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読書録/女帝 小池百合子

◼️女帝 小池百合子 石井妙子著 2020年 文藝春秋

 恥ずかしながら、2016年の都知事選まで、小池百合子を「ニュースステーション」で久米宏とともにキャスターを務めていた女性だと勘違いしていた。それは、小宮悦子だった。政治資金で中古のエスティマを購入した、と報じられ、都知事だった舛添要一氏が失脚すると、国政を蹴って華々しく、まるで救世主のように登場したことをよく覚えている。冷静になり切った今になって思う。あの騒ぎは何だったのだろうか。
 あれから4年。今また、都知事選が始まった。その2ヶ月ほど前から、再び毎日のようにテレビのニュースで小池百合子氏の姿を見るようになった。知事として、新型コロナウイルス感染症に対応するためだ。緊急事態宣言が解除されてからも感染者数はじりじりと増え続け、休業要請解除の基準を示した「東京アラート」もなし崩しのように解除され、「ウィズコロナ宣言」と称して、平時の暮らしに戻そうとしている。

 東京五輪が新型コロナウイルスの影響で延期された途端、「いわゆるロックダウン」と強い言葉を発してコロナ対策を進めてきた小池知事だが、その対応に歯切れの悪いものを感じていたとき、本書に出会った。都知事選に立ったときの印象は、幻だったのだろうか。一時は女性初の総理大臣候補と目された、彼女は一体どんな人物なのか。タイトルの「女帝」の意味が知りたい、と思った。

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 筆者は子どもの頃の生い立ちからはじめて、小池百合子という人物を描き出す。そして、マスコミで喧伝されてきた彼女が語る人物像との乖離を浮き彫りにしていく。「芦屋のお嬢様」しかり、「カイロ大学を首席で卒業」しかり。虚像で自分を飾るようになった背景に、破天荒で嘘をつきすぎる父親の存在があり、その父に振り回されなければならない境遇を、最初はかわいそうに思った。しかしその彼女も、やがて父と同じやり方で上昇をはじめる。彼女には、父親にはない武器があった。美貌、カイロ大学卒業という学歴、そしてマスコミ。組織の中での序列を飛び越え、権力を持つ者に取り入って利用する。彼女は自分の武器を使いこなし、父親よりもずっと巧妙にその方法で上昇していった。

 政界に進出してからの動きは、そのまま平成の政治史と重なるが、はじめは自民党を批判するところからスタートしたものの、めぐりめぐって自民党員になり、大臣にまでなってしまった。次は総理、というところから都知事選出馬への転進は、民進党をぶっ壊す大混乱を招いてしまう。
 そうまでして、のし上がろうとする彼女に「政治家になって、やりたいことがあるわけではない」とは恐ろしいことである。原動力はなんなのだろうか。虚栄心か、復讐か。この虚しい存在に、今の今まで気づけなかったのはなぜなのだろうか。

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 なんの中身もない彼女をここまで押し上げてきた力について、考えなければならないと思った。彼女はわかりやすいキャッチコピー、だれもがとびつく耳障りのよい政策、自身の存在感によって人の心をつかむ。だが、政治家の言葉と行動は、常に検証されなければならない。虚言に振り回されて傷つき、ときに命をさえ落とすのは一般市民なのだ。しかし、それを担うべきマスコミは、こぞって彼女が目立ちたいときにスポットライトを浴びせ、光を当ててその言葉、政策が実行されたか、成果がどうだったかを検証しなければならないときには、むしろそれをするのを止め、彼女のご機嫌を損ねないように忖度している。

 これまでについてきた、嘘の数々。その代償は彼女自身が負うことになるだろう。しかしそれだけでは済まない。すでに人生を破壊された人がおり、新型コロナ対策を怠れば、もっと多くの無辜の市民が犠牲になることは間違いない。しかし、私たちは無力ではない。彼女を「女帝」の座から引きずり下ろす力を持つのは、私たち、有権者しかいないのだ。

東京都庁写真:源五郎さんによる写真ACからの写真

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