【終活110番046】生前相続のすすめ

「おカネはおっかねぇー」というのは本当のことです。大人になると、兄弟姉妹だって、子どものころのように仲が良いわけではありません。親が亡くなるまでは、とても仲睦まじく見えた場合でも、おカネが絡むと一筋縄ではいかなくなるもので、お互いの配偶者がさらに関係を複雑にします。親が遺したわずか100万円の預金を巡って、テレビドラマのような壮絶な罵り合いや奪い合いを展開する兄弟姉妹をいやというほど見てきました。

子どもたちを愛しているのであれば、悪いことは言いません。生前相続を計画すべきだし、実行すべきです。誰に何を頼むのか。そして、どれくらいのおカネ(財産)を引き継ぐのか。折に触れ早いうちから整理して、子どもたちに自身の言葉で真摯に伝え、澄みきった心で最期に臨みたいものです。これは親世代さいごの責任だと思います。医療保険証が切り替わる75歳までにはおカネに対する執着から解放されて、子どもたちにも感謝されながら、エンディングまでの円滑な老後をサポートしてもらうのが理想だと思いませんか?

感染症でアッという間に死んでしまったり、ボケてしてしまったりしてからでは遅いのです。親が死んだ後で子どもたちが手続きするのに、いまの時代は多大な時間と労力がかかります。金融機関で口座凍結を告げられ、遺産分割協議のプロセスに突入します。その面倒くささは多大なストレスになります。また、親が認知症に罹患したら、家庭裁判所に成年後見人をつけてもらうよう申請して、数ヶ月後に現れた見ず知らずの気むずかしそうな法律家もどきに通帳やら印鑑やら、金目(カネメ)のモノはすべて持っていかれてしまいます。子どもは一円たりとも手をつけられなくなります。毎月5万円以上もの報酬まで支払ってです。親がそなえておかなかったために、子どもたちの人生まで成年後見人にコントロールされるようになるのです。想像しただけで悪寒が走るというものです。成年後見人が依頼者の預金を持ち逃げしてしまうなんて事件も増えている。どうせダマされるのであれば、まだわが子に散在されたほうがマシではありませんか。

そもそもが自分で培ってきた財産です。ならば自分でその配分を決めて、その理由を直接伝えて、子どもたちにもしっかりと役目を果たしてもらうのです。言い換えれば、生前相続とは、現代版の隠居です。旧民法の時代には「隠居」というシステムがあって、60歳にもなれば、父親が長男に家長の地位と財産を引き継いで、子どもから生活費をもらいながら暮らしていたものです。

生前相続の標準的な流れは、以下のとおりです。本来は親がリードして行うべきことですが、親がまるでそなえていなそうであれば、子どもの側から切り出してもいいでしょう。

●財産の棚卸
●定期預金から普通預金への振り替え
●証券類のキャッシュ化(ゴルフ会員権、高級車、100万円以上の贅沢品や美術品等も含む)
●不動産譲渡の検討
●財産配分の検討(誰にいくら)
●財産の引継ぎ法の検討(財産管理委任/生前贈与/家族信託/遺言相続/生命保険…)
●税務対策
●預金口座・預金通帳の整理
●老後支援の役割の検討(子どもたちに何をサポートしてもらうのか)
●親子会議の開催(個別で可)
●契約書類の作成(必要に応じ、公証役場に相談)
●公正証書化の検討

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