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専業主婦が「離婚させて」と言ってきた!

先日、ふだんとはちょっとちがう相談がありました。40代半ばの女性で専業主婦。結婚してもうじき20年の節目を迎えるそうで、これを機に離婚したいとおっしゃるのです。お子さんはナシ。夫はキャリア官僚で課長級。年収は1,200万円超とのことです。
 
ボトルネックをたずねると、「一緒に暮らしていてつまらない」とキッパリ。なので私は、「お子さんがいないのであればご夫婦だけの問題なので、然るべき理由を用意できれば離婚することはそんなにむずかしくないでしょう。逆にいうと、妻が一方的に離婚したいと要求しても、夫側に客観的な落ち度がなくて離婚を拒まれた場合は難航するでしょう」と伝えます。
 
彼女が離婚のための然るべき理由を訊いてきたので、「一般には、不貞行為とかDVとか。他にも、生活上の非協力、生活費を入れない、精神疾患、何年間もの消息不明などが、民法の離婚事由として書かれてますね」。
 
しばし考えるような仕草の後、彼女は言いました。
 
「自分の人生を生きていないと思うんですよね、いま。そもそも、見合い結婚なんですよね。26歳の時でした。相手の唯一の条件が、専業主婦として家に入ることでした。両親の強い希望もあって、大手商社の総合職をやめたんです。でも、40歳くらいからでしょうか。友だちと話をするたびに、自分の人生がいかにつまらないものなのかを実感して…。」
 
なんか人生相談みたいになってきたので、こちらから質問させていただくことにしました。
 
「先ほどお伝えした『離婚を求めるための然るべき理由』の中に該当しそうなものはありますか?」
 
「たぶん、生活上の非協力とかかしら。あと、生活費は入れてもらってますけど、かなり徹底的に管理されています。それと…」
 
途中で沈黙されてしまったので、話したくないことはムリに話さなくて構わない旨を伝えます。
 
「いえ。あのう…、例えば、専業主婦のコストというのは、生活費の中に含めることはできないのでしょうか?」

「なるほど。専業主婦にも給与相当のおカネを支払うべきという論調はたしかにありますね。大体300万円くらいになると思うんですけど、ただ現実的にそうした金額を支払うだけ稼いでいる夫はなかなかいないんですよね。まぁ、なので、お宅様くらいの年齢で、かつお子さんがいらっしゃらないケースですと、(結婚していたとしても)ほぼほぼお仕事をされてますね」
 
「そうなんですね…」
 
困ったような顔で俯いている彼女が気の毒に思えてきて、さらに質問を続けました。
 
「生活費を徹底的に管理されているということですが、もう少し詳しく教えていただいてもよろしいですかねぇ」
 
「毎週一度、家計簿と通帳を突き合わせてチェックされてます。個人的に買いたいものがあった時は、使途と金額を夫に伝えて許可をもらわないといけません。それに、実家に行くにせよ、友達と会うにせよ、お芝居を観に行くにせよ、事前に予定を伝えてOKをもらう必要があります。今年に入ってからは、近くに義理の母がひとり暮らしをしているんですが、足腰が弱ってしまって、週に4日は様子を見に行っています。あっ、ごめんなさい。愚痴みたいになっちゃって」
 
「いえ、構いません。お宅様の日常がだんだんとイメージできてきました。離婚するための然るべきネタ探しになりますから、よかったらそのまま続けてください」
 
「(義理の)おかあさんの通院、クスリの受け取り、生活用品の買出し、訪問リハビリの立会い。うちはうちで毎日の掃除・洗濯・買物に朝晩の食事の用意。なんか、ホント自分の時間がないんですね。しかも、コロナ以降は、毎日きっかり19時に帰ってくるんです。それもすっごいストレスになっちゃって、夕方になると頭が痛くなるんですよ。わかっていただけます?」
 
彼女の話を聴きながら、令和の時代にまだそうした日常を過ごしている人がいるのだなぁ~と、可哀想に思えてきました。だって、私が彼女だったとしたら、やはり離婚したいと思いますから。
 
「よぉくわかります。忌憚なく感想を言わせてもらうと、かなり時代錯誤的な印象ですね。申し訳ないですけど」
 
「ですよねぇ~。よかったです、お話しして。こういうことを友達に愚痴ってるとアッという間に何時間も経っちゃうでしょ。すぐ門限になって帰らなくちゃならないんです。私だって、友達と遊びに行きたいし旅行にだって行きたいんですけど、おカネと時間を完全に管理されているから何にもできないんですよね」
 
「これまでに、ご主人にそういうお話をされたことは?」
 
「ありません。まじめな話を下なんていう記憶もないですね。私のことは家政婦とでも思ってるんだと思いますよ。だから一緒に生活してる意味もないし、夫婦でいる必要もないなって…」
 
頭の中で、とりあえずの方針が固まったので、クローズに向けての話を進めていきます。
 
「40歳くらいから夫婦での生活に疑問を感じはじめたとのことですが、かなり時間が経過してからコンタクトいただいたということは、やっぱり今年になって義理のおかあさんの介助というか見守りという作業が増えてきたことが引き金になったという理解でいいですか?」
 
「そうですね。いま現在、介護認定は受けていないんですけど、時間の問題だと思うんです。おんなじ話ばっかり繰り返してるし、もう認知症になってるのかもしれません。このままいったら、確実に『当座の介護はキミに頼むからね』って言ってくると思うんです」
 
「お気持ちとしては『ノー』なんですね」
 
「絶対にイヤです。自分の親ならまだしも、他人の親の介護なんて!」
 
想定外に大きな声になって周囲のテーブルからの視線を感じたので、私は唇に左手の人差し指を当てながら、右手でボリュームをしぼるジェスチャーをした。
 
「ごめんなさい。話をわかっていただける方に出会えて心強くなっちゃったみたいです。エキサイトしちゃいました」
 
そういって舌をチロッと出した彼女に、私はなぜか好感を持ちました。不思議な話ですが。
ちなみに彼女、芸能人でいうと真矢みきみたいな感じです。
 
結局のところ、真矢みき(?)には、こんな方針を提案しました。
 
★まずは一度、以下を文書化した上で意思表明してみる。なお、その際のやりとりは録音しておくように。
 
・専業主婦のコスト相当金額を用立てること(具体的金額は別途ガイド)
・家事に支障がない範囲での自由時間を認めてくれること
・義母の介護に携わる意思がないこと
・上記を承諾してくれない場合、離婚協議を進めたいこと
 
「リクエストに応じてくれたとしたら、婚姻関係を続けてもいいと思われますか?」
 
「んんん……」
 
「なんとしても別れたい…ですか?」
 
「んんん……はい」
 
「一般的に、キャリア官僚はプライドが高くて、世間体を気にします。家計管理や外出許可の話から想像するに、離婚の事実を周囲に知られるなどあってはならないはずです。お宅様の要求通りおカネをくれて、おかあさんも施設に入れると言ってくるかもしれない。それでもなお離婚したいということであれば、状況証拠でもいいから用意したいところですね。
 
おかあさんの見守りが始まった今年以降でいいんで、『いつ頃どんなことがあって、ご主人がこんなことを言った』ということを時系列で書き出してもらえませんか? 暴力行為がなかったとしても、言葉の暴力とか態度による威圧とか、そう受け取れる内容の日記とか備忘録とかがあると有効なはずですから。私が思うに、DVとは言えないまでも、配偶者をそこまでコントロールしてくるというのは、精神的虐待とか人権迫害とか言えなくもない。ちょっと弁護士に訊いてみますね」
 
「わかりました。作文してみます。なんとか、『これは離婚したほうが得策だな』と思わせられるようなシナリオを考えてもらえたらうれしいです。どうかお願いします」

『作文』、『シナリオ』という表現を彼女が使ったことで、これまた不思議なのだけれど、取り組んでみるのも楽しそうだな(真矢みきさん、ゴメンなさいッ)…と思ってしまったのです…。
 
彼女は、ちょっと前に会った時と比べて数段明るい表情で頭を下げました。
 

彼女の話がすべて事実であったとしたら、夫にとって彼女は単なるお飾りのようなもの。あそこまで監視下に置かれた生活は、普通の人であれば耐えられないと私は思いました。

まぁ、これからどうなるかはわかりませんが、縁あってコンタクトしてきてくれた彼女の人生がハッピーになるよう、私にできることを検討してみようという気になった昼下がりでした…。

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