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杏のふむふむ

「杏のふむふむ」
著書 杏
初版 2012/06/10
出版 筑摩書房

2022.9読了。

”てつこさん(黒柳徹子氏)のメールには句読点が無く、文章は空白で区切られていて、どこかポエムのようなポクポクとした温かい響きがあった。”

”「陶芸はね、作り手の性格、その人のありのままの姿がそのまま出るんだよ。だから、ある意味、裸をさらけ出すくらい恥ずかしくもあるんだ」
たしかに、私の作品には私の性格や姿がそのまま映し出されていてもいるようだった。ろくろでは、特に顕著にその傾向が現れる。大胆、せっかち、無鉄砲な性格の作品。”

”私は、自分の台詞は、全て一度どこかに書いてから覚える。視覚と触覚、自分で一度紙に吐き出した、という事実を作ることにより、少しでも「内から出てきたもの」として消化、排出するためだ。普段は自分の発する台詞だけを抜き出して書く。しかし、今回は全てを書いた。動きを含めたト書きから、他の人の台詞、歌詞まで、全てである。もちろん、ただ読むよりずっと時間がかかる。仕事の合間に少しずつ進めて、一カ月近くかかってしまった。収穫はたくさんあった。自分の台詞や動きは勿論、自分の出ていない場面や、他の人の台詞、自分の出ていない場面や、他の人の台詞、心の動きへの理解度が格段に増した。ちょっと手が痛くなりながらも書き終えて、なんて深く、面白い話なのだろうと感嘆した。”

”ある日、ダナが「良いウェブサイトを見つけたのよ」と、パソコンを見せてくれた。英日の翻訳ツールのウェブサイトだった。
「ウィー、アー、」とつぶやいて、何かを画面に打ちこみ始める。「私たちは、いつでも、あなたを愛しているからね」「だから、心配しないでね」「いっぱい話してね」。そんな簡単な英語くらいわかるわい!と内心思いながら、改めて日本語できちんと伝えようとするダナのやさしさに、私は「ウン、ウン」と画面を見てうなずきながら、ちょっと、というか、かなり胸にジーンとくるものがあった。ダナは「どうだ!」的な得意顔で、私の顔を見ている。
これをきっかけとして、パリやミラノなどへも海外進出をすることになった。”

”ファッション業界は一期一会という言葉がぴったりと似合う。溜まっているところが一つも無いのだ。常に何かが動いているなかで、一瞬かも、一生かもしれない出会いを次々となぞった日々。思い返すたびに、なんて濃い日々だったのだろう、と思う。
一瞬、一瞬を切り取るこの仕事に出会えて、本当に良かった。世界のどこかで、それぞれの時間を生きている、かつて仕事で出会った人たち。また一緒に仕事をするかもしれないし、もう会うことはないのかもしれない。そのくらい世界は狭くて、また、広いのだろう。”


どこを切り取っても温かい表現や、充実されていたんだと見受けられる言葉たちに、ぐっと引き込まれる。彼女が今まで経験していることを、私に教えてくれているようでとても読みやすい。彼女のメッセージを読むと、私も今日の出会いを大切にしようと思えてくる。

「杏のふむふむ」ふむふむ頷きながら読みました。

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