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英文学の書き出しその7:「ホビットの冒険」

こんにちは。こんばんは。
RAPSCALLI😊N です。

かなり久しぶりですが、英文学の書き出し7回目です。今回はイギリスの作家J・R・R・トールキンが1937年に出版したファンタジー児童小説「ホビットの冒険」の書き出しを紹介します。

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本題

 「ホビットの冒険」は、続編として執筆された「指輪物語」の3部作と合わせて、架空の世界「中つ国」の歴史を描いた世界中で大人気の壮大なファンタジーシリーズです。「ホビット」というのは人間の見た目をした、穏やかな日常を愛してやまない小人族のことで、「ホビットの冒険」はそんなホビットの一人ビルボ・バギンズが祖国を竜に追われた13人のドワーフ(ホビットよりも少し大きくて戦闘的な小人)と1人の魔法使いとともに竜を倒しにいく物語です。

 トールキンは作家であるのに加えて著名な言語学者でもあり、作中ではエルフ語やドワーフ語などの自分で作った架空の言語を用いたりしています。言語を熱心に研究してきた人間らしい優雅で明快な文章が冒頭にも垣間見えます。

 In a hole in the ground there lived a hobbit. Not a nasty, dirty, wet hole, filled with the ends of worms and an oozy smell, nor yet a dry, bare, sandy hole with nothing in it to sit down on or to eat: it was a hobbit-hole, and that means comfort.
 It had a perfectly round door like a porthole, painted green, with a shiny yellow brass knob in the exact middle. The door opened on to a tube-shaped hall like a tunnel: a very comfortable tunnel without smoke, with panelled walls, and floors tiled and carpeted, provided with polished chairs, and lots and lots of pegs for hats and coats—the hobbit was fond of visitors. The tunnel wound on and on, going fairly but not quite straight into the side of the hill—The Hill, as all the people for many miles round called it—and many little round doors opened out of it, first on one side and then on another. No going upstairs for the hobbit: bedrooms, bathrooms, cellars, pantries (lots of these), wardrobes (he had whole rooms devoted to clothes), kitchens, dining-rooms, all were on the same floor, and indeed on the same passage. The best rooms were all on the left-hand side (going in), for these were the only ones to have windows, deep-set round windows looking over his garden, and meadows beyond, sloping down to the river.

The Hobbit, or There and Back Again|J. R. R. Tolkien

 この序文を一言で表すならば「文学史上最も美しくわかりやすいお家紹介」といったところでしょうか。

 この文章を見ている不動産屋さんのみんな、トールキンの真似をしたら売り上げをのばせますよ!

 全体的な印象としては児童文学らしい丸みのある読みやすい文体ですが、その一方でなんとなく言語学者っぽさを私は感じます。具体的に言うと:とか()とかーとか記号をちょくちょく使っているところが印象深いですね。決して高度な技をいっぱい使っているわけではないですが、特に横棒とコロンとピリオドの違いなんて普通の人は上手く説明できないですから、そのあたり上手く使い分けているのはさすがだなと思います。

 一文目は極めてシンプルですが印象的な1文です。地面にある穴の大きさや形などはさっぱりわかりませんが、ただこのホビットという謎の生きものが穴の中に住んでいることが分かります。

 ここから二段落にかけてホビットの穴の描写がされていますが、1段落目では敢えて「こういう穴ではない」「ああいう穴ではない」という消去法の説明をしています。「ミミズの切れ端や泥のにおいがする汚くて、じめじめした穴」でもなく「食べる場所も座る場所もない乾いた、むき出しの砂だらけの穴」という対句構造が分かります。特に原文の”a nasty, dirty, wet hole”と” a dry, bare, sandy hole”を見ると「乾」と「湿」を対比した対句的表現であると分かります。1段落目の最後のセリフ「 it was a hobbit-hole, and that means comfort.(それはホビットの穴で、それは『快適』を意味するのだ)」という言い方もかっこいいですね。

 二段落目では実際のホビットの住居の描写がされています。この際にはドアの説明、次にトンネルの説明、次に個々の部屋の説明がされていることで、実際に読者もドアからトンネルに入り、トンネルを進んで一個一個の部屋を覗いている気持ちになれます。

 そしてこの文章から分かるのが、トールキンが描写の天才であるということ。架空の世界の中の空想上の家であるのに、ここまで緻密に描写できるのは、一見簡単そうでも意外に難しいことではないでしょうか。こういう描写がしっかりできるのが一流の作家の証のように思います。

最後に注目したいのが2段落目のこの一文

The tunnel wound on and on, going fairly but not quite straight into the side of the hill—The Hill, as all the people for many miles round called it—and many little round doors opened out of it, first on one side and then on another.

The Hobbit, or There and Back Again|J. R. R. Tolkien

 ここで個人的におもしろいと思うのが「—The Hill, as all the people for many miles round called it—」 という挿入句の部分です。ひたすら家の紹介をしている冗長な文章に挿入句が入ることで話に緩急がつき、より引き締まった文章になります。また、the hill を The Hill と書くことで意味が変わってくるのも面白いです。(the hill は単に「その丘」という意味、The Hill は「その丘」という固有名詞、要は場所の名前です)


 ホビットの冒険の冒頭について意見を交えながら話してみましたが、いかがだったでしょうか。続きが読みたくなった方は下の欄にAmazonへのリンクを貼っているので興味があればぜひご確認ください。

 また、これからも英文学の紹介を時々やっていくので、解説してほしい文学があれば是非教えてください!

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