらお説教ものだよ。「先輩!そんな変な人と何やってるんですか!練習サボってどこ行くんですか!」って。

後輩・和田くんと映画をみる部の3年男子のお友達は出番は多くはないけれど、聡実と共にとてもいい味を出していた。化粧っ気など微塵もなく、髪型に凝るわけでもなく、昔ながらの学生服に身を包んだシンプルで清楚な中学生男子達は、美しく作りこまれた華やかな男性アイドルには到底出せない独特の魅力を放っている。華美なものは結局清楚な美しさには勝てないのだろうか。

どこから一緒だったかは別として、二人でカラオケ天国を訪れることはもはや日常の一コマになっていた。きっとお店の人達には”あの二人”とか言われていただろう。

怖い人たちと関わるのはいやだ。でも、狂児と二人だけなら練習を続けてもいいと、ついには自分から狂児をカラオケに誘った聡実の「カラオケ行こ」の言葉に、狂児に対する名前のつけがたい”想い”を感じた。

聡実が送った「次に会う時、元気をあげます」というLINEは、誰が誰に送ったとしても、可愛すぎて人を動揺させる。こんなキュートなメッセージを送る相手はよくよく吟味しなければいけないのに、狂児に・・・。さすがの狂児もこの無防備に可愛いメッセージに抵抗できず、ついつい校門前まで車を乗り付けてしまった。
狂児も、いつの間にかなり深みにはまっているように思えた。

合唱部の3人で揉めているところを狂児にからかわれ、聡実が激怒するシーンもよかった。お守りを投げつけたところが本当に可愛い。投げつけられたお守りを拾って帰り、大事にする狂児もいい。
元気をもらいにいそいそ出かけて行ったのに、軽いからかいの言葉が、自分ではどうしようもない悩みを抱えて悶々としていた聡実の気持ちを傷つけてしまった。すぐに謝罪の言葉をラインして来た狂児。聡実くんの「もう知らん」がかわいい・・・。頭に血が上った聡実くんがちょっと狂児を焦らせてやろうと”本番までは一人カラオケで”と冷たく返信したら、予想外に同意する狂児。いつものように「カラオケ行こう」とも誘ってこず、中学最後の合唱祭を控えた聡実の状況を思いやって一歩ひく大人の対応に、聡実くんはちょっと戸惑っていたように見えた。聡実は狂児にちょっとお灸をすえてやろうと思っただけだったのに、しばらく会えないことになってしまった二人。
ヘラヘラしてるのに、時々ふと大人の男の心遣いを見せる綾野”狂児”は油断ならない男である。

綾野剛のあの雰囲気、演技は、やはり見直してもとてもいい。原作漫画のイラストはチラッと観たけど、かなり外見は違う。あの漫画の顔から、よく綾野剛をキャスティングしたなぁと思うくらいかけ離れている。でも、漫画と違うかどうかなどどうでもいいと思うくらいに、綾野剛の狂児が魅力的だ。
どこまで本当かわからないようないい加減なことばかり言っているつかみどころのない男でありながら、どこか”哀しみ”みたいなものを纏っているように見える。これは狂児というより綾野剛の雰囲気なのだろうか。

映画の終盤、狂児が壁に持たれて聡実くんの歌声を聞くシーンがある。この綾野剛がとってもいい表情をしている。私が大好きなワンシーン。
初めてこの映画を見た後、「あのとき狂児は何を考えていたのだろうか」とずっと気になっていた。今回は注目してみたが、なんともいえない寂しげで儚げな表情で、様々な思いを含んでいるように見え、短いけれどやはりとてもいいシーンだった。
一生懸命に狂児のために歌う聡実くんの歌声を聞きながら、二人で過ごした時間に思いをはせ、ニ人の気持ちが近づきすぎてしまったことを、狂児は複雑な思いで噛み締めていたようにも見える。
狂児はただカラオケを上手くなりたいがために気軽に歌の上手い中学生に声をかけた。聡実はそのいかがわしい男とできるだけ関わり合いになりたくなかった。住む世界がちがう二人なのに、”歌”に導かれて思いもよらぬほどに心が近づきすぎた。中学最後の合唱のステージを放り出し、普通の中学生が決して足を踏み入れてはいけない場所に駆けつけ、狂児のために思いを込めて激しく歌う聡実の声を聞きながら、聡実にこんなことをさせていることに対して自責の念にかられていたのだろうか。
頼んでも嫌がって決して歌ってくれなかった聡実が、今自分のことを思いながら歌ってくれていた。その歌声の美しさ(例え高音がきつくても)に、ただただ愛おしさを感じながら聞き入っていたのかもしれない。

狂児の頬をピシャッと叩いて”本物・・・”と驚き、狂児にしっかりと肩を抱かれて顔をほころばせて泣いた聡実の純真を見た後は、歌声に耳を傾けていた時のあの狂児の寂しげな横顔が一層哀しさを増して思い出された。

永遠に会えなくなったと思った大切な人が、突然聡実の目の前に再び現れて言った。
「聡実くんを置いて、死なれへんしな」
聡実の目をじっと見つめながら狂児が聡実に優しく言ったこの言葉は、聡実にはどう響いたのだろう。

今の世の中では、家柄や身分や貧富の差が心を通わせる二人の妨げになるということはほとんどないと思われる。性別さえも恋愛の大きな障害にはならないと描くドラマが増えている。そんな今の世の中に、容易に交わることを許されない二つの別世界がある。そして、その決して軽々しく互いに足を踏み入れてはいけない別世界に住み、互いに決して関わらないようにするべき二人が出会ってしまった。恐らく誰からも肯定的には見てもらえない交際でありながら引き寄せあってしまう二人の関係は、刹那的で危険でもある。
これが恋愛なら、切ない悲恋。

かつて聡実が嬉しそうに狂児に提案した”饅頭こわい作戦”とカラオケ大会の結果を映画のエンディングで知り(一瞬のこのシーンは重要)、更に狂児の"あの呼びかけ"を聞いたら、二人の続きが見たくなってしまった。

これから先、二人はどうするのだろう。


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