靴を見る

イタリアでは「その人の履いている靴は、その人の人格そのものをあらわすものである。」という言葉があるらしい。

私は人の足元に興味がない。
街を歩くときは基本的に自分の殻に閉じこもっている事もあり、人の靴を見る事はあまりない。

だがちょっと前に人の靴をまじまじと観察する機会があった。

大阪中心部の駅。私の前を地味めなOL風の女性が歩いている。
女性がエスカレーターに乗り、私も少し離れてその後ろに乗り込んだ。

エスカレーターなので、女性の姿がスーッと私の前で上昇し、履いている靴が目線の高さに上がってきた。

「その靴どこの武器屋で手に入れたんだい」
私が冒険者ならそう声をかけていた。
なんとも攻撃力の高そうな靴だ。
全体に銀の鋲が打たれた細身のローヒールパンプス。
なんかこんな果物あったな…。
そうだドリアンだ。
銀色のドリアン。

ドリアン

「不思議だなあ」と思った。
数多ある靴の中で、この女性はこの靴に魅力を感じて選んだわけだ。
その女性が変だと言いたいわけではなくて、
私とは全く違う感性を「面白いなあ」思った。

今は仕事帰りと言った感じだが、普段この人はどんな服装を好むんだろう。
どういうところに買い物に行くんだろう。
どんな音楽聴くんだろう。

この人が今後ろに倒れたら私に刺さるな…と一抹の不安を感じたあたりで、静かにその靴は私の目線から外れて行った。

普段は気にしない人の足元に、ちょっと興味が湧いた瞬間だった。