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ホンダの「テレワークをやめて原則出社」に思うこと

久々にタイのオフィスに出社し、メンバーを顔を合わせました。やっぱり直接会える良さってあるなぁと感じます。

とはいえタイはまだコロナを微妙に引きずっているので、完全にオフィスワークというわけにもいかず「週2出社、月曜日はMUST(会議などのため)」というルールで動かしています。(月曜日は全員ATK実施)。コロナ以前から弊社はリモートワーク推奨だったのもあり、当面はこのハイブリッドで動かしていきます。

ホンダ社が原則出社に踏み切った衝撃

さてリモートワークと言うと、今気になっているニュースがあります。それはホンダ社が「原則出社」ルールに戻すというものです。

「Hondaとして本来目指していた働き方を通じて変革期を勝ち抜くために、『三現主義で物事の本質を考え、更なる進化をうみ出すための出社/対面(リアル)を基本にした働き方』にシフトしていきます」

コロナの終わりを感じさせるとともに、リモートワークが普及した中で逆行するようなニュースにびっくりした社員も多かったのではないでしょうか。当然ながら反発的な声もあるということがこの記事では紹介されています。

 ただ、従来の出社を前提とした働き方へ戻すことについて、社内では不安の声が上がっている。あるホンダ社員は「働き方改革が進みテレワークの定着も進む中、ホンダは真逆に動くのか」と疑問を投げかける。
「在宅による日々の効率化と対面の合わせ技なら理解できるが、経営陣は現場を理解していない。優秀な学生の中からホンダを希望リストから外す人が増えてしまう

対面コミュニケーションはホンダの魂そのもの

この動きに対して、単純に「時代錯誤だ」と切り捨ててしまうことは早計だと私は思います。リリースでのメッセージにもある通り、「現場主義」はホンダの経営力の源泉だからです。

ホンダと言うと、創業者本田宗一郎のスピリッツが強く反映された、創造的な文化で知られています。「ワイガヤ」と呼ばれる現場で起こる技術者たちの創造的な対話が多くのイノベーティブな商品を作り出してきました。

本田宗一郎はとにかく「人と同じことをしない」ことにこだわる経営者でした。「技術者はアーティストだ」とも語り、常に創造的に仕事をすることを説いていました。技術者へのリスペクトは今も残り、エンジニア以外でも真っ白なツナギを切る規定があったりと、社内にスピリットを遺す取り組みに拘っています。そうした姿勢のホンダが「リアルワーク」を重視するのは非常に理解できます。

特に、ハイコンテキスト(文脈依存)文化である日本の職場とリモートワークはとても相性が悪いことが指摘されています。以前のレノボ社の調査では「リモートワークで生産性が下がる」と回答したのは日本がダントツだった、ということも示されました。

レノボの国際調査で、日本は「在宅勤務の生産性はオフィス勤務に比べて低い」人が40%だった一方、中国やイギリスなど他国は10%台が多く、日本が10カ国平均の13%を大きく上回ったことが先日話題となりました。その理由としては、「勤務先がテクノロジーに十分な投資を行っていない」が67%でトップ。そのほか「同僚とのコミュニケーションに差し障りを感じる」、「データ流出の懸念がある」などが、生産性が上がらない理由として挙がっています。

そうした環境の中で、ホンダの「原則出社」という意思決定には、経営力を取り戻したいという意図を強く感じます。ただでさえ日本のモノづくりは危機に直面しています。自らの強みを研ぎ澄まさないと世界での競争に勝つことはできない、「現場主義を捨ててしまうと、ホンダがホンダで無くなってしまう」くらいの危機感を経営陣は覚えたのではないでしょうか。

リモートワークは選択肢であるべき

ではこれが「働き方改革に逆行する」のかという視点ですが、そもそも働き方改革とは何でしょうか。厚労省のページを見ると、以下のようにあります。

我が国は、「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」「育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化」などの状況に直面しています。
こうした中、投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ることが重要な課題になっています。「働き方改革」は、この課題の解決のため、働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指しています。

ということで、様々なライフスタイルに合わせて「多様な働き方が選択できる」ということが趣旨だと思います。またその背景には子育て支援、介護などのライフステージの変化をにらんでいるという意図も見て取れます。

つまり、「一律オフィス出社」が悪だとすると、そうした個人のライフステージ上の変化に対応できなくなる恐れがあるからです。逆に言うと、「出産、育児、介護、あるいは何らかの事情でリモートで働くことを選択したい社員」についてはリモートワークを許可すれば、働き方改革の趣旨には反しません。

このようにあくまでリモートワークは「選択肢としていつでも選べるようにしておく」ことが大事だと思います。なので、「リモートワークじゃないと時代に逆行している」というのは、これはこれでリモートワークの趣旨を拡大解釈しすぎではないかと思います。

冒頭に挙げたように、当社もリモートワークを実施していますが、そこには多様な価値観やライフステージに配慮したいという思いがあります。

結婚してご主人の都合で地方に移住した社員は、基本リモート勤務としました。「気分転換で旅をしながら仕事をしたい」という社員もいましたので、ルールを作って許可しました。何より私自身が家族の事情で二拠点生活をしていますから、そのような「選択肢」はいつでもあるということを身を持って示そうとしています。

またコロナへの感じ方も多様です。高齢の祖父母と同居している社員は、この2年ずっとコロナを警戒しています。そうした社員が不必要なレベルでオフィスに来ていると感じないよう、あくまで強制出社の日は週1回に限定的にしています。これも「多様な価値観への配慮」だと思います。

一方で当方も創造的な文化を重視していますので、全員集まってのミーティングや、定期的な社員イベントなどは対面を織り交ぜるようにします。よく「リモートになって雑談が減った」と言われますが、対面でないと「偶発的な会話」が生まれづらいとやはり感じます。偶発的で創造的な会話が一定頻度で起きるようなリアルワークを、強制力を持って仕掛けることは必要だと思っています。

ホンダ社も「介護や病気、育児などの事情があり、所属長が承認した場合」にはリモートワークOKとありますので、多様な事情に配慮しようという意図はうかがえます。出社することで現場主義とイノベーティブな文化を維持しつつ、経営哲学と働き方改革を融合させたハイブリッド取り組みとなることがあるべき姿だと思います。アフターコロナ経営のモデルケースの一つとなるか、今後の展開に注目しています。

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