見出し画像

ぶどうの収穫祭「ビウ」

─ フランス・ジュラ地方 ─

フランス東部、スイスと国境を接してジュラ(Jura)地方がある。アルプス山麓のジュラ地方は、ラテン語の原始林を意味するユリア(JURIA)に由来する。
ジュラシック・パークも地質時代のジュラ紀もこの地方の名称に起因する。ジュラ地方は太古の昔、大陸分離、海洋への変革など大地殻変動があり複雑な地質をしている。そのためか濃い風味と旨味、味覚のチーズやワインなどの名産品が多い。
ジュラ・ワインはワイン通には人気の隠れた名ワイン。ジュラ・ワインの中心産地アルボワ(Arbois)の守護聖人、聖ジュストの記念日(9月2日)に近い9月初旬の週末、ぶどうの収穫祭「ビウ(BIOU)」が開催される。
ビウ」とは、フランス語のベル(美しい)に由来する美しいぶどうで造る巨大な御輿ことだ。

納屋内で完成ビウとクーロンヌ(王冠)

祭りのメインは、パレード前日のビウ作りから始まる。ぶどう農家の人、ワイン醸造家たちが、"細菌学者パストゥールが研究した館"とされる「ヴェルセル館」の納屋に集まり、持ち込んだ今年最初に収穫した美しいぶどうの房で巨大な御輿「ビウ」を造る。
完成後には市長はじめ町のお歴々も駆けつけ、ジュラの発泡ワイン、クレマン・ド・ジュラで乾杯。

ぶどう箱

この地方で栽培されているぶどうは、白ワイン用のサヴァニャン(Savagnin)シャルドネ(Chardonnay)、赤ワイン用のトルソー(Troussau)プルサール(Plousard)の4種。
シャルドネ以外は、他地方であまり見られないぶどうの品種ばかり。この地方のテロワール(土壌)とぶどうの品種も影響して、ミネラル豊富でコクが強い実に個性的なワインを造る。
ひと目見ただけでは、ぶどうの品種の差別ができないが、葉の形が違うとか? 農家の人も葉を見ながら教えてくれた。

ヴェルセル館から出るところ

パレードは、9時半にヴェルセル館を出発。いつもの農作業服から離れて今日だけは正装したぶどう農家の男性たちが、ワイン醸造農家のご婦人たちに導かれてビウを担ぐ。

女性たちが先導したパレードの様子

中心街を通り、聖ジュスト教会まで約1.5キロメートル、時間にして約30分のパレードがある。先導する女性たちは、手に手にジュラ地方特有の品種のぶどうの枝を持って、ビウのパレードを先導する。

パストゥールの像のある公園

細菌学者で、ワインの科学化に大貢献したパストゥールに敬意を表して、メイン・ストリートに面したパストゥール公園に立ち寄り、銅像に市長から献花。
ルイ・パストゥールはアルボワ近くのドレ(Dole)で生まれ、アルボワには両親の家があったことから青少年時代を過ごした。
パストゥールは、酵母が微生物の塊で、ワイン作りに重要な役割を果たしていることなど、ワインに関する様々な研究をした学者でもあった。

教会前での祝聖

教会前で教区司祭によるビウの祝聖があり、堂内へ。
ふだんは、閑散としている堂内も、この日ばかりは立錐の余地のないほど、記念日のミサ参加者でいっぱい。

吊るされるビウ

ミサが始まる前にビウを天井に引き上げるセレモニーがある。主にシャルドネプルサールの2種類のぶどうで作られたビウの重さは80キログラムもあるという。
ぶどうの最初の収穫時期が聖ジュストの記念日に近いことから、聖人の記念日をぶどう収穫祭としている。昔は、カレンダーの曜日ではなく、聖人たちの記念日、祝日を農作物、生活習慣の節目の日としていた。
ビウは約2週間、教会堂の天井に吊るされる。

ミサの様子

記念日のミサは、教区司祭ゲラール氏の司式で行われた。この日は第二次世界大戦からアルボワが解放された記念日でもあり、戦死者への追悼の言葉、祈りもあった。

クーロンヌのパレード

ミサが終わると、再度ヴェルセル館からぶどうで作った「クーロンヌ(couronne 王冠)」のパレードがある。
クーロンヌは、赤ワイン用の黒ぶどうで作られた大きな王冠で、町出身の戦没者へ献納される。
聖ジュスト教会近くに立つ戦没者記念碑で、町民全員参加の奉納式があった。

クーロンヌの献納

消防署の音楽隊がマーチを奏でる中、ぶどうの王冠が消防士に渡され、記念碑の上方に掲げられる。
本来、第一次世界大戦の戦没者記念碑であったが、現在は第二次世界大戦の記念碑も兼ねている。
正午に黙祷があり、ぶどうの王冠が捧げられ、市長、商工会長などの献花が続いた。

ワイナリー直売ショップ

アルボワの中心街には数多くのジュラ・ワインワイナリー直売ショップがある。
赤、白双方のワインがあるが、ジュラ・ワインを代表するのは、おもに白ワイン。
サヴィニヤン種のぶどうで作った個性的なワインは、この地方の名物チーズ、コンテ(Comté)に良く合う。

ワイン・ボトル

食事用にはサヴィニャンの白ワイン(左)、もしくはサヴァニャンとシャルドネ半々のべタニア・ワイン、チーズを食べる際にはヴァン・ジョンヌ(右)、デザート・ワインにはヴァン・デ・パイユ(中央)と明確なすみ分け、飲み分け(?)がある。
味覚、風味が複雑で、個性的なワインであると共に、ワインのボトルも特徴のあるオリジナリティに富んでいる。

チーズ専門店

この地方には、名産チーズのコンテモルビエ(Morbier)などを測り売りするチーズ専門店(Formagerie)も多々ある。なかでもフランス人にチーズの王様と言われている、厚さ20センチ、直径80センチ前後のコンテ・チーズは、白のジュラ・ワインに良く似合う! 絶品チーズ。

ぶどう畑

アルボワ市街はぶどう畑に囲まれている。聖ジュスト教会の周辺にもぶどう畑が広がっている。
屈強そうな、高さ75メートルの教会の塔は、物見の塔の役割も果たし、外敵の侵入から町民を守り、ぶどう畑を護っていた。


聖人録

聖ジュスト

San Giusto

聖ジュストの生涯は正確には分かっていないが、4世紀初頭にフランス南部ラングドック地方のトゥルノン(Tournon)の貴族の家庭に生まれたとされる。4世紀半ばに南フランスのヴィエンヌで助祭となり、4世紀後半にリヨン司教になった。リヨンで、冤罪の人を助けられなかったことを苦慮し、晩年、隠修士ヴィアクターと共にエジプトに行き、その地で殉教したされる。聖ジュストは帰天後、リヨンで熱狂的に崇敬されていた。その事実は、聖職叙階日(7月14日)、リヨンへの聖遺物の移葬日(8月4日)、帰天日(9月2日)、エジプトへの出奔(10月14日)と年4回、記念日としてリヨンで祝われていたことでも伺える。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?