10日本文学史 中古代 伝承性と現実性

加藤幸一 日本文学史 1997 奥羽大学 記録尾坂淳一
(竹取物語~源氏物語の伝承性と現実性)

1、文学史研究とは
「文学史的考察」
前に成立した作品から影響を受けつつあたらしさ、独創性を盛り込み変化発展
古今集、後撰集、拾遺集「霞、氷解」視覚的

後拾遺集「春霞」伝統に則りつつ聴覚=あたらしさ

源氏物語の紫のゆかり
理想の女性を思慕、手の届かない存在=物語文学の伝統的主題
「竹取物語」月の都へ

「宇津保物語」皇太子妃

「源氏物語」身代わり、ゆかりの構成=あたらしさ、長編性、
=前に書かれた作品と比較し独創性を明らかにする、変化発展の様相

「時代区分」
政治史の区分を基準にし文化文学の発展を考慮に入れる
上代 大和~奈良
中古 平安
中世 室町
近世 江戸
近代 大正
現代 昭和
中古の政治文化 京都を地に朝廷、貴族、仮名の発明→女流文学(物語や日記)
古典作品中心の文学史 作者不明が多い、一人の作者は多くは書かない(最高三作)→作家が職ではなかった

「物語文学の発生と展開」
「ものがたり」の原義と物語文学 平安前期~鎌倉
ものがたり
平安~現代 お話、談話の意
万葉集に三例(文献上最古例)1287、2845
もの=鬼(万葉仮名 万葉集550)
民族学もの=鬼や悪霊が活躍する超現実的世界
   かたり=口頭で語る

ものがたりの原義
口承文学(7世紀以前)
平安「もののけ」生き霊や死霊

物語
超現実的、語り手(草子地)がものがたりの原義と結び付く=上代の口承文学から受け継いだ伝承性

平安貴族社会の現実性
=物語文学の基本的性質

竹取物語 超現実性+古事記や風土記
伊勢物語 歌物語+現実性+万葉集
源氏物語 つくり物語+歌物語 超現実性+人間の内面
11~12世紀 後期物語

古事記→竹取→落窪 →源氏→狭衣    →お伽草子
風土記    宇津保    夜の寝覚
              浜松中納言
              とりかへばや
万葉集→伊勢→大和 ↗
       平中

「物語は点として存在する」
10世紀の作品は六作品しか残っていない
「三宝絵詞」984年源為憲仏教説話集
「草よりも茂く真砂より多かれども」
源氏物語以前に確認できるだけで25~6作
=散逸物語 文献に名のみとどめ実体は存在しない
=残った作品 優れた作品、後世でも評価が高く書写により伝来
→点で残った作を線で結ぶ+散逸の作も考慮

「物語文学の読者」
「三宝絵詞」序文「女の御心をやるものなり」権門貴族の姫君を狙った
現存の作=平仮名=女性の私用文字
「恋愛」=女性好み
→源氏物語研究の第一人者玉上琢弥「女が書いた女のための女の物語」

2、「竹取物語」物語の元祖
源氏物語給合の巻「物語のいで来はじめの頃」平安中期11世紀初め「竹取物語「祖」」
成立年代「源氏物語給合」現在の内容と一致=11世紀初には存在
素朴で稚壮仮名散文、漢文訓読文体の頻出「いはく~といふ」、和歌の修辞法(縁語、掛詞)、=9世紀終わりから10世紀初め
作者不明(漢文的=男性)

「古伝承の血」上代の口承文芸としての物語
a語りの文体「今は昔」古事記、風土記「昔者(は)」
時の提示+主人公の親の紹介=つくり物語の冒頭起筆の伝統的形式

b助動詞けり(伝聞~たそうな)と係助詞なむ(口語的強調、会話文に多用~ね)の多用
=語り手が聞き手を意識しつつ人から伝え聞いた昔話を口頭で語る文体
けり、なむ 冒頭で頻出

現在形

章末で再登場
=竹取が古伝承の血を引くものとして書かれた
語りの文体→以後のつくり物語にも受け継がれる

「主人公の超人性」
三ヶ月で成人式
光り輝く美貌
翁に富
消身の術「きと影になりぬ」
変化の人(神仏が人の姿になったもの)
超人=古事記、風土記の神話(神、その子孫、天人、精霊)→古伝承の血

はこやの刀自てりみち姫
宇津保物語仲忠
源氏物語光源氏

「物語の枠組みと口承説話」
かぐや姫の発見から昇天まで=大枠

①天人女房譚の話型

羽衣伝説(丹後、近江、駿河風土記)

翁が裕福になる

②竹取長者譚

かぐや姫が難題をかける

③難題求婚譚

=三つの話型が合体した竹取説話が口承されていた
竹取説話→竹取物語
    ↘口承→今昔物語集
       ↘中世古今集注釈書
=竹取物語全体の枠組みを口承説話に拠った
=文体、主人公、枠組みに古伝承の血が濃厚(伝承性の優位)

「平安朝物語としての現実性」
口承説話≠竹取物語
独自の部分→平安貴族社会の現実に関わる部分

物語は現在の人の心を描く
竹取のかぐや姫=人の心が宿る、超人的な不思議な女性=慕ってくる男性への思い遣り、別れでの翁夫婦への優しさ=平安貴族女性が持つべきもののあはれ

今昔物語竹取説話の主人公=感情がない、正体不明

物語は現在の社会を描く
五人の貴公子=上流貴族の主要人物=失敗談=写実的、ユーモラス=財力や権力によっている貴族を風刺=現実を描こうとする姿勢

今昔物語=失敗談は簡略

=竹取物語の現実性(伝承性+現実性)
以後のつくり物語の基本的性質
古い物語=伝承性>現実性
新しい物語=伝承性<現実性

「竹取物語の主題」
全体の枠組み→古伝承の話型(伝承性優位)+現実性(わずか)
天の羽衣の段→かぐや姫の人間らしいもののあはれを解する心顕著
天上の世界(老いも死ももの思いもない理想的世界)→地上の世界に執着するかぐや姫「物知らぬこと、なのたまひそ」(人間らしい心)
感情を喪失し昇天→天人女房譚に則りつつ離別の情愛を描く

主題 以後の物語で拡大、平安朝物語文学共通の主題「もののあはれ」

口承文芸から脱皮したつくり物語の元祖

3、「落窪物語」継子いじめの物語
「継子物の流行」
源氏物語紫の上(継母)・明石の姫君(継子)・明石の上(実母)
「いみじう選りつつ」おびただしく流布(現存は宇津保物語忠こその巻、住吉物語、落窪物語)

「成立と作者」
現存本と枕草子二七四段の記述と一致=枕草子成立の頃流布
一条天皇即位(986年)の史実と一致
→986~1001年成立
作者=不明、男性的

「物語の冒頭と梗概」
全四巻の中編
冒頭 伝統的形式(時の提示と主人公の親の紹介)
四人の娘を大切に養育、腹違いの娘落窪に継母が虐待
↓女童阿漕
蔵人少将道頼が落窪に通う
↓典薬の助
愛人道頼による救出
道頼による継母への報復
道頼太政大臣に
落窪の君正室に
阿漕典侍に
→侍女の活躍→作者が予定した読者

「継子いじめ譚」=伝承性
口承文芸の話型、貴種流離譚の一変型(高貴な主人公→逆境=田舎や継子いじめ→幸福)
=伝承性の優位
継母による虐待
継母への報復
貴公子との結婚
幸福な生活
+援助者の存在、高貴な血筋、人知れない美貌

「一夫一婦制への夢」=現実性
現実的な社会問題だった継子いじめ←一夫多婦制、通い婚、養育者の不在、

一夫一婦の主張
道頼は終生落窪の君一人を愛する
景政の発言
道頼の母の発言
継子いじめの解決策として提唱、貴族女性の夢、

道頼のような人物
源氏物語落葉の宮、大君と浮舟→「光源氏とは違った理想像」
家庭内の克明な描写
人物の内面が内的独白で克明
竹取物語に比べ現実性の部分増大

4、「宇津保物語」長編物語への道
「現存最古の長編」
竹取物語一巻
落窪物語四巻
宇津保物語二十巻
↓源氏物語の先駆
源氏物語五十四帖

「題」
うつほ=空洞=主人公仲忠母子の北山の大杉の空洞住まい

「成立」
天禄~長徳の約30年間内

「作者」
源順か?根拠は無し
男性、複数か?

「二つの主題と構成」
構想のまとまりが悪い
仲忠を中心とする琴伝授の物語(首巻)
あて宮を中心とする求婚物語(二巻)
↓二つを混合
琴伝授~あて宮求婚~あて宮入内後の勢力争い~琴伝授~仲忠一族の栄華
(成立事情の問題)まとまりの悪さの原因
首巻冒頭起筆 時の提示+親の紹介
二巻冒頭起筆 時の提示+親の紹介

首巻二巻はそれぞれもとは別個の短編であった可能性
↓三巻は継子いじめの物語で独立性が強い
いくつかの短編を統合し長編として成長したか

文学史上注目すべき手法

「宇津保物語の失敗」
琴伝授=超現実=古伝承の話型
あて宮求婚=天人女房譚、難題求婚譚、

古伝承を枠組みとし現実性を盛り込む竹取物語落窪物語と同様の手法

現実性
あて宮を東宮妃に―現実的結末
現実性の異常な膨張―宴席での和歌すべて列挙、子供の名前年齢官職すべて列挙、

現実性を出そうとする姿勢の強さ
写実的

物語の叙述を間延びさせる

源氏物語に引き継がれて花開く(現実性を与えながらも展開上不用なものは省略した草子地)

「文学史的意義」
作品としては失敗
史的意義は計り知れない
→物語包摂法 別々の構想をもった短編を統合、源氏物語に引き継がれる
→「若紫」「夕顔」独立性が強い=短編として発表してから長編化した可能性

5、歌物語の流れ
「歌物語の特質とその発生」
伊勢物語を始発
実在人物の和歌(人間の心を吐露)を中心にそれぞれ詠まれた経緯を語る=現実性の優位
和歌中心=和歌が一つの小話のクライマックスに位置=一首の感動が事件を解決し筋を動かす

 「筒井筒」前半 清純で一途な恋の物語
      後半 夫婦の危機が歌による解決
=女の心情を歌に絞って吐露、散文に心情描写無し、さらに読者をも疑わせる記述

 「深草の女」狩られてでも逢いたい→解決へ
歌物語の限界=一首の感動=情熱的小話
=話はすぐ終息し、実人生から観ると若々しく細かな曲折を描ききれない
=短編にしかなれない

→10世紀後半「蜻蛉日記」序文
古物語(超現実的つくり物語、歌物語)否定
人生の曲折を描く長編物語の出現(歌物語は引き継がれない)

「歌物語の発生」
歌が詠まれた経緯をストーリーをもたせて語る
①歌集の詞書が発達?

詞書の文体とは異質
詞書=一文で「なむ~ける」(口語の文体)
歌物語=切れる

②歌にまつわる話を口頭で語る歌がたり(宮廷の口承文芸)

文字化

歌物語
古今集994=伊勢物語23段「となむ言ひつたへける」
歌がたりは上代から(万葉集の題詞や左注にエピソードをもつ歌がある)

=「ものがたり」
超現実的説話←古事記、風土記
神話→つくり物語
歌がたり→歌物語←万葉集

6、「伊勢物語」いちはやきみやび
「構成と書名」
現行流布本一二五章段209首
各章段=独立した小話
全体=一人の男の生涯 在原業平 六歌仙の一人
平安期「在五が物語」(源氏物語)「在五中将の日記」(狭衣物語)「伊勢物語」(源氏物語)業平の一代記として読まれていた

平安末期「伊勢物語」として統一 伊勢斎宮との密通を語る69段が秀作とされる

「形成と素材」
業平真作歌(一章段郡)古今集以前に成立か?=業平歌をめぐる歌がたり
+非業平歌(二章段郡)後に付加=百年間=業平以外の人物の歌がたりで作者の創作

主人公は「男」と抽象的(業平と非業平が同一人物として読める)

「新しい業像の形成」
一章段郡の主人公=ひたむきに恋愛し風雅の道に生きる男
二章段郡の主人公=一章段郡に通じる人物像が増幅

第一段初冠(元服)
「いちはやきみやび」姉妹の発見から歌を贈るまで真一文字に突き進む一途な姿
いちはやき=激しい
みやび=都風の風雅な振る舞い
心を歌に鎮めて贈る=同時代の源融の歌と同じ趣向→一般的発想にのっとる→読者への強い印象づけ

第六段鬼一口に
「女のえ得まじかるりけるを」盗み出すが鬼に喰われる
 ↓
号泣、激しい行動=実在の業平像をはるかに越え恋の英雄に
 ↓
源氏物語へ

7、「大和物語」歌物語のもうひとつの形
歌物語の時代=天暦年間
伊勢物語の成長期
後撰和歌集撰集開始
大和物語成立
平中物語成立

成立天歴五年(951年)、その後わずかに増舗(官職呼称)
作者不明
書名大和=日本=日本の物語を集めた物語
構成一七三章段294首
第一部一~一四六段 実在の人物の歌
第二部一四七段~ 地方に伝承されていた歌
=中心となる人物がいない、全体のまとまりを工夫しようという意図もみえない→宮廷社会で詠まれていた歌がたりを雑算形式に集成

「歌がたりの集成」大和物語の性格
四段 追伸の形式で和歌=公忠の悲しみと思い遣り=クライマックス(伊勢物語と同様)
登場人物 実名=通称(当時の貴族間だけで通用)=貴族社会で語られていた身近な人物をめぐるゴシップを生に近い形で文字化(係助詞なむの頻出、口語的)
↓伊勢物語=抽象化「男」統一的主人公
↓大和物語=全段階的、素朴
多くの人の多様な歌がたりをその持ち味を損なわずに収集
ひたむきに恋愛に生きる男にだけ歌がたりがあるのではない

「歌物語の変容」筒井筒ふたたび
一四九段 女の歌+金碗=一首で解決していない=歌物語の構成くずれる

歌以前の散文で女の心情を説明、散文で筋の展開=歌の感動を削ぎ、つくり物語へ接近(作者の若さの自覚)

8、「源氏物語」の達成一
女流による長編物語の出現
女性が求めた物語
宇津保物語以前=男性、短編
源氏物語以降=女性、長編
蜻蛉日記序文「そらごと」10世紀後半で古物語(超現実的物語、歌物語)は飽きられていた

人生の真実を描く現実的抽象的物語

源氏物語へ

「源氏物語の奇蹟」
七十余年間の時間と五百人の登場人物で性格も書き分けられた
「無名草子」(現存最古の文芸批評)
竹取物語、宇津保物語、住吉とは一線を画する異質な物語とした
「凡夫のしわざともおぼえぬことなり」

先行文学を吸収した総合的作品←つくり物語の伝統に立ちつつ歌物語の性格を反映
空想に走らず人の内面に目を向ける
歌物語の甘さ若さを切り捨て
↓先行文学に対する作者の厳しい目
物語を越えた作品

「古伝承からの離脱」
a三部構成説
一桐壷~藤裏葉33帖
二若菜上~幻8帖
三匂宮~夢の浮橋13帖
主題や構成を異にした三部
次第に成熟する作者の筆
伝承性と現実性

第一部における伝承性(伝承性の濃い初期)
光源氏の超人性 顔良し頭良し毛並み良し
超現実的展開 預言、夢、お告げ
古伝承の話型 なむ~ける口頭語、作者は語り手
=物語全体が伝承性

(源氏物語以前)口承文芸の話型でその中に現実性を盛り込む
(源氏物語)話型は入り口として利用、独自の虚構世界

b藤壷と紫の上の物語
永遠の女性を求めるが手の届かない存在に終る(藤壷)
=天人女房譚
↓話型どおりには終わらない
ゆかりの構成
紫の上の物語へ=独自の虚構世界
紫の上=成長する女主人公、藤壷の身代わり、
様々の苦難と内面的成長
藤壷を越える永遠の女性に昇華

現実世界を生きる人間の理想像(後天的に獲得)(かぐや姫や藤壷=生まれながらの理想像)

紫の上の成長物語(現実的、克明な心理描写)
話型に無い独自の世界

cゆかりの構成
口承文芸の話型(伝承性)=橋渡し的役割、滑走路
独自の虚構世界(現実性)=離陸し独自の世界を展開

d草子地
口承文芸の語り口を取り込んだもの
=省筆
=語り手の利用
→なかった手法

「場面描写の完成」源氏物語が切り開いたもの
「絵を意識」絵になる場面の連続

つなぎあわせて一巻を構成
藤壷の死=春の暮れの二条院の念誦堂
=人物の心情と自然の景の融合
=喪服、悲しみ=鈍色、薄雲、夕日、桜

思い悩む明石の君=雪、氷

時間、空間を限定
自然と心情を細かく描写融合する景情一致の場面描写
=源氏物語において完成
=視覚的、聴覚的印象

源氏物語以前
「竹取物語」かぐや姫を迎えに来た天人
 八月十五夜子の刻ばかり
 翁の家
 自然景=月の光り=天人の超人性の象徴
 人間の心情とは無関係=景と情は一致しない
「宇津保物語」
 林の院
 花=桜、春、
竹取物語より細かいが少将の心情とは無関係(思いを景に託し歌ってはない)

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐前期

9、源氏物語の達成二
源氏物語以前=伝承性+現実性

第一部
筋立て
ゆかりの構成

第二部第三部
心理描写の深化
日常的出来事による筋の展開
新しい形の主人公=主題

後期物語
11世紀「狭衣物語」「夜の寝覚」
12世紀物語の衰退「とりかへばや」「有明の別れ」

「物語を越えた物語」第二部
第一部
伝承性を生かし独自の虚構世界

第二部
伝承性退潮、現実性優位
光源氏=苦悩に満ちた人間=現実を生きる人間の姿
予言や夢のお告げによる超現実的展開がみられなくなる
古伝承の話型を指摘できなくなる
光源氏の超人性が強調されなくなる

a心理描写の深化
女三ノ宮の降嫁=悲劇の発端
女三ノ宮は正室、正室のように扱われていた紫の上の苦悩

冷静に振る舞いつつ、長い心中思惟によって苦悩を克明に描く

病気に

b日常的出来事による筋の展開
六条院での蹴鞠、二匹の唐猫の起こした日常的ハプニングにより柏木が女三ノ宮を見る

密通の引き金に

女三ノ宮懐妊

浅緑の艶書を光源氏が発見

柏木の死
女三ノ宮の出家
=手紙の外面的特徴が有効に用いられ、密通の証拠となる=手紙の新しい役割

c新しい形の主人公=主題
‐‐‐↗まめ人薫君 内気で物静か、仏教に関心
光源氏
‐‐‐↘すき人匂宮 情熱的行動的、女性に関心
‐‐「二人づれの手法」対照的

物語文学の主人公=理想的、恋の英雄、栄華、

薫君=世の常を越えない、恋愛に興味なし、不思議な体香(視覚的美しさから嗅覚的美しさへ)

新しい形の永遠の女性=八ノ宮の娘大君
薫君の求婚を拒否、中の君を薦める
病死
=自らの意思で愛を否定、隔てる境遇も無い
=「特異性」
=作者の否定的結婚観

最後の女主人公浮舟
中の君の腹違いの妹浮舟「宇治のゆかり」
関東育ちで教養が無い
薫君と匂宮の板挟みに苦しむ
投身自殺しようと失踪
横川の僧に救われ出家

結論が出ないまま物語は閉じる

紫の上 光源氏の愛を受け入れながらも苦悩し死
大君 愛を否定し仏門に帰依して死
浮舟 二人に愛されるが断ち切り仏門に帰依
「女の幸福の考察」結論によって幸福になれるわけではない、救われるとしたら宗教か

10、後期物語の世界(源氏物語以降)
繁栄(11世紀女流作家)から衰退(12世紀後宮女性の衰退)へ
「無名草子」俊成卿女13世紀初 現存最古の物語評論、源氏物語以降を批評
11世紀「寝覚」「狭衣」「浜松」繁栄期=古
12世紀衰退期=今
11~12世紀=後期物語
13世紀=大きく変容、衰退(女性から男性の手に)

「後期物語の特質」
源氏物語の影響大
源氏物語以前=口承文芸の話型
後期物語=源氏物語の虚構(現実性優位、源氏物語を模倣、超現実性も際立つ)

「狭衣物語」
六条斎院宣旨(後朱雀帝第四皇女)作か?
承歴四年(1080)か?
構想と人物造形=源氏物語の影響

狭衣の新生面
文章表現の洗練(白居易の漢詩を踏まえる、春の推移から主人公の青春を暗示)
いきなりの場面描写(主人公は紹介なく歩み出す)
画期的新形式(伝統的形式(時の提示+親の紹介)を破る、格調高い美しい文章、美しい場面描写の後に時の提示+親の紹介)
地の文に引歌や歌言葉をちりばめ情緒深い美文体に
→文章表現の工夫においては源氏物語を越える

無名草子の批評
起筆の冴えた技工
格調高い文章の洗練
物語として感動に乏しい
不自然な超現実的展開

「夜の寝覚」
菅原考標女か?(藤原定家「更級日記」奥書による)
院政期11世紀頃までの成立か?
現存五巻、中間と末尾に欠巻、元は十巻以上の大作
女主人公寝覚の君の一生
運命に流される弱い女性
↓困難
「心強き」女性に成長(自分の意志と責任で行動)
源氏物語の切り開いた紫の上を心理追究という面では越えている
冒頭起筆
これから語られるままなぬ恋に対する語り手の嘆息

主題の提示

時の提示+親の紹介
=伝統的形式を破る新形式=源氏物語を超えようという努力

無名草子の批評
心入りて作り出でける=作者が主人公に心を吹き込んだ=心理追究の深さを評価

「とりかへばや物語」
古本とりかへばや→「古きもの」無名草子→11世紀の散逸物語
「物恐ろしくおびただしき気」現存本より怪異性超現実性が濃かった

現存本とりかへばや 12世紀末の改作
(11~12世紀は改作が多い=改作が必要なほど創作力低下)

冒頭(伝統的形式)
父大納言の人知れぬ悩み
二人の子供の心身の不調和「取りかえばや」

源氏物語以降新生面を求めた
狭衣=文章に
夜の寝覚=心理描写に
とりかへばや=異常な設定に

「有明の別れ」「かくれみの」=頽廃的

物語文学の衰退

11、古今和歌集の世界
「和歌の基礎知識」
和歌=やまとうた=日本の歌の総称
漢詩=からうた
上代から現代まで断絶の無い唯一のジャンル
日本人の美意識+季節観
‐「梅に鶯」和歌の表現類型(パターン)
=早春の量として最もふさわしくうつくしいと認識
=古今和歌集の時代に確立し現代も適用

「歌集の形態」
a勅撰和歌集
天皇や院の宣により一人或いは複数の選者が多くの人の和歌を集成
「古今和歌集」最初の勅撰和歌集=和歌が漢詩に匹敵する公的に第一の文芸として認められた
→21の勅撰和歌集=二十一代集

b私撰和歌集
ある個人や集団の意思により一人或いは複数の選者が多くの人の和歌を集成

c私家集
個人の歌を集めた私的歌集(家集)
自撰
他撰

「歌集の書式」
詞書=和歌の前にあって作歌事情を説明
左注=和歌の後にあって作歌事情を補足
左注=作者についての一説
左注=歌詩の異伝
左注=作歌事情の異伝

「歌体」
音数律による分類
片歌 五七七
‐最短最古万葉集にもない記紀歌謡
旋頭歌 五七七五七七
‐片歌による問答から発生、万葉集にあり平安期には衰退、古今和歌集にもわずか
短歌 五七五七七
‐主流
仏足石歌 五七五七七七
‐薬師寺の仏足石歌碑に刻まれた形式、上代のみ
長歌+反歌 五七五七五七…五七七
‐上代、平安期にはわずか

「和歌を詠む二つの場」
a晴の歌 公的な場で発表機能する歌
宮廷の儀式、歌合、歌会、屏風歌、
俗語は許されず高度な文芸性が要求される
晴の歌を詠むことができる専門歌人
紀貫之、和泉式部

b褻の歌 日常的私的な場で機能
独詠歌、贈答歌、唱和歌
友人知人へのあいさつ、愛情の伝達、自己の感悦
表現も許容され、感情、人間味があふれる

歌合
歌人を左右に分け共通の題に基づき詠み優劣を判定、判者は「判詞」、題は謎かけのような面白味「空に知られぬ雪」=桜の花弁

屏風歌
大和絵屏風に添えられた歌
絵に則して画中人物の立場で詠む
絵に表せない皮膚感覚や聴覚「河風寒み」「千鳥なくなり」

褻の歌
受け手の有無や受け手との位置で分類

独詠歌
自分の心を晴らすため誰に聞かせるともなく詠んだ歌、物語の中で効果的に使われる

贈答歌
異なる空間にいる人との間でやり取りされる歌、贈歌と答歌の二首で一組、答歌は贈歌の言葉の上で対応しつつ反論、少しずつ歩み寄る

唱和歌
同じ場にいる人とのやり取り、言葉の上で対応、共感も反論もある

「古今和歌集歌の詩的特性」
王朝和歌の始発
万葉集780~783年成立
↓百年
古今和歌集905年成立=勅撰和歌集=和歌が公的世界で第一等の文芸に

和歌の表現の変質

以後の平安和歌の規範に=王朝和歌の始発

古今和歌集の特質(いかに美しく、いかに面白く)
万葉集1418石走る垂水の上のさわらびの萌え出づる春になりにけるかも
「さわらび」実景ありのままに素直に表現

古今和歌集雪の内に春は来にけりうぐひすの氷れる涙今やとくらむ
「鶯の氷れる涙」空想による美しい表現

「とくらむ」春を迎えた喜び+鶯の声を期待=理知的観念的

古今和歌集今年より春知りそむる桜花散るといふことはならはざらなむ
「春知りそむる桜花」←春咲きそむるを擬人化=成人したばかりの穢れを知らぬ乙女

古今和歌集年を経て花の鏡となる水は散りかかるをゆくもるといふらむ
「花の鏡」=花を映す水面=見立て
(花)散りかかる(鏡)塵かかる=縁語(中心の語と関係の深い語)
「くもる」掛詞(一つの音形で二つ以上の異なる意味)

古今和歌集青柳の糸よりかくる春しもぞ乱れて花のほころびにける
柳と花の関係=京都の春景色=柳の枝=糸
糸→よりかくる、乱れ、ほころび(糸に因ることば)=無心無縁な柳と花が互いに示し合わせた人間のように結びつく「縁語」

古今和歌集白玉と見えし涙も年ふればから紅にうつろひにけり
「から紅に」涙=白玉(真珠)「対比」血の涙=から紅

「古今和歌集歌の本質」
古今和歌集で登場する万葉集にはない技巧(縁語、掛詞、見立て、擬人法、対比)

二つの序文 真名序(漢文)と仮名序(平仮名)
「やまとうたは人の心を種として万のことの葉とぞなれりける」
=和歌が言葉の世界で成長(枝葉)=古今歌人の和歌観

「古今的表現成立の要因」(万葉と古今の谷間)
技巧による美しく面白い表現

漢詩文の方法

万葉集終焉歌 天平宝字三年759元旦 大伴家持4516
↓公的に和歌が詠まれる
大同四年809

弘仁元年810
↓歴史書の記録から和歌が姿を消す(漢詩文になる)
承和八年841
↓国風暗黒時代(和歌は私的宴席や男女の場)
承和九年842 歴史書に和歌あらわれる

六歌仙の時代
宇多天皇 和歌が宮廷文芸に
(古今的表現は国風暗黒時代の漢詩文による)

「古今和歌集の成立とその組織」
古今和歌集の成立
「仮名序」醍醐天皇の命
「真名序」家集古来旧歌を献上し「続万葉集」(散逸)を編纂、分類し二十巻とし「古今和歌集」とした(二段階を経て成立)、「延喜五年905四月十八日」奉覧
「仮名序」に同様の記述
↓延喜五年以降の歌の存在
亭子院歌合の歌=延喜十三年三月十三日 増補か?

古今和歌集の組織=部立(内容による分類)二十巻1100首
万葉集二十巻 部立「雑歌」「相聞」「挽歌」=巻とは対応していない
=万葉集と比べ整然とした組織=古今和歌集撰者の創造性、以降勅撰和歌集の規範に

部立内部の組織
時の推移の原理による配列
四季の巻々 一つの主題の歌々を一歌郡となしその歌郡を季節推移の順に配列→時の推移の原理によって花鳥絵巻のように配列
「五巻恋の部」逢わぬ恋→逢う恋→破綻=恋愛の進行段階によって配列=恋物語的配列(時の推移の原理)

問答的配列
=一主題を一歌郡に 歌郡内(紅葉歌郡)
275問いの歌
258答の歌
259別解(反論)
時間や空間に関係なく撰者が並べる=おもしろさ、たをやめぶり

「古今和歌集の歌人達」
時代と作者
「古今」和歌集=古の歌々、今の歌々
「仮名序」天平宝字三年759(万葉集終焉歌)~延喜五年905(古今和歌集成立)百五十年間の歌々

よみ人知らず時代
嵯峨天皇弘仁元年810~仁明天皇承和八年842
=国風暗黒時代
=国風暗黒時代以前=よみ人知らずの歌々の時代(万葉的、素朴)

古今的近似点
217目に見えない世界を想像して詠む=撰者が選んだ古今和歌集的詠みぶり、萩と鹿の組み合わせ、
18春日野と若菜

六歌仙時代
仮名序「近き世にその名聞こえたる人」=延喜五年(古今和歌集成立)からみて30~50年前に活躍した歌人達、素朴さを残しつつ古今集的表現(掛詞、縁語、見立て、擬人)が明確にあらわれる、対句などの漢詩的言い回し

巻一春下113花の色はうつりにけりないたづらにわが身世にふるながめせしまに
ふる=降る、経る ながめ=長雨、詠め

巻十三恋三616おきもせず寝もせで夜をあかしては春のものとてながめくらしつ
「起きもせず」「寝もせで」対句(漢詩的=同じ長さ同じ構成)、「春のもの」=漢語「春物」の翻語

巻一春上27あさみどり糸よりかけて白露を玉にもぬける春の柳か
柳の枝=糸、白露=玉、(見立て)白と緑の対照=万葉集的俗信と漢詩的表現の露骨な摂取(かたい表現)

「古の歌々」

今(撰者時代)の時代
万葉集的素朴さは影をひそめ古今集的表現が完成
撰者達の作歌活動
同時代の他の歌人の歌を意識しつつ活動(歌合、歌会、技講)

同じ表現発想を備えた歌々流行、表現交流
155・297・194

個性=同じ表現を備えた歌々を比較、個性的表現の競い合い
「花なき里」
はるがすみたつを見すててゆくかりは花なき里に住みやならへる 伊勢
中国北部の辺境の地、春に背を向け北へ帰る雁に同情、華やかさに背を向けた翳りのある秀歌

霞たち木の芽も春の雪ふれば花なき里も花ぞちりける紀貫之
春の雪を落花に見立て「花なき里も花ぞちりける」
現実にない矛盾した表現=読者に謎かけするような面白味=貫之の特徴的表現

同じ表現を用いながらも個性は失われない
例「衣かたしき」=古風な表現
白妙の衣かたしき女郎花咲ける野辺にぞ今宵寝にける
貫之詠み=白妙の衣かたしき、女郎花衣かたしき(色の対照)

春の野に衣かたしきたがためにならわぬ草に若菜つむらむ
躬恒集詠み=(色の映像は無い)

詠み込み方の違い
表現が共通になってゆく一方で個性的で新しい表現を競いあった

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐後期