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ジャバラのまど Vol.17 パキスタン 歌うアコーディオン

個人的な趣味により、さまざまなアコーディオン国際コンクールの動画配信をチェックし始めてはや8年。当初は出場するのも審査するのもヨーロッパの人たちが中心で、アジアからは中国または韓国の音楽エリートがちらほら混じる感じでしたが、今年のPIFも含め、近年の状況をしげしげ思い返してみますと、それ以外のアジアの国が少しずつ増えてきたように思います。インド、ベトナム、カザフスタンなど、以前はまったく見かけなかった国々なので、それぞれにどんなアコーディオン文化があるのか興味がかき立てられる昨今です。
特にインドは私としては全くイメージが無い国なので、とても気になりYouTubeでリサーチ。なるほどインドの方の演奏映像もけっこうあるなー、と、いろいろ観てみた中で、印象に残った演奏についてさらに調べてみたら・・・どうも、私がインドだと思って観ていた動画は、かなりの割合でパキスタンだったみたい。(ゴメンナサイ!)そして、それはイスラム教の一宗派であるスーフィズム(イスラム神秘主義)の宗教音楽、「カッワーリー」の編成にアコーディオンを取り込んだものでした。
原則的にイスラム教の教義は音楽に対して否定的なのですが、スーフィズムでは音楽や舞踊を宗教的な修行の一部と見なしており、カッワーリーもそうした中から生まれたもの。パキスタンの他にもインド北部やバングラデシュなどでも普及しています。もともとは宗教的な場で演奏されるものでしたが、次第に大衆化して映画音楽やポップスなどにも取り入れられているそうで、トラック運転手などはカセットテープで聴きながら走っているとか。国民的、かつ庶民的な音楽なんですね。
典型的な楽器編成はタブラなどの打楽器とハルモニウムと呼ばれるオルガン。そして歌い手による歌唱を伴います。

この編成だとアコーディオンと置き換わりそうなものなのですが、私が見た事例では、おもしろいことにハルモニウムはそのままでアコーディオンが歌メロと弾くという形態に変化。つまりアコーディオンが「歌い手」となっているのです。イスラム唱法的なコブシも指さばきと蛇腹使いで再現し、マイクを通して電気的にリバーブもかけるので、浮遊感のある不思議な演奏に。特徴的な演奏を載せておきますのでご覧ください。(パキスタンの演奏家Ali Khan氏による)

今のところ事例としてはそんなに多いわけではなく、比較的年代が新しい映像が多いので、スタイルとしては新しいのかもしれません。今後の発展が楽しみです。
世界にばらまかれた蛇腹の種は世界各地でいろいろな形で育っていて、インターネットのおかげでこのようなローカル化した、いわば「辺境のアコーディオン」を発見することが容易になりました。逆に考えると私たち、日本人のアコーディオンもネットを通してどこかの国で発見されているのかも。お互いに大いに発見し合い、蛇腹の世界を豊かに広げていきたいものですね。


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