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ジャバラのまど Vol.25 マックスウェル通りのチキンマン

 私がアコーディオン関連の事柄を調べたいと思うときは、映像や写真を見て気になって…ということが多いのですが、今回もそのひとつ。だいぶ前に偶然見かけて、ずっと気になっていた写真のこの男性について調べてみました。頭の上に鶏をのせ、ホーナーの2列ダイアトニックアコーディオンを弾くアフリカ系の老人。蛇腹の躍動感がとても魅力的な写真です。

Illinois History Journal(drloihjournal.blogspot.com/

初めてこの写真を見かけたときにキャプションから知ることができたのは、彼が「チキンマン(Chikinman)」と呼ばれていることと、この場所が「マックスウェル通り(Maxwell Street)」だということだけ。しかしインターネットからは、この2語だけでも相当な情報をゲットすることができました。ありがたや。
マックスウェル通りはイリノイ州シカゴにある通りの名前。もともとはユダヤ系の移民が多く住む場所で、毎週日曜日に大規模な野外マーケットが開かれることで知られていました。そこにアフリカ系の人々が仕事を求めて南部から移動して来るようになり、このマーケットの中にストリートミュージシャンや大道芸人のカルチャーが生まれます。ここに持ち込まれた南部のブルースが、のちにシカゴブルースというジャンルに結実していくのは有名な話。

チキンマンはもともとアコーディオン演奏の大道芸人でしたが、楽器の故障をきっかけに鶏の曲芸をレパートリーに組み入れるようになります。
彼は、頭の上に鶏を乗せて演奏することで観客を集めました。お客が集まると、首から壊れた受話器を下げて頭上の鶏と話をしたり、鶏を地面に寝かせて白い布をかけておとなしくさせてみせたり、アコーディオンに合わせて鶏をダンスさせたり。そしてショーの合間には、ポケットから密造酒のボトルを出してちびちび、といった塩梅。
 チキンマンについて調べていて面白かったのは、意外と雑誌や新聞などのまとまった情報が無くて、個人ブログの記事やそのコメントなどに「親に連れられて行ったマーケットで見かけた」といったような思い出話が目立ったことですね。チキンマンはテレビ的な仕事をした人ではないので、実際に見た人でないと知りようがなく、それをきちんと記録しようとする人がいないと、もともとこの世にいなかったことにすらなってしまうような存在。それが、特に記録しようという強い意志もない人々によって、情報の断片としてあちこちに点々と残っているのがインターネットの面白さでもあります。
 そんなこんなで、動いているチキンマンの映像も探し当てることができました。映像の本体は1982年公開のドキュメンタリー。オープニングとエンディングに1960年代の彼の映像が使われています。残念ながら実際の音声は入っていませんが、いかにも楽し気で生き生きした様子を見ることができますよ。
 なお、マックスウェル通りの野外マーケットは、治安の悪化や区画整理などを理由に1994年に閉鎖されてしまったそう。残念ですね。

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