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出稼ぎ介護士の〝変身資産〟

【蝉の一生】

自主隔離中は毎朝、息子と公園に行きました。緑豊かな空間に辿り着き、少し視線を上げてみると、木々のいたるところにセミの抜け殻がありました。そして、意識しなくても聞こえてくる、地鳴りのような蝉の声。



『俺は生きてるんだぞ、どうだ!!』



といった力強さを、四方八方から感じられました。京都の暑い夏、久しぶりに味わう日本の夏です。

あれから1か月間が経ちました。未だに連続勤務が継続している中、昨日は久しぶりに仕事が早く終わったので、息子を連れて夕暮れの公園へと向かいました。

ふと視線を下ろしてみると、蝉の死骸がそこかしこに転がっています。これから幼虫の時に過ごした、懐かしい土の中へと還っていくのでしょうか。

ひっくり返った蝉の亡骸を踏みつけないように注意しながら、私の時間の感覚も蘇ってきたようです。



この1カ月間、朝から晩まで働き、目の前の仕事にだけ集中してきました。今日が何日の何曜日なのかもよくわからずにいましたが、確実に時は流れていたのですね。

地上に現れた蝉の一生涯を垣間見ることで、自分の時間もひと月前へと進めることができました。

【変身資産】

地上に出てきた蝉が、さなぎから成虫へと変身していくように、私も1カ月かけて、フィリピンの不動産営業職から、日本の訪問介護ヘルパーへと〝変身〟していきました。

国と業界が変わるわけですから、それなりに大きな〝変身〟ではありましたが、今のところ上手に移行できていると思います。腰痛やストレスからくる皮膚のかゆみ、体重の減少など、変化に伴う〝痛み〟は生じているものの、〝変身〟は順調です。

お金などの有形資産はぜんぜんありませんが、20代から海外に出て自由に生きてきたおかげで、変身資産は多分に持ち合わせていたようです。

変身資産とは、マルチステージを生き抜くため、社会の変化に柔軟に対応し、人生の途中で何度でも新しいステージへの移行を成功させるために必要な意志と能力、のことです。

書籍『LIFESHIFT(ライフ・シフト)』から出てきた言葉で、100年時代の人生を生き抜くためのキーワードの1つです。

以前から、国や業界や組織に縛られないで、自由に生きていくにはどうしたら良いかを考えてきました。その結果、何度も〝変身〟を遂げることになり、知らず知らずのうちに、変身資産を積み上げることができたようです。

蝉の短い一生の中でも、たまご→幼虫→さなぎ→成虫と変身していくのだから、これから先、100年生きていく人間は、さらに多くの変身を経験していくことになるでしょう。

コロナを理由に、変身資産を大幅に増やすことができて良かったです。

【出稼ぎ介護士の感想】

さて、変身資産を積み上げるという視点で考えると、日本で働く外国人介護士はめちゃくちゃ恵まれた環境が用意されていることになります。

新しい国の、新しい業界で、日本人が手取り足取りサポートしながら〝変身資産〟を積み上げてくれるわけですからね。

古い世代の考え方だと、有形資産にのみ目がいきがちで、雇用する方も、雇用される方も、給料の多寡だけに関心が集まりますが、若い世代は、有形資産だけではなく、ちゃんと無形資産のことも考えていて、その中でも〝変身資産〟の重要性を無意識のうちに理解しています。

人生100年生きていくとしたら、どこで何を学び、どんなスキルや経験を身に付けるべきかの〝戦略〟を持たなくてはならないことを、若い世代の彼らは知っています。何の戦略も持たずに、なんとなくで人生100年は生きていけないでしょう。あまりにも長すぎます。

フィリピン人の場合、良いか悪いかは別として、国に依存できませんので、その結果、家族やコミュニティなどの無形資産が充実しています。しかも、若い時から海外に出て働く意欲がありますので、変身資産も多分に備えています。

一方で、日本は発展途上国に比べれば有形資産があり、社会保障も充実していますが、その反面、無形資産、とりわけ変身資産があまりにも脆弱です。

残念ながら、今のお国の制度は、100年生きることを前提に作られていませんので、個人個人が社会情勢に応じて柔軟に〝変身〟していかなくてはなりません。



さて、話を外国人介護人材の方に戻すと、日本人が外国人介護士に〝教える〟という一方通行のベクトルでのみ語られがちですが、変身資産の築き方であれば、むしろ日本人が外国人介護士から教えを乞うべき立場だと思います。

人生100年も生きていたら、いつどこで国力が逆転するかも分かりませんからね。そうなった時、私たち日本人は、外国人労働者としてフィリピンやインドネシアやベトナムで働けますか?

「Yes」と答えられない、あるいは、答えたくない日本人が大半だと思います。でも、貧しい時代の日本人は、アメリカやらブラジルやらに出稼ぎに行ってたんですけどね。

そんな現代の日本人にとって、外国人労働者の存在は、業界の人手不足を補うだけではなく、変身資産の重要性を、私たち日本人に再認識させてくれるかもしれませんね。



と、フィリピンからの出稼ぎ介護士が、豊かな国、日本で働き始めて一カ月たった頃の感想でした。

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