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誰かのフツ〜の日常は、誰かに癒しを与える

この2ヶ月ほど、在宅勤務だから、ずっと家にいる。お隣さんも同じ様子。チラッとシルエットを見たことはあるが、会ったことはない。

彼女の朝は、8時のアラームから始まる。
15分後、もう一つ別のアラームも参戦。
2つのアラームの協演が1時間ほど続く。

10時過ぎから、ピロピロピロンと電子音。
そして、名前は知らないが、アイドルの歌。
その後は、お笑い芸人の声と彼女の笑い声。
たまにサスペンスドラマ。
そして、ごくごくたまに、中国語教材の音声とリピートする彼女の声、5分。
夜になると、ド〜、ファ〜、ミ〜♪と楽器の音。キーボード?三線?三味線?ギター?聞いていても何の楽器かわからない。が、どちらにしろ、始めたばかりのご様子。

隣人の発する音を聞き続けて、韓国にいた頃のことを思い出した。お隣には、夫婦かカップルかは不明だが、1組の男女が住んでいた。人々が寝静まる頃、彼らは決まっておっ始めるのだ。怒鳴り合いのケンカを。

何を言っているのかは、わからないが、とにかく怒鳴り合っている。そのうち、飼い犬まで参戦。誰が誰に怒鳴っているのかさえ、わからない。

苦痛だった。イライラした。
「うるさ〜い!!」と何度、日本語で叫んだことか。

それに比べて、今の私は穏やかである。朝から晩まで、隣人の発する音を聞いているのに、イライラしていない。私の心が寛大になったのだろうか。

今朝、ゴミを捨てに行くときに、ばったり彼女に会った。若い女の子だった。初顔合わせだ。なのに、妙な親しみを感じてしまった。

隣人の音に対して、なぜ、こんなにも違う感情が出るのだろう。一方には憎悪が芽生え、一方には親しみを感じるのは、なぜだろう。

そんなことを思っていたある日。お隣さんからドンドンドンドンという音が聞こえてきた。何をすれば、出てくる音なのか、さっぱりわからない。終わったと思うと、また始まる。イライラした。うるさーい!と呟いていた。私の心が寛大になったわけではなかったようだ。

それで、なんとなくわかった。

前隣人の1日は、まったくもって不明。
明らかになっているのは、夜中におっ始めるということだけ。その理由さえ、わからない。

人は未知のものに恐怖を感じる。警戒心を抱く。警戒心を抱いている状態というのは、緊張を強いられ、それだけで疲れる。ささいなことでも、自分を守るために、攻撃したくなる。

一方、最近の現隣人の1日は、約60%がオープンになっている。意図してか、意図せずしてかは知らないが。

正直なところ、彼女の日常をのぞき見しているようで、居心地が悪い。と同時に、なんだかニヤッとしている自分もいる。キャー!と両手で顔を覆いつつ、指の隙間からバッチリ見ている少女漫画の登場人物のようなもんだ。

SNSに上がってくる友人たちの日常は「特別」に見える。すごく見える。

でも、彼女の音から分かる日常は、失礼を承知で言うが、いたってフツ〜。
フツ〜を、フツ〜に楽しんでいるように聞こえる。特別なことは何もない、人様にオープンにするほどのこともない日常。

人には、と一括りにすると怒られるかもしれないが、覗き見欲求があるのかも知れない。そして、そこから知り得る誰かのフツ〜の日常は、誰かに癒しを与えるものだ。

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