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SUMMER STORM

【SUMMER STORM】

あれはそれなりに遠い夏の日の物語。

バケーションで海の側のロッジ。

台風が近づいていたその日は

昼間からラジオでは台風を知らせるニュースと

当時流行りのラブソング。

昼間から穏やかな海が少しずつ荒れ始める

そんな様子を見ながら、

それでも束の間のバケーションを楽しみたいと

僕らは缶ビール片手に大はしゃぎ。

夕方になるに連れて仲間が集まり始める。

アロハシャツにビーサンという典型的な夏のいでたち数名に、

お前ら考えてる事一緒だなと笑う僕。

夜になると台風が本格的にやってきた。

ラジオのパーソナリティの声も途絶えがち。

またあのラブソングが流れてることはわかった。

窓を叩く強い風の音に

「こんな台風の日のパーティーも楽しいよね!」

なんて笑いながらビールを飲みながらブラックジャック。

目を閉じればいつだってあの日に戻れる。

深夜遅くまで楽しんだ僕らがこうやって

みんなで集まる夏もしばらくはおあずけかもしれない。

そんな想いが一人一人の心にあって、

切なさを隠すように僕らは笑ったんだ。

台風は途中から経路を変えたらしく、

翌朝には風も弱まり少しずつ海は穏やかさを取り戻していた。

チェックアウトを済ませ、それぞれの車に乗り込み、

「じゃぁ、またなっ!」

カーステレオからは当時流行りのあのラブソング。

あれから数年が経ったある冬の話。

その突然鳴り響いた電話。

受話器の向こうの声が信じられず、

さよならは突然やってきた。

あの夏の日の思い出が走馬灯のごとく駆け抜け、

リアリティなんて感じられず、ただただ思い出を信じてた。

そして僕は次の夏にはまた君に会えるかもしれないと、

未来にすがる思いで心は溢れた。

それから夏は10回やってきたが、

あの仲間が集まる事はなかった。

思い出を大切にしたい気持ちと、

前に進まなきゃいけない気持ちが交差するかのように

僕らはそれぞれの人生を歩んだ。

気がつけば10年という時間が流れていた。

確かあの日も今日みたいな焼けるような暑さの

風のない夏の日だった。

聴いていたCDを何気なくラジオに切り替えたら、

10年前に流行ったあのラブソング。

あの夏の日を忘れた事なんか

一日たりともなかった。

忘れたんじゃない。

思い出さなかっただけ。

何度も君の名を叫んだ。涙はとめどなく流れた。

そのラブソングが終わると、ラジオのパーソナリティの声。

「まもなく台風4号がやってきます。十分に御注意ください。」

こんな風にして、僕の2007年の夏は始まった。

今年の夏は10年ぶりに、あのロッジに行ってみようと思う。

君に会いに。



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