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感銘を受けたアーティスト:Bill Evans

皆さんはこのジャズピアニストをご存じだろうか。ジャズを好む人はもちろん、ジャズに詳しくない人でも、「この人は知っている」と言われることも多いのではないだろうか。そんな有名なアーティストに、私は文字通り心を打たれた。彼の見知らぬ曲を聴いても、すぐに「これはビル・エヴァンスのではないか?」と気づいてしまう。いまのところ外していない。まだ見ぬビル・エヴァンスの楽曲を出題する「ビル・エヴァンス・テスト」なるものがもしもあれば、相当な点数をとれる自信がある。

冗談はさておき、そんな彼の紹介とはいっても、ここまで有名になるのだから、彼に惹かれた者はそれこそ数えきれないほどいるだろう。その中で、彼に関する批評なり感想文なりは大量にある。わざわざこの一個人のページを見てくださった人のためにも、それらとは差別してもらうために、なるべく自分本位で書いていく。

まずは、実際に音を聞いてもらう以外にない。以下の代表曲、ともいえるであろう「Waltz for Debby」から聞いていただきたい。

いかがだろうか。やはり彼のピアノの特徴ともいえるのが、ロマンチストを思わせるような美しさ、引き込まれるような音楽であろう。彼が印象派クラシックの影響を受けていることももちろんであろうが、それでも彼にしか見られない独特の世界がある。それがわかりやすく認知できると思う。

彼自身はドビュッシーやラヴェルなどのクラシックに影響を受けているが、これらの作曲家は印象主義的で、和音や風景をも思わせる引き込まれるような世界観が印象的だ。ドビュッシーは「海」、ラヴェルは「ダフニスとクロエ」などが特に特徴的だと思う。そのような彼は、多くのジャズミュージシャンに影響を与えているようである。時代を超えて現在まで語り継がれるだけの歴史を刻んだことは間違いない。

そんな彼の演奏を私が初めて聞いたのは、高校生のころである。小学生の頃より、父おススメで長らく聞いていたのが、マイルス・デイビスであった。そんな彼の演奏の中で、特に聞き入っていたのは、「Miles Ahead」「walkin'」「Four and More」といったアルバムの作品である。父の部屋にはマイルス・デイビスを含めたくさんのジャズCDがあったが、どうしても聞きたくても見当たらないものがあった。それが、ビル・エヴァンスがメンバーとして参加する「Kind of Blue」である。高校生になりスマホを手に入れ、YouTubeが使い放題になったことによって、たどり着くことができた。

当初はビル・エヴァンスの存在は知っていたものの、マイルスに熱烈に夢中だったため、未熟だった私はビル・エヴァンスは聞く気も起きなかった。しかしながら、「Kind of Blue」のなかの名曲、「Blue in Green」を聞いたときに、それは大きく覆ることになる。

この楽曲はかなり濃い曲と言われており、このジャズとしてはかなり短めの5分ほどの中に、スローテンポながらもたくさんの音楽がぎっしり詰め込まれている、そんな楽曲である。「緑の中の青」と直訳され、意味をとることも非常に難しいこの曲には、複雑かつ透き通り、緻密な色が感じられる。若かりし私はこの曲に打ちひしがれて、しばらく言葉は一言も出ず、ひたすら言葉にならない余韻をかみしめていた。さすがマイルス、とも思ったが、この曲におけるピアノの重要性にかなり世界観を揺さぶられた。非常にダークでスモーキーともいえる各楽器のサウンド、それをしっかり醸し出すのはもちろんリーダーであるマイルスのトランペットであるが、イントロと曲の最後を飾るのは、ビル・エヴァンスのピアノである。作曲者がビル、あるいはビルとマイルスの共作であることも関連するのであろう。

私はこの曲を聞いて、初めてジャズピアノというものに興味を持ち、ビル・エヴァンス単独の楽曲を調べ上げていった。そして見る見るうちに虜になり、今に至る。

ビル・エヴァンスの餌食になったものとして、今日は私個人的なおススメを一曲披露させていただきたい。私の稚拙な言葉よりも、ここまで読んでいただいた後に聞くビル・エヴァンスのピアノと、そこから皆さんの中に生まれる何かを、持って帰っていただきたい。

私が紹介する楽曲は、アルバム「Alone」の中の、「Never let me go」という楽曲である。

このアルバムは、完全にビル・エヴァンス一人だけの演奏で完結する、ピアノならではのアルバムとなっている。ドラムやベースの存在ももちろん重要だが、ピアノの単独演奏によって、彼の紡ぎだす世界観が、ある意味フィルターなしに忠実に届くように思う。美しい曲が連なるこのアルバムの中で、一際心に来るのが、おそらくこの「Never let me go」である。

このアルバムの中で数々の美しい情景が連なる中で、この曲は特に直接的に明るくなるのではなく、終始憂鬱さも感じられるようなテーマが繰り返される。この曲を聴いていると、おそらく終わっていない思春期の私が見る、人生を思わせるようである。人生とは単純に、白く光るものではなく、もっといろいろなものの重なりである。一つ一つが混沌として、誰から見てもきっとそうなんだろう。その人生のナイーブなところを一音一音で優しく持っていかれるようである。

なぜ私がここまで彼に惹かれるのか。おそらく彼の音楽に私の人生への共感のようなものを感じたからである。彼の音楽から想像される時間帯は、早朝のモヤモヤした時間か、静かな午後か、夜の落ち着きだろう。それぞれの時間帯で、静まり返ったところでの頭の中を表現したような、あるいは風景が表現されたような、とにかくひとけがなく、あるいは遠くから眺めている、とにかく、落ち着きを促すような、しかしそれでいて内面は情熱的というか、流れがあるように感じる。そういった曲が多い。

こういった曲は、日々出会えない、それでも美しさを感じるために必要な空間を思わせるのである。私が求めている空間、それは彼の音楽に大きなヒントになることはきっと間違いない。

この曲は確実に、私に何かを残した。同じように皆様の中にも残れば幸いである。少々長めになってしまったが、読んでいただいた皆様に感謝申し上げたい。

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