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【医療マガジン】エピソード10 直子の決断(3/4)

思い思いの飲み物をすすりながら、話は後半戦にはいっていく…。
 
「百田寿郎さんはね。コンサルタントの会社をやめてね、自分で会社を作ったの。終活のコンサルタントの会社。だからお兄ちゃんの会社に講演にもいったし、なんだっけ? 介護か何かの法人契約? それもしたわけよね。あと、美香ちゃんだって、百田さんのオフィスいって相談乗ってもらったんでしょ? あっちのお母さんの件で」
 
「だよね。みんな彼のお世話になってる。でも、お母さんだけナマ百田を知らない・・・」
 
「わかってるわよぉ~っ。クリスマスイブに、絶対に会ってやる~っ!
 
親子3人の笑い声が店内に響く。
 
「永遠の親子愛で紡ぐ魔法の終活・・・。百田寿郎さんが提唱していてね、彼本人も実践している理想の終活。それをヤルわ、お母さんも」
 
「いいよ。どういうこと?」
 
「うん。聴きたい聴きたい!」
 
「百田さんはね。四捨五入して100歳になったら、つまり、50歳になったら取り組むべきだって言ってて、自分でもやってるんだけど・・・」
 
「50歳から!? じゃ、オレもじゃん・・・」
 
「そうだわ。お兄ちゃんも子どもたちのためにやったほうがいいわ。よく聴いててちょうだいよ」
 
「お母さんは100歳まで生きるって決めたんだけどね。実は百田さんもね、100歳で死ぬんだって」
 
「そうなんだ・・・」
 
「すごいね・・・」
 
「すごいのはここからよ。い~い? どんなに生きがいを感じながら生きていったとしてもよ。100歳で死ぬまでには、いくつもの通らなきゃならない関門があってね。その代表的なものが、美香ちゃんの友だち? その子に降りかかったような介護とか認知症の問題でしょ。それに医療まわりのこと。葬儀とか死んだ後の手続きのこと。それと、何よりも重要なのがお母さん名義の財産のことよね。
 
こういう、ほぼ確実に出くわすような問題については、元気なうちに少しでも早く方針を決めてね、それを紙に記してね、子どもたちと共有してね、子どもに何かを頼むとしたらね。いや、絶対にあなたたちに頼まないわけにはいかないからね、そのためのおカネとね、ついでに死んでから相続するはずのおカネもね、今から渡していっちゃえっていう終活のやり方なのよ」
 
「えっ!? どういうこと? 遺産相続とかじゃなくって、おふくろが生きてるうちからおカネをくれちゃうってぇこと?」
 
「バカ!おカネをあげるんじゃないの。お母さんの老後のサポートと交換でおカネを預けておくってこと。で、当然、お母さんにもしものことがあればよ、それは自動的にあなたのものになるわけだけどね」
 
「たしかに、百田さんの講演を聴いた時に思ったんだけどさ。死んでから遺言が出てきて兄妹で遺言通りに分けるっていうよりも、おふくろがきちんと直接話をしてくれて、先におカネを渡しておいてもらったほうがベターだよなって思ったよ。だって、今ここでおふくろが倒れてそのままになっちゃったら、オレたちだけじゃ何もできなくって、銀行やら弁護士やらが介入してきて、ムダなおカネまで払わなきゃならないんだからね」
 
「そうかぁ。さっきの友だちも言ってたわぁ。お父さんの口座からおカネ、お母さんでもおろせなくて困ってるって。
お母さんのおカネなんだから、お母さんの思うように分けるのが当然だと思うけど・・・。認知症とかで会話できなくなったり、判断できなくなっちゃったら、お母さんの意思を誰も知らないわけだから、たしかにめんどくさいことになりそうかもね・・・」
 
「卓球だよ」
 
怪訝そうな眞と美香。
 
「にぶいわねぇ・・・。ピンポ~ン! サァ~ッ!」
 
『しらこわ』で、コメンテイターや鶴ちゃんが的を得た話をしたときに、百田寿郎がやる定番ネタだが、ふたりは知る由もない。ということで、直子は先に進む。
 
「あなたたちがそこまで理解できてるんなら話は早いわ。それでね。お母さんの意思を二人が知らないままに何かが起きてしまったら、それぞれが自分に都合よく想像してね、少しでも多くもらえるように主張しはじめるってぇことなのよ。挙句の果てには、眞と美香の配偶者までしゃしゃり出てきてね、いわゆる争族が勃発しちゃうわけよね」
 
「はははは。たしかにコイツ(美香)の旦那ならあり得そう」
 
「だよねぇ・・・。って、何言ってんのよ!お兄ちゃんがいちばん危ないよ」
 
「バカヤロー!オレに限って、絶対にそんなことはない・・・といっても過言ではなくもないか・・・」
 
「なに言ってんの! い~い? だから、おカネのことに道筋をつけるのはお母さんの役目なの。親として、最後のさいごの大仕事。これをやってから、あとは100歳まで、お母さんの思うように生きていく。でも、さっき言ったように、途中でどうしても二人に助けてもらわなきゃならない場面が来るでしょ? それは必ず、100%来るから。それが理解できたからこそ、今日、お母さんの意思を伝えておくんだからね。あとは、実際に事が起きたときのために、お母さんの現時点での考えを紙に書いたものを渡しておくからね。そこにあるように、ふたりには動いてほしいということなの。わかってくれるかしら?」
 
「オレはいいよ。おふくろの考えを理解して、そのとおりに動くって約束できるよ。問題は、コイツ(美香)ら夫婦だな」
 
「いいかげん、怒るからねっ! あたしだって全然問題ないよ。お母さんの望みならちゃんと叶えてあげるしぃ」
 
「はいはい。まぁ、信じてるけどね。お父さんと私の子だからね。でもさ、百田さんの本に書いてあったわよ。おカネは本当におっかね~ってね。あと、殺人事件は親子間でいちばん多く起きてるって」
 
「ゲッ。そうなんだ~っ!」
 
「やっ、そんなバナナ」
 
「本当なんだよ。警察のホームページにデータが載ってるから見てごらん」
 
「マジかっ!」
 
「もう、美香ちゃんはね。オンナなんだから、そんな口のきき方はおやめなさいよ、本当に。お母さんのほうが恥ずかしくなるわ、マジで」
 
「ハハハハハハハハ。似たもの母娘」
 
 
その後、直子は、
 
●医療まわりの実務と不動産譲渡については眞に、介護まわりとエンディング(葬儀と死後事務)の実務については美香に依頼したいこと。
●年金用口座を除いた全預金高と、直子が暮らす家屋と土地の時価を併せて、ざっと8千万円の財産があること。
●これらは、眞と美香、そしてふたりの子どもたちに、可能な限り早く、ムダな贈与税を払わなくていいように配慮しながら渡していくこと。
●具体的な金額については、眞と美香に託す作業に係るコスト分(それぞれ250万円)とは分けて別枠で先渡ししていくこと。
●大学4年間の費用を自分で支払った美香には相当金額の300万円を上乗せして渡すこと。
●3人の孫の大学および結婚に係る費用相当(それぞれ500万円)を先渡しすること。
●以上の方針に、今後変更があろうとなかろうと、年に一度は親子3人で確認の場を持つこと。
 
等を伝えるのと併せて、「先渡しするおカネの中から、毎月2万円ずつを生活費支援の目的で直子に渡すことを了承させたのだった。
(To be continued.)

【参考図書】
50歳になったら知っておきたい終活の知恵 | 山崎 宏 | 労働政策 | Kindleストア | Amazon

古希までに知っておきたい70の知恵 / 山崎 宏【著】 - 紀伊國屋書店ウェブストア|オンライン書店|本、雑誌の通販、電子書籍ストア (kinokuniya.co.jp)

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