『ラストオブアス2』批評と感想

 本作をクリアしてから数週間、どう評価すべきかずっと考えていた。
だが、どうにか自分の中での答えが出たように思うのでここでつらつらと書いてみたい。初めてnoteを使う上に長文を書くのも苦手なので拙いものになるだろうが、暇つぶしに読んでいただければ幸いだ。

 まず初めに一言で本作の評価を書いておきたい。
『ラストオブアス2』はシナリオの完成度の低さゆえに傑作になりきれなかった良作だ。
グラフィックの良さ、戦闘の面白さはPS4でも最高峰のクオリティだった。
前作に並ぶ、あるいは超えうる下地はあったのだがシナリオやストーリー構造がその足を引っ張ってしまったという印象だ。非常に惜しいゲームだと思う。本稿ではストーリーやキャラクターについて、いくつかの要素に分けて色々と書いていきたい。

・本作のテーマについて
 本作のテーマは“赦し”である。特に、エリーのジョエルへの赦しだ。発売前は復讐がテーマだと思っていたが、それは表向きのテーマだった。本作で最も重要な部分はラストの回想でのエリーのセリフ「一生許せないと思うけど、許したいとは思ってる」(うろ覚え)だ。
決して赦せない存在を赦すこと、それが本作で語りたいことだ。
 前作の流れを受けて本作のテーマを赦しにすることは自然な流れだろう。だが、序盤に赦しを受ける立場のジョエルを死なせ、その仇をもう一人の主人公にすることはかなり挑戦的な決断だ。しかも最後にはその仇を赦さなければならない。前作以上に完璧なシナリオが求められるし、プレイヤーの感情のケアも必要になる。あまりにも高いハードルだが、うまくいけば続編としてふさわしいものになっただろう。うまくいけば。

・本作におけるアビーの役割
 本作におけるもう一人の主人公、アビーはエリーの鏡写しの存在だ
アビーは父親をジョエルに殺され、その復讐を果たすも今度はエリーやトミーに仲間を殺される。一方エリーも父親代わりのジョエルを殺され、中盤で仲間も殺されてしまう。その他様々な点でエリーとアビーは鏡写しの状況におかれている。すなわち本作においてエリー≒アビーなのだ。
 しかし、アビーはエリーとだけ鏡写しになっているわけではない。
彼女はオーウェンを追う旅の中で敵対組織であるセラファイトの姉妹、ヤーラとレブを助ける。そして最終的には自身が所属する組織であるウルフを裏切り、レブと二人新天地を目指すことになる。これは明らかに前作主人公であるジョエルとも鏡写しになっている。
つまり、本作におけるアビーは、エリーでもありジョエルでもある存在と言える
そのアビーがエリーに赦されることで、エリーはジョエルを間接的に赦すことになる。本作で最も重要な役どころだったと言えるだろう。

・感情移入しづらい構造
 ここからは、具体的な問題点を指摘していきたい。
本作は前半がエリー編、後半がアビー編、終盤でまたエリーと、ざっくり三段階の構成になっている。プレイヤーに前半でアビーへの怒りを覚えさせるが、後半でアビーに共感させることで終盤の赦しを納得させる。そういう狙いになっているのだろうが、それが上手くいっていないように感じた。
 プレイヤーはジョエルの死に怒りを覚えるが、エリーは怒りというよりもむしろ強迫観念のようなものによって仇たちを追う。その仇たちも悪人ではなく、殺す際もスカッとはしない。悲痛な思いばかりが残る。プレイヤーは怒りを抱えたままアビー編に入ることになる。
 その時点でプレイヤーは、ここからアビーに共感するパートに入ったのだと理解する。モヤモヤした気持ちを抱えながらアビーに全力で感情移入できるプレイヤーばかりではないだろう。今まで抱えていた感情を脇に置くためにメタ的視点を持たざるを得ない。必然的にアビーへの感情移入は大なり小なり阻害される。前作主人公の仇をプレイさせるならば、ある程度プレイヤーの感情のケアをすべきだった。さらに、アビー編自体にも問題があるが、それは次項で書いていこう。

・アビーという都合のいいキャラクター
 前項で書いたように、後半のアビー編はアビーに共感させるためのパートだ。だがその目的ゆえにシナリオの完成度が低くなってしまっている。簡潔に言うと、アビーの自我が薄すぎるのだ。アビー自体は非常に魅力的なキャラクターだ。強く、仲間思いで、強い意志を持ち、繊細なところもある、などなど複雑な魅力を持っている。このキャラクターを自由に動かせば、優れたストーリーを紡ぎ出せただろう。だが前述の通りアビーには多くの役割があるし、アビーに共感させなければならないというシナリオ上の制約もある。結果として実に“都合のいい”キャラクターになってしまった。
 それが顕著にあらわれたのがアイザックが撃たれるシーンだ。このシーン自体は良いものだったが、アビーというキャラクターを描く上では失敗だった。アビーがジョエルの鏡写しとなるためにはレブを助け、組織を裏切らなければならなかった。しかしここでアイザックを撃ってしまえば憎いジョエルと同じになってしまう。結果として、アビーは当該のシーンで生きるための選択を一切しなかった。ヤーラがアイザックを撃たなければ死んでいただろう。裏切り者と善人の両立のためには他人の介入というエクスキューズが必要だった。このシーンに限らず、アビーは周りの状況に流されるまま動くことが多い。そのせいで自我が薄い印象が残ってしまう。シナリオの都合で動いているように見えてしまう。制約の多さがアビーの魅力を引き出す邪魔をしてしまったのではないだろうか。

・アビー編は帯に短し襷に長し
 アビー編の感想を述べたい。本作の約半分を占めるアビー編だが、決してつまらないわけではない。むしろ普通に面白かった。だが、アビーに求められている役割を果たすには普通では駄目だったのではないだろうか。プレイヤーにとって、ジョエルの仇という最悪の始まり方から、エリーと同等の共感を得るキャラクターになるためにはアビー編は短すぎたと思う。ジョエルとエリーは前作まるまるかけてプレイヤーの共感を得てきたのだ。それをたかだか十数時間で巻き返すなど到底不可能だ。その時点でアビーは相当に不利な状況に置かれていた。これを取り返すには完璧な質のシナリオが必要だった。だがそうはならなかった。現代パートはエリー編と遜色ない出来だったが、回想パートに圧倒的な差がある。ジョエルとエリーの博物館の回想は本当に素晴らしかった。本作の白眉と言ってもいい。が、アビー編でそれと対比されているのは水族館の回想だろうが、博物館の回想には及びもつかない。それもそうだ。私はジョエルとエリーが好きだが、アビーとオーウェンはそれほどでもない。圧倒的な好感度の差があったし、その差を乗り越えるほどの素晴らしい話でもなかった。
 できることならばアビー編は二十時間ほどかけてアビーへの共感を育ませるべきだったし、そうでないならばもっとあっさりしたものでよかった。実に中途半端な長さだ。
 個人的にはマニーとの友情をもっとじっくり描いてほしかった。アビーの仲間の中でもマニーは特にキャラが立っていたし、なによりいいヤツだった。エリー編のジェシーもそうだが、いいヤツなのにあっさり死んでしまったのがとても悲しかった……。

・ラストについて
 本作の最後の戦いは、エリーとアビーの痛ましい殺し合いだ。その最後でエリーはアビーを見逃す。そして農場に帰ったエリーはジョエルの思い出と決別し、一人歩みだす。私の本作への評価は概ねここで定まった。エリーにそこまで感情移入できなかったのだ。最終章に入ったあたりでこのようなラストになることはだいたい想像できた。そして最後の戦いで、私は二人の主人公に感情移入できず、単なる予定調和の終わり方としか思えなかった。最終章のシナリオが悪いわけではない。演出が悪いわけではない。だが、アビー編から俯瞰的に見方をするようになった私の心は、ついぞキャラクターたちの視点に降りることはなかった。
 曖昧さを残したがゆえに伝説となった前作に対して、本作は明確な答えを出している。エンディングの解釈には想像の余地は残されていない。
 二人の主人公に感情移入できたならば名作と呼べたかもしれない。本当に惜しい。最高の続編とならなかったことを心から残念に思う。

 ここまで読んでいただき、本当にありがたい。拙い文章で恐縮だが、言いたいことが少しでも伝わってくれれば嬉しい。ほとんど批判ばかりになってしまったが、もちろん良い点も多々ある。その部分だけでもほとんどのゲームと一線を画するクオリティだし、プレイして損はない。最高の技術と究極のシナリオが合わさった最強の『ラストオブアス3』を、私は期待している。

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