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今回は、相談援助の国家資格・社会福祉士として、四半世紀にわたって大勢の人たちに携わってくるなかで行き着いた、『親』が果たすべき責任について持論を述べさせてもらいます。

厚労省のデータによると、2022年時点の平均寿命は、女性が87.09年で男性が81.05 年となっています。一方、健康寿命はどうかというと、2019年のデータですが、女性が75.38年で男性が72.68 年です。

ざっくりいうと、女性は12年近く、男性は9年近くもの長期にわたって、エンディング直前に不健康な時間を過ごすことになる…というわけです。

さらに大雑把に言えば、私たちは天国(もしくは地獄)に旅立つ前の約10年を、だれかの助けを受けながら生きていくと考えざるを得ない…。

ま、『平均』というのは当てにならないので、日本人の死亡最頻年齢を見てみると、女性は93歳、男性は88歳。この年齢の時に亡くなる人がもっとも多いということになります。これを健康寿命と見比べてしまうと完全にナイトメアモードに陥ってしまうので考えないようにしましょう。

とは言うものの、実際にナイトメアを味わうのは親ではありません。ダメージをもろに受けるのは、殆どの場合、こどもの側です。ひとりっ子であれば、プラスもマイナスも一手に引き受けることになります。兄弟姉妹がいたら実に厄介で、プラスの部分は全員がわが物にしようとしながらも、マイナスの部分は他者に押しつけようとします。なので、正直にいうと、子どもというのは計画的にひとりだけもうけて愛を注ぐのが理想だと思っています。余談ですが、私ども独自の調査では、できちゃった婚の人には、こどもが複数いる確率が高いです、ハイ。

あと、天涯孤独の場合も含めて、こどもを持たない人は、老い先のことでさほど気を揉む必要はないと思います。配慮すべきは、せいぜい配偶者のことぐらいでしょうか。でも、その配偶者もほぼほぼ同世代なのであれば、ケセラセラでもさして問題はありません。死んだ後のことを憂いて、後始末のために法律家もどきに云百万円も渡すなど愚の骨頂としか思えませんよね。だって、死んでしまったらすべてのことはもう知ったこっちゃないですからね。そんなのは国任せ行政任せでいいのです。何十年も言われるままに納税し続けて、彼らの生活を支えてやったのですからね。裏金議員の報道に触れるにつけ、つくづくそう思います。

話を戻しましょう。

もうひとつ、第一子出産時の平均年齢というデータがあって、女性28.0歳、男性30.7歳となっています。これからわかるのは、長女・長男の場合、母親を『93-28=65歳』で、父親を『88-30=58歳』で亡くす確率が高いということです。

つまり、こどもの視点に立てば、役職定年とか定年退職とか年金受給とかいった話がまさに自分事になろうかという、老いを意識せざるを得ない時期に、老親の不健康期間(平均寿命と健康寿命の差)が重なってくるということです。

これは人生100年と言われる、長生きしなければならない時代においては当たり前のことなのですが、日々の忙しさにかまけてしまって、現役世代が忘れてしまいがちな事実なのです。いや、正確には、潜在的にはわかっていても「目を背けたい」・「先送りしたい」だけなのかもしれません。

いずれにせよ親たるもの、頼まれもしないのに一方的にわが子をもうけた以上は、彼らが人生の折り返し地点を過ぎて経済基盤が脆弱になっていくなかで、老親問題で翻弄されることになるのだという認識をしっかりと持たなくてはいけません。

もっとも重要なのは、親子の縁が死んでも(ボケても)切れない以上、せめてエンディング直前の10年間をサポートしてもらうために想定されるコスト相応のおカネは、もしものことが起きる前に渡しておくべきだということです。だって、いくらそういう意思を持っていたとしても、認知症にでもなってしまったらすべて水の泡なのですから。ご理解いただけるでしょうか。

要は、これだけ長生きの世の中においては、「親が死んだら遺産が手に入るんだから、とりあえず立て替えておけ」という理屈は通らないということです。親が死んでからではなくって、生きてるうちにこそおカネがかかるのです。だから、ボケてしまう前に渡しておけということです。

いわゆる老親世代(70代・80代)の人たちにこういう話をすると、9割超が頷いてくれます。でも、実行してくれる人は1割もいません。多くの人は三歩も歩けば全部忘れてしまいます。それが『老いる』ということなのです。

だから、心身が老いてしまうまでに済ませてしまわなければなりません。子のサポートを得ながら過ごさざるを得ない10年分の予算を渡してしまうのです。そうすることで、子の側にも親の老後を支えようという覚悟が定まるのです。おカネの話を抜きにして作業ばかり強いていると、いい逝き方はできません。お墓に入ってからも、こどもたちにはネガティブな記憶と感情しか残りません。これは本当のことです。

「じゃあ、実際にいくら渡しておけばいいんだよ」という声が聞こえてきますので書いておきますね。

元気な人が衰えて最期を迎えるまでに遭遇することになるであろう医療や介護や身の回りの支援のこと。俗に、『身上監護』といいます。あと、昔っからの名家とか、ご先祖様を大切にする家系の場合には『祭祀事務』。自身の葬儀葬祭のみならず、先人たちの供養を頼まなければなりません。

医療については、国民皆保険と各種助成制度がありますので、どんなにおカネがかかったとしても、月額10万円を超えることはまずありません。問題は介護です。親の介護のことで子の仕事や家庭や人生を損なわせないためには施設入所が理想です。

10年間を施設で過ごすには、都市部の民間施設であれば、月額25万円×12ヶ月×10年=3,000万円です。ローカルなら、1,800万円でイケるでしょう。また、特養・老健といった公的施設なら、(ちょっとバッファーを考慮して)月額15万円×12ヶ月×10年=1,200万円になります。

ただ、これだけの預金があれば別ですが、ないのであれば、年金用の通帳とキャッシュカードを(もちろん、暗証番号も)渡してしまうしかありません。国民年金なら月額5万円、厚生年金なら月額15万円と想定して計算すると、いくら足らないかが見えてきます。ギョッとする人もいるかもしれません。しかし、親におカネがなくって立て替えざるを得なくなるこどもの側はもっとギョッとするはずです。

肩代わりするだけの余力が子の側になかったとしたらどうするか…。大丈夫です。これも数少ない日本のいいところで、親を子の扶養から外して生活保護を受給して特養に入る…。これで一件落着です。

これまた、こういう話をすると、「おカネがないんだから、家にいるしかない」という人が出てくるのですが、ちょっと待ってください。施設介護より在宅介護のほうがやすいと思っている人たちは多いですが、とんでもない勘違いです。

医療や介護は月額数万円ですし、持ち家なら家賃も発生しませんが、実家で暮らす親の様子を見守ったり、身の回りのことを世話したり、医療看護職や介護職が来ていない時間帯のケアをしたり…。こうしたサポートにかかる子の負担を見落としています。まさか、無償でやってもらうのが当然とでも思っています?こどもたちがやむなく諸経費を持ち出していること、自分の家庭や仕事に支障をきたしながら、大変な思いで親をサポートしていること、わかっているのでしょうか。どうもこの辺のことに無頓着な親が多いように感じてなりません。

在宅介護における生活全般の支援を家事代行会社に頼んだとすると、月額15万円はくだらないことを知っておくべきでしょう。なんのことはない、公的施設に入ったほうが安くなるのです。

そうそう。祭祀事務の話もありましたね。最近は葬儀におカネをかける人も、墓じまいをする人も爆上がりで増えています。いい傾向です。そんな見栄を張るくらいなら、いろいろとサポートしてくれたこどもたちに少しでもおカネを渡してあげたほうがよっぽどいいのではないでしょうか。

家族葬で済ませれば100万円どころか50万円でも事足ります。ついこの前は、20万円でおつりがくるケースさえありました。また、いわゆる死後事務は、その手の会社に依頼したら軽く50万円以上とられますが、かわいい孫や曾孫に小遣いを10万円も渡してあげれば十分でしょう。亡くなった一年目と三回忌・七回忌、それに毎年の命日供養ぐらいで済まれば十分と考えれば、100万円程度わたしてあげて、あとは折々のこどもたちの懐具合に応じてやりくりしてもらえばいいと思います。

ということで、一応の結論を整理しておくと…。

標準モデルとして、都市部で暮らす厚生年金受給者が、完全にボケてしまうまでの5年間を民間ホームの個室で過ごして、ほぼ何もわからなくなってしまってからの5年間は公的施設に転入する場合を考えてみます。

不健康期間の前半5年は、施設代と年金の差額10万円×60ヶ月=600万円
後半の5年は、年金だけで賄えるのでゼロ円。

祭祀関連の予算としては、100万円。

よって、ボケてしまう前に子に渡しておくべき金額は、合計700万円ということになります。一括で渡せるだけの預金がないのであれば、年金が入金される預金口座を預けておくしかありません。ま、標準モデルなので、700万円程度の蓄えはあると考えていいのかなと思います。


こういう話をストレートに書いてしまうとネガティブな反応をする人が多いのですが、あくまでも、社会福祉士としての経験に基づく持論として紹介させていただきました。

ではまた。

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