【終活110番069】STEP4『事が起きてしまうまでにおカネを渡していく』(永遠の親子愛で紡ぐ魔法の終活)

さぁ。いちばん大事なステップです。一連の記事を読んでくれたみなさんであれば、もうおわかりですよね。親子タッグで実現すべき、双方にとってのハッピーエンディングの掟ともいうべき、最重要事項が何であるか。そうです。ギブ・アンド・テイク。親が納得の生涯主役人生をまっとうし、亡くなってからも子どもたちに感謝され続ける…。

そんな尊い終活の要諦が、老後の支援を依頼するのと併せて、そのコスト分はもちろん、その子どもに引き継がせたいだけのおカネを実際に渡しはじめるということです。そして、どんなに遅くとも、親が後期高齢者となる75歳までに、年金用通帳の残高プラスαを除く全額を渡し終えるというのが大鉄則でした。でも、認知症リスクのことを考えると、75歳を待たず、なるべく早い段階で財産承継を完了してしまうのが理想ということになります。

具体的に考えてみましょう。親が50歳になった時から「魔法の終活」に取り組むとします。仕事に就いてから四半世紀ほどが経過しています。周囲の約30人に聞き取り調査をした結果、50歳時点の預金残高は1,500万円でした。まぁ、そんなものなのでしょう。25年間すなわち300ヵ月。毎月5万円ずつプールしたとすれば1,500万円になりますからね。

さて、この1,500万円を子どもたちに移管していきます。最善の方法は、直接、面と向かって手渡しすることです。理由はふたつ。ふつうの親子であれば、子どもが成人してしまったらなかなかあり得ない親子での会食。その幸せな時間を持てる歓びがひとつ。もうひとつは、おカネを手渡しされることで、掛値なく、子ども側はうれしいので、おのずと親に対する感謝の念が生じるということです。この機会が積み重ねられるごとに、親に対するポジティブな感情が定着していきます。これが、親の老後をサポートしようという覚悟と責任感の源泉になるのです。親子といえどもギブ・アンド・テイクと繰り返してきたわけがここにあります。一回当たりの金額ですが、10万円から20万円くらいが妥当です。イメージとしては、子どもが20歳前後だとして、「学費とか生活費(家賃等)とかの足しにしてよ」という感じです。あと、単純にお小遣いでもOKです。

そもそも、親側が自分の子どもの学費や生活費を援助するのは当然のことです。子どもが成人していたとしても、薄給でマンションを借りてひとりでやりくりしているわが子に仕送りするのは当たり前です。なので、贈与税は発生しません。要は、「通常の親子関係であれば、まぁ常識の範囲内だな」と、客観的に評価されるようなおカネの渡し方であれば問題ないということです。

子どもが学生であれば、毎年の学費を一括で振り込むということも考えられますが、そうなると100万円超えの大金になるため、国税対策に万全を期するためには贈与契約書を作成して締結するなど、やや面倒な作業が出てきます。子どもが親と近距離で生活しているのであれば、そんなことをするよりは、一緒に過ごす時間を頻繁に作って、都度15万円を渡してあげるほうがスマートだと思います。何よりも、わが子の元気な顔を見られるのはハッピーですからね。

でも、子どもが遠方でなかなか会うことがむずかしいというのであれば、振り込みにならざるを得ません。その場合は、不規則な振り込みに徹することが大切です。振り込みサイクルも、金額も、です。ある口座から特定の口座に、隔月20万円ずつ振り込まれているという履歴が金融機関のシステム上に残ってしまうことを回避するためです。実の親子であっても、です。マイナンバー制度が定着して、今後ますます、国税の管理は緻密になっていきます。個人レベルでの預金の出し入れも、それくらい神経を配る必要があります。面倒なことですが、致し方ありません。

頻繁に会えない場合には暦年贈与を考える人も多いと思います。毎年110万円までは非課税となっていますが、この場合でも、「振込の不規則性」を意識すべきです。例えば、毎年子どもの誕生日に100万円ずつ振り込んだ履歴を第三者(税務署員)が見たらどう思うでしょうか。答えはこうです。

「はは~ん。この親はそもそも1,500万円を子どもに渡すつもりだったのだな。でも、それだと贈与税が377万円かかってしまうから、それを回避するために15年(回)に分割して振り込んだのだろう。これは暦年贈与の非課税制度を意図的に悪用したものだな」。

どうですか?うんざりしてしまいますが、これが一円でも多く税収をゲットしようというこの国の現状です。ちなみに、1,000万円であれば、贈与税は177万円となります(参考⇒贈与税シュミレーターサイト:https://keisan.casio.jp/exec/system/1385714186)。なので、暦年贈与の場合であっても、「振込の不規則性」を遵守した上で、都度、贈与契約書を交わすようにしてください。

あと、結婚資金として300万円までは非課税として渡すことができますが、贈与契約締結と併せて、実際に披露宴や結納品に300万円を費やしたという証拠、すなわち領収書を保管しておく必要があります。なので、振込と挙式に間隔があきすぎると失念してしまうことが多々あるため、この方法は結婚が確定するタイミングで使うのが理想でしょう。

もうひとつ。親が死ぬまで子どもの手には入りませんが、生命保険に入って保険証書を子どもに渡しておくことも考えられます。死亡保険金の非課税枠には、法定相続人一人当たり500万円の限度額が設定されています。ふつうに考えれば、500万円の生命保険の受取人を子どもに指定しておくのです。ただ、そのことを子どもに伝えた上で、さらに保険証書と加入した保険会社の連絡先を必ず渡しておくこと。親が自分のために生命保険に入っていたことを知らないままに、親が死んだ後、死亡保険金の給付申請をしない受取人が一定の割合で居るのです、おそろしいことに。この場合、親が積み立てたおカネは丸々保険会社の儲けになってしまうので、保険証書を後生大事に抱えておかないことです。

さて、親が50歳を過ぎて65歳(リタイア)になったとしましょう。この15年間で親の預金残高はどれくらい増やせるものなのか。これまた、周囲の声を拾ったところ、平均して2,000万円といったところでした。平成の時代までであれば、まだ企業にも役職定年制度がなかったので、5,000万円くらい貯まったかもしれません。当時は年功序列で基本給もアップしたし、加えて管理職手当を丸々預金に回すとします。資本金5,000万円程度の企業でも、管理職手当として、部長なら15万円、役員なら50万円超もらえましたから、15年間つまり180ヵ月間で5,000万円は、十分に現実味のある数字です。いい時代でした。

これが見込めなくなった現代では、定年まで一つの会社に居続けることは少なくなりました。年俸のいい会社に転職するか、起業して青天井の収入を目指すか。独立起業の場合は、成功することが大前提ですが、うまくいけば、65歳までに5,000万円をはるかに凌ぐおカネをプールすることが可能でしょう。

この年齢から子どもたちにおカネを渡すことを考えると、子どももそれだけ歳を重ねているわけで、学費とか生活費とかは客観的に不自然なわけです。そうなると、引き継ぎたいおカネの総額にもよりますが、かなりまとまった金額を一括で振り込むケースが出てくると思われます。となると、ムダな贈与税を支払わないという鉄則に則れば、毎年110万円以下の暦年贈与の他に、マイホーム購入資金(省エネ住宅なら1,500万円まで、一般住宅なら1,000万円まで)、孫の教育資金(1,500万円まで)が候補になるでしょう。

マイホーム購入資金は、直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税制度です。これは、2021年12月31日までという時限措置の特例ですが、都度、(条件等の変更はあり得ますが)延長されると思っていいでしょう。父母または祖父母から「住宅取得等資金」(新築、取得、増改築等のお金)を贈与してもらった場合に、一定要件(20歳以上、合計所得2,000万円以内など)を満たす場合に限り、非課税枠を利用できるというものです。

教育資金は、正式名称を「教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置」といいます。30歳未満の受贈者(=贈与を受ける人)の教育資金に充てるため、祖父母などがお金を贈与した場合、1500万円までは贈与税がかからないという制度です。この非課税措置を受けるには、信託銀行をはじめとする銀行で「教育資金贈与信託」を契約しなければなりません。ただし、ありがちな手数料は取られません。銀行側にとっては金利分だけを得る金利商売です。
なお、金融機関での教育資金口座に係る契約が終了した時点で口座に残額がある場合や、 教育資金口座のお金を教育資金以外への支払いに充てたことが判明した場合には、相応の贈与税が発生することになります。つまり、なんやかんやと銀行の管理下に置かれることになるわけです。

それがストレスになるというのであれば、教育資金が必要なタイミングで、その都度おカネを渡してあげれば贈与税は非課税です。そもそも、親や祖父母が教育資金を出してあげることは非課税なのですから。気をつけるべきは一点のみ。本当に必要なタイミングでおカネを渡すということです。例えば、孫が大学に進学するタイミングで進学資金を渡してあげても贈与税は発生しません。でも、まだ孫が大学進学する年齢でないにもかかわらず、将来の進学のためにとおカネを渡す場合は、贈与税が課税されるということです。


いかがでしょうか。こういった贈与税非課税制度を活用しながら、元気なうちから子どもや孫におカネを渡していくわけです。ドライな言い方をすれば、親のエンディングまでに諸々のサポートをもらうために。ギブ・アンド・テイクです。でも、いずれの制度であっても、贈与契約やエビデンス(おカネをもらった側がその使途に充てたことがわかる領収書等)の保管が必須となります。

それが面倒だと思ったり、事務能力に自信がなかったりする場合には、繰り返しになりますが、マメに親子の時間を作って、その都度、ちょこちょこっとおカネを渡すことです。この方法がもっともラクで、子どもや孫たちもうれしく感じる度合いが高いことがわかっています。遺言を書いておいて、死んでから相続させたところで、子どもたちの喜ぶ笑顔を見ることはできません。感謝の言葉も聞こえません。いつまでもおカネに執着していないで、早め早めにおカネを手放していくほうがベターだと思います。だって、明日ボケないという保証も、感染症に罹患しないという保証も、交通事故に巻き込まれないという保証もないのですからね。

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