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歓迎されなかったアメリカ

案の定、イラクを「解放」した筈のアメリカ軍は歓迎されませんでした。イランの勢力拡大を恐れたスンニ派近隣諸国からは、ジハーディスト(イスラム過激主義戦闘員)が送り込まれ、後に「イスラム国」が世界を苦しめることになります。
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「global middle east」シリーズ(No. 003)
グロ-バル・ミドル・イースト(No.030, 02/05/2003)
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アラブ義勇兵はどこへ行ったのか?

ブッシュ大統領が「勝利宣言」をして、イラクは解放されたと言った。フセインの恐怖政治からは解放されたが、米兵の銃口が国民を監視している。湾岸戦争でクウェートが解放されて、国民が大喜びで米軍を歓迎したのとは対照的だ。

4月28日、ファルージャで起きた子供を含むデモ隊の大量虐殺は、原因がはっきりしないが、米軍のやることはいつも「非常識なまでに不釣合い」である。投石に対しては実弾で応戦せよ、という指令が下っているのだろう、と思う。パレスチナ占領地で同じような行為に及んでいるイスラエル占領軍の最高司令官たるシャロン首相の顔を見るたび、「何という人非人」と嫌悪感を感じていたが、ラムズフェルドに較べたら何とかわいいことか、と、妙なたとえだが「上には上」がいると感じてしまう。

イラク国内の情勢がそんな状況だから、ブッシュの「勝利宣言」に先立つラムズフェルド国防長官のバグダッド入りというのも、極めて異常な光景だった。彼が訪問したのは、「解放されたイラク」ではなく、イラクの国民に出て行けとののしられて孤立している駐留米軍の「慰問」であるかのようだった。軍用機で空港に降り立ったが、彼を出迎えたイラク人はひとりとして居なかった。アルジャジーラのバグダッド特派員は、「一般国民は、長官がバグダッドを訪問しているなどと知る由もない。報道すらされないし、テレビを見たくても電気もない」とレポートした。マッカーサーが厚木に来た時も、こんな状況だったのだろうか。

戦後の日本のように、とにもかくにも国民が敗戦という現実を受け入れ、復興に向けて働き始めるなら、米国の戦争目的は大いに成功を収めたと言えることになろうが、アラブ人、とりわけ、イラクの複雑な社会を構成する諸民族は、これから様々な自己主張を始め、米軍を苦しめることになるだろう。

戦闘が終わって分かったことは、米国はこれ以上の戦争には耐えられない、ということだ。全ての対空レーダーを破壊して制空権を確保し、「前方に敵発見」、というと爆撃機の援護を要請して民間人もろとも吹き飛ばしてしまう、というやり方でしか戦争ができない。それでも、味方の犠牲者が出ることを避けることが出来ず、「情報操作」でマイナス・イメージを隠蔽しようとしたが、アルジャジーラを含む、世界のメディアの発達の前に、この「情報戦」という分野では敗北した。今、アフガニスタンでは、タリバンが反撃を始めている。

だから、イランを攻めて勝ち目はないし、イランも戦争をしたいとは思っていないので、イランが攻撃されることはない。それは、シーア派が多数を占めるイラクの経営に、条件をつけることになる。攻撃されないのはシリアも同じだが、こちらは絶対、というほどではない。アメリカの「口撃」に、うろたえると墓穴を掘ることになる。

エジプトのムバラク大統領は、イラクが攻撃されれば、百人のビンラディンが出来ると言った。その真偽は別として、もしそんなビンラディンのコピーが出現したとして真っ先に狙うのは、米国の権益もさることながらエジプトなどの親米政権の打倒であろう。そんなテロリストとなり、またその手下となって「わるさ」をするのは、何を隠そう、従来から彼らが抑圧している自国民だ。

そのような「不安定要因」、「過激な人たち」の一部については、「アラブ義勇兵」として開戦直前にイラクへ送り込むことにまんまと成功したかもしれない。「イラクの同胞を守れ」、「米国と戦うことはジハードであり天国への道」と焚きつけたら、単細胞は徒手徒拳で国境を越えていった。しかし、彼らが皆戦死したという証明はないし、根本的な問題、即ち、中東和平問題が解決せず、米国がイスラムを敵視する外交政策を改めない限りは、第二、第三のビンラディンの登場は覚悟しなければならなくなるだろう。中東和平のロードマップは、実現不可能な「絵に描いた餅」であるだけに、先行きが暗い。

「global middle east」シリーズ 
小職はメールマガジン、後にブログとして業務上考えたことを、このタイトルで発信していました。還暦を迎えましたので、自己紹介がてら、今日的になお価値があると思われる記事をここにコメント付きで再掲載しようと思います。旧記事は原則そのままに、最低限の誤字脱字、言い回しの改善を行いました。

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