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SDGs研究の第一人者・蟹江憲史さんがハマった「ルールがない面白さ」

「10年後の未来をよくしたい!」という思いで活動している人たちにお話を聞く、「SDGs People インタビュー」。今回のSDGs Peopleは、蟹江憲史さんです。
蟹江さんは、国際関係論を専門とする研究者で、日本におけるSDGs研究の第一人者。ジャパンSDGsアクション推進協議会の会長も務めています。研究者として、一人の生活者として、蟹江さんはSDGsのどんなところに魅力を感じ、どのような未来を描いているのでしょうか。

(文:相澤優太)

人をどんどん巻き込んでいくSDGs。気づいた時には自分もどっぷり!

ーー蟹江さんがSDGsにハマったきっかけはなんですか?

地球課題への関心が高まったのは、地球温暖化について研究していた2000年頃です。でも、いろいろと調べたり、国際会議に参加したりしているうちに、「…温暖化対策の国際交渉って、ひょっとして進んでいるようで全然進んでないの???」と、感じたんです。
COP15(気候変動枠組条約第15回締約国会議。世界の気温上昇を2℃以内に抑えるなどの数値目標がコペンハーゲン合意に明記された)が開催された2009年になると、温暖化の研究がほぼ出尽くしていたこともあって、「もっと面白い研究テーマはないかな~」と、思っていました。

そんな時に出会ったのがSDGsだったんです。

2011年9月に日本で開催された国際ネットワークの会議でのこと。グアテマラの女性の外交官が、SDGsの素案を提出し、「シンプルにゴールを設定するSDGsは絶対に面白くなる。グローバルガバナンスを動かす大転換になるかもしれない!」と、熱弁していたんです。
環境問題をめぐるそれまでの国際交渉では、「温室効果ガスの削減」など、特に発展途上国の経済成長にとってマイナスとなるような目標がつきものでした。でも、SDGsは経済や社会の持続的な発展を目的にしています。また、その実現のためのアクションについても、「これをやらなければならない」というルールがなく、国や企業、個人で自由に決めることができます。
こうした柔軟な枠組みは温暖化交渉にはありませんでしたから、「これなら世界が変わる可能性があるぞ!」と、ワクワクしました。これが興味を持ったきっかけです。

案の定、その翌年に開催されたリオ+20(国連持続可能な開発会議。SDGsについての活発な議論がスタートした)では、国連が盛り上がってSDGsをつくろうということになりました。私も国際機関や研究者の知り合いにSDGsの魅力を説いてまわっていたのですが、「なんて画期的な取り組みだ!」とウケが良く、関心を持つ人が瞬く間にどんどん増えていったんです。

そんな共感と拡散のプロセスがほんとうに面白くて、気づいたら私自身もどっぷりハマっていました(笑)。2015年に国連でSDGsが採択されてからは、「実際にどのように機能していくのか」ということに関心がシフトしていますが、今も没頭していることは変わりません。

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SDGsが画期的なのは、ルールがなくて自由なところ

ーーSDGsが人を惹きつけるのは、どうしてでしょうか?

目標だけがあって、ルールがないことがポイントだと思います。

SDGsは、17の目標と169のターゲットがあるだけで、どのように取り組むかは人それぞれ。しかも目標達成までに15年という長い期間があるので、まあ、縛りがゆるいんです(笑)。でも、だからこそ、各国が合意しやすいんですね。

SDGsの達成に向けて積極的に取り組む企業や人が増えているのも、規制で縛られない「フリーハンド」な部分がマッチするからだと思います。
個々の事情や想いなどに合わせて目標やターゲットを選べて、アクションは自分で決められる。だから、他国や他社(者)の取り組みに対して、ポジティブな関心は持っても、非難するようなことはほとんど起きない。そこが温暖化の国際的な対策のような、これまでの国連の施策と異なるところです。

あと、「サステナビリティ」というと、従来は「環境」とほぼイコールととらえられがちでしたが、SDGsには「経済」「社会」の持続可能性もしっかり入っています。だからこそ、企業も個人も「自分ごと」にしやすいんでしょうね。

ーーそれにしても、SDGsをめぐる最近の盛り上がりはすごいですよね。

正直、ここまで多くの人や団体を巻き込むことになるとは予想していませんでした。タイミングが良かったんでしょう(笑)。でも、そうだと思うんです。

まず、インターネットの普及です。SDGsのロゴって、カラフルでキャッチーですよね。そのロゴを共有しながら、あらゆる人が取り組みを自由に発信できる。SNSを活用すれば、SDGsをテーマにした横のつながりも広がっていく。「社会課題を解決するためのアクション」という、なんだか難しそうな行為を、楽しみながらやっている人たちって、ほんとうに多いですよね。

また、SDGsが広まった2010年代は、「社会課題」や「社会基盤」に対する関心が高まった時期でもあります。リーマンショックの影響が尾を引く中で東日本大震災があり、その後も自然災害が多発し、ソリューション型のビジネスやCSR・CSVの意識が広がっていきました。
そんなときに、ポッと現れたのがSDGs。世界中の人が、自然な形で受け入れたのは、やはりタイミングが良かったと思います。

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新型コロナウイルスは“行動の10年”を後押しする

ーー東日本大震災などをきっかけにCSRやCSVへの注目が高まったことを考えると、今回のコロナ禍でも同じことが起こるのでしょうか?

新型コロナウイルスの流行により、経済や社会の基盤が実は脆弱だったことが明らかになりました。行きつけのお店が閉店・休業したり、いち生活者にも失業や倒産がリアルなものとして感じられるような状況です。
その背景を追っていくうちに、多くの人が「経済と地球環境って、すごく密接につながっているんだ」と、気づいたのではないでしょうか。

緊急事態宣言の頃までは、世の中が新型コロナ一辺倒でしたが、最近は「やっぱりSDGsが大切なんじゃないか」と、再認識する気運が日に日に高まっていると思います。
テレビやラジオ、新聞などのメディアでも、SDGsが取り上げられる機会が増えていますよね。そして、「そういえば、SDGsという選択肢があったな」と、ふとした瞬間に思い出した人が、まだSDGsを知らない人にも共有していく。そういう動きが社会に自然と広まっているのだと思います。
いまだにたくさんの方々が苦しい状況にありますが、今回のコロナ禍は社会や経済の持続可能性を引き上げるチャンスととらえることもできます。抗力がかかるほどバネの力が強まるように、SDGsに関する取り組みが一気に加速する気がします。


何気ない家庭での会話もSDGsアクションのひとつ

ーー蟹江さんは父親でもありますが、お子さんとSDGsについて話すことはありますか?

さきほどお話しした2011年の会議は合宿形式だったこともあり、当時0歳だった長男を連れていきました。朝食や夕食時など、関係者と話しているところにも居合わせているので、「SDGs」という言葉を世界で初めて耳にした子どもだと思います(笑)。

現在は小学4年生ですが、SDGsに対して興味があるようです。
自宅を建てたとき、設計のコンセプトをSDGsにしたのですが、「子ども部屋はどうしようか?」と、一緒に考えたりしました。その後、小学校の社会科の授業で「非常食で一日中過ごす」という体験学習があったとき、「ウチには太陽光発電があるので、非常食がなくても大丈夫です!」という発表をしたようです。
子育ての中で、SDGsを意識しているわけではないんですが、折に触れてSDGsの話などをすることはあります。「ちょっとしたことで子どもって変わるんだなぁ」と思いますね。


ざっくばらんな意見交換が未来の地球を変えていく!

ーーでは、次代の子どもたちにSDGsを伝えていくにはどうしたらいいのでしょうか?

中学生を対象に「SDGsの169の標語を翻訳する」という課題で授業をしたことがあるのですが、このときはものすごく手応えを感じました。
英語のキャッチコピーを日本語にしていく作業なのですが、ただ訳せばいいのではなくて、内容をしっかりと理解する必要があるので、子どもたちは「この国で何が起こっているのか」「その原因は何か」と、自発的に調べていきます。すると、地球上で起きているあらゆる問題に直面し、解決策としてのキャッチコピーを自分の頭で考えるんです。

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例えば、目標15の「陸の豊かさも守ろう」には、「侵略的外来種の移入を防止」というターゲットがあります。英語の原文には「alien species」という言葉があるのですが、それを見て「エイリアン、来る!」という、ユニークでスリリングなコピーを考えたりしました(笑)。
そんな感じで、遊びながら、ざっくばらんにコミュニケーションをしていると、子どもたちがどんどん質問をしてくるんです。「なんで?」「どうして?」と、際限なくわいてくる子どもの疑問に対して、答えてあげなければいけないわけですが、大人でも分からないことはたくさんあります。そんな時は一緒に調べればいいのです。
お互いに地球市民の一人として、世代を超えて課題を意識することって、素晴らしいじゃないですか。知ったかぶりをする必要はありません。

子どもたちが早い段階から地球や社会の問題に目を向け始めることは、未来を変えていく可能性に直結します。だからといって、押しつけるような教育は時代遅れですよね。そこでSDGs のフリーハンドな部分を活用する。社会のことを知りすぎないからこそ出てくる自由な発想ってあると思うんです。SDGsって、教材としても優れもの。大事なのは大人がその芽を摘み取らないことだと思います。

2030年に達成できたことは、その後も持続する

ーー最後に、蟹江さんが描いている「10年後の未来」とは?

もちろん、SDGsの目標を達成している未来です。2030年の段階で実現していることは、軌道に乗ってその後も持続していくと思うんです。だからこそ、今を生きている私たちの世代が果たすべき責任は大きい。
今年始まった「行動の10年」は、持続可能な未来へと飛躍するための大切な期間です。ジャパンSDGsアクションを、そのきっかけにしたいですね。