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ジャバラのまど Vol.22 スケルトンアコーディオン 「Lincordian」

今40代以上の方なら、iMacに端を発した90年代の「スケルトンブーム」を覚えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。いまでこそカラフルなデザインが増えてきましたが、当時はパソコンのボディといえば黒または野暮ったいベージュ。そんな中にあって発表されたiMacは、外装が透明で中の基盤が見えるいわゆるスケルトンデザイン。その斬新さ、新鮮さのインパクトはたいへんなもので、このデザインコンセプトはパソコン以外にもずいぶんと波及したものでした。特に家電や生活雑貨、文房具などに顕著で、とにかく猫も杓子もスケルトン、スケルトン。私もその頃、裁縫箱が必要になって手芸店に行ったらスケルトンの物しかなく仕方なく買ったという経験があり、その裁縫箱はまだ我が家で顕在です。
 さて、そこでアコーディオン。楽器は素材が命ですから、さすがに透明で中がスケスケというのはないだろうと思っていたら、なんと存在しました。スケルトンのアコーディオン「Lincordian」です。

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 と言っても、これは前述のスケルトンブームとはまったく関係が無く、2000年代にアート作品として作られたもの。エンジニアでもあるイギリスのアーチスト、Paul Etienne Lincolnによって開発されました。形は小型のピアノ式アコーディオンで、内部のメカニック部分は普通なのですが、ボディの外側は右手側の鍵盤、左手側もボタンに至るまで、すべてアクリルのような透明な素材でできていて、その上、中にネオン管のような光源が仕込んであります。
アート作品とは言え楽器としての機能もきちんと備えており、2008年、あるアートインスタレーションにおいて初めて使われました。そこでこの楽器によるパフォーマンスを行ったのがNicole Renaud。役柄は水の妖精オンディーヌのイメージだったそうで、だから透明なアコーディオンだったんでしょうね。


そのイベントのあとも彼女は引き続きLincordianによる演奏パフォーマンスを続けており、今や「Lincordian=Nicole Renaud」とも言える存在になっています。暗い空間でLincordianの灯りに照らされながら、優しいオペラボイスで弾き唄いをするというスタイルは、神秘的でありながら映画「ブレードランナー」のような近未来的な雰囲気もあり、なんとも不思議でミステリアス。

Lincordianは世界に3つしか存在しないので、我々が手に触れる機会は無さそうですが、透明なアコーディオンって演奏中に内部の仕組みが動いているのがよく見えて楽しいでしょうね。

下はわりと最近(2015年ですが)街頭で演奏している様子。


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