見出し画像

ジャバラのまどVol.13 喉歌とアコーディオン Oidupaa Style

遊牧民、なかでもモンゴル系の顔をした人々は、アコーディオンのイメージから一番遠いような気がしていたので、彼らの音楽の中にアコーディオンの音色が混じっているものがあることに気付いたときには、びっくりしたものでした。とくに印象的だったのは、「喉歌」による弾き語り。
喉歌といえばモンゴルのホーミーでご存じの方も多いでしょう。喉を詰めて発声することにより浪曲のような低いダミ声を出す独特の発声法です。さらに舌や口腔内をうまく使うことで振動を加え、その低音の中に笛のような高い音を混ぜ込むこともできるので、人間が発しているとは思えないような不思議な音色になることも。
遊牧民をルーツに持つロシア内の小国、トゥバ共和国もこの喉歌の文化を持つ国のひとつ。ロシアとモンゴルにはさまれたこの国では喉歌をホーメイと呼びますが、そこにロシア式のアコーディオンであるバヤンを合わせた「Oidupaa Style」と呼ばれる歌唱スタイルがあります。私が耳にしたのもそれでした。
その名の由来となったのは、このスタイルを確立したトゥバの伝説的な歌手Vladimir Oidupaa。この人は1949年生まれなので、トゥバ共和国の長い歴史からすればこのスタイルができたのは、実はごく最近の話なんですね。
(ちなみにOidupaaの喉歌はホーメイの中でも低音の部類で、技術的にも難しいといわれる「カルグラ」という唱法です。)

Oidupaa Styleでは、ホーメイを補強するかのようにバヤンを使うのが特徴です。楽器の音程は声からあまり離れず、ほぼユニゾンに近い。しかし、人間の喉とリードでは発する音の質が違いますから、それらが合わさることで何とも言えないアンビエントなサウンドが生まれます。バヤンは歌の伴奏であるとともに、ホーメイの持つ倍音を増幅するように働き、神秘的かつ力強い世界観をつくり出すのです。
Oidupaa氏本人は2013年に亡くなっており、現在は同じくトゥバのバンド「Chirgilchin」のIgor Koshkendeyや「Alash Ensemble」のBady-Dorzhu Ondarなどが、いくつかのレパートリーの中で継承しています。

【Igor Koshkendey】↓

【Bady-Dorzhu Ondar】↓

アコーディオン類は楽器の歴史からすると新しい部類のため、民族音楽の仲間入りするときには他の楽器に置き換わる形で普及する例が多いのですが、ここでは古来の楽器が駆逐されず共存しているのがおもしろいところ。この2名にしてもイギルやドゥシプルールのようなトゥバ独自の楽器も弾きこなし、曲によってバヤンに持ち替えて弾き歌うといった具合。単に音楽的なバリエーションが増えているんですね。
他の楽器を「上書き」しなかったのはなぜか?このスタイルではバヤンが歌い手にとってはいわば「もうひとつの喉」のような存在になるから・・・楽器というより「声」の方に近いからかな?
・・・なんて、ホントのところはわかりませんが、ホーメイとバヤンの邂逅が新しい響きをこの世に産み出したことは確かでしょう。

誌面の方には文字数が足りなくて書けなかったのですが、トゥバ同様ロシア内の共和国であるアルタイ共和国にも「カイ」と呼ばれる喉歌があり、バヤンの組み合わせによる弾き歌いをする例が見られます。
これはその名もAltai kaiというバンドのヴォーカリストによるソロ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?