【終活110番048】親名義の不動産を売却する方法

財産分与において厄介なのが、不動産です。預金がたくさんある場合はいいのですが、実際には預金がかなり少なくて、最大の財産が実家の土地ということもままあるわけです。なお、家屋については、よほど新しい省エネ住宅などという物件でない限り値段がつきません。逆に、更地に戻すための解体費用を負担しなければならないこともあります。なので、ここでは土地だけを対象に話を進めていきます。

土地を財産分けするのがむずかしい理由は、複数の相続権者で物理的に分割することができないことです。仮に土地の譲渡価格相場が3,000万円だったとします。で、預金はほとんどない。子どもがふたりいたとすると、理論的には、1,500万円分ずつ引き継ぐことになりますが、まさか土地に境界線を引いてそれぞれを分け前としてもらったって困りますよね。預金が3,000万円以上あるのであれば、ひとりが土地を、もうひとりが現金をもらうということも可能ですが、そうでないとなると、いずれかの子どもが土地を売却にかけて、売買が成立したときに受け取る売却益をふたりで等分するという流れになります。立地が悪ければ当然売却までに長い時間がかかります。その過程で値崩れして、最終的にはタダ同然でしか売れない場合もあります。そんなわけで、財産のほとんどが土地しかないという場合は、相続人である子どもたちは、かなり面倒なことになるわけです。

でもそれは、手続きが大変であったり、おカネを手にするまで相当な時間を要したりすることの面倒くささです。それ以上に厄介なのは、相続人のうちの誰かが自立しておらず、実家に住み続けることでしか生きていけないような場合です。俗にいうパラサイトですね。そうなると、自立している相続人のほうは何ら得るものがありません。唯一の遺産である実家の土地は、パラサイトが住み続けることになりますから、売却することができません。しかも、パラサイトから現金を別途もらうことも期待できません。これはもう、ただただ嘆くしかないわけです。

こうして考えてみると、実家の取り扱いについては、親は十分に考えを巡らせておく必要があります。
まずは、子どもたちひとり一人に、親亡き後、実家に住みたいかどうかの意思確認をするようにします。子どもたちがそれぞれ独立して世帯を持っているのであれば、ほとんどの場合、実家にすみたいという子どもはいないのが現実です。となれば、代表者が売却手続きを行って、売買金額から作業代をいくらか差し引いて、残りを等分すればいいので、そんなには面倒ではないでしょう。

問題は、理由がどうであれ、実家を引き継ぎたい(そこで暮らしていきたい)相続人が出てきた場合です。預金がふんだんにあれば、他の相続人が現金を等分すればいいだけの話ですが、預金がほとんどなかったらどうなると思いますか?実家を引き継いだ相続人が、その分、別途おカネを渡してくれればいいのですが、そんな経済力を持ちあらせていないとしたら?

こうなると、パラサイトだけがラッキーで、他の相続人は泣いても泣けませんよね。パラサイトの行く末を憂いて「仕方ないか…」と譲歩してくれる、ものわかりのいい子どもたちばかりではないはずです。であれば、親は早期に財産分けの見通しを伝えて、自立している子どもたちに理解して納得してもらうしか術がありません。そんなリスクマネジメンともせずに放っておいたとしたら、これはもう、親の責任を果たしていないわけです。で、死んだ後もずう~っと恨まれることになります。

なので、子どもたちの誰かが、親の様子がおかしいことに気づいたならその旨をきちんと告げてくれるように頼んでおいて、その段になったら謙虚に現実を受けとめて施設さがしのプロセスに入るべきです。そして、施設の目途が立った時点で、相続権者のうちの誰かに、実家を売却する手続きに入ってもらうようにします。
もしも、実家を処分することで先行きがまずくなる相続権者がいるのであれば、他の相続権者たちに対して礼を尽くして事情を話し、ひたすら頭を下げるしかありません。これはもうどうしようもありません。それでも、事前にそういう状況を予告されていたとしたら、予告もなく蓋を開けてみたらそうだったというよりは多少でもシかもしれません。

いずれにしても、何も財産を遺せないにもかかわらず、エンディングまでの支援だけはしてもらうことになるのですから、親として申し訳ないという気持ちだけはしっかりと伝えることがせめてもの罪滅ぼしというか、誠意だと思います。

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