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「大学の教員になるにはどうしたら良いですか?」という質問について

はじめに

毎年、1~2人の学部学生から「大学の教員になるにはどうしたら良いですか」というざっくりとした質問を受けます。研究者になることをリアルに考えている学生は、具体的なことを尋ねてくることはあっても、あまりそういうざっくりした質問はしてこないように思います。

大学の教員には初等中等教育のように「教員免許」はなく、大学教員のカタチは多様であると思われます。「大学の教員になるにはどうしたら良いですか」の質問に対して、「こうすればいい」というわかりやすいアンサーを返すことは難しいのですが、当たり障りなく言えば、「大学院の博士課程を修了する」ということになります。

しかし、「大学の教員になるにはどうしたら良いですか」の質問をしてくる人は、たぶん、そんな回答を期待していないんですよね。質問者も「大学院の博士課程を修了する」はなんとなく知っているはずです。そうなると、何かの抜け道や社会人を経験したのちに大学の教員になりたいという、登山道の種類について知りたいのかなと感じました。

「大学院の博士課程を修了」しても、ポストは修了生の数には見合ってなさそうですし、22歳で大学を卒業して、5年間で博士課程を修了したとして27歳で、その間に期待される「あんなこといいなできたらいいな」が出来ないという機会費用を払わなくてはいけないかもしれません。(外国では博士課程の学生は社会人扱いだと思いますが)社会人を経験してからと考えることも不思議ではありません。

しかし、やはり分野によっても「期待される人材像」は異なるでしょうから、自分が進みたい分野のことを調べたり、その分野の経験者に教えてもらうということになるのでしょう。(企業や行政で研究員を経験してから大学に転職する人もいますし、看護師や保育士を経験してから大学に転職する人もいますが、だからと言って決まったルートがあるわけではないと思います)

気になることがあれば調べてみましょう

元も子もない感じになってしまいましたが、何を調べたらよいやらという場合に、よりリアルに情報に接する機会をつくることも大事です。大学の教員の公募は、(昔では考えられませんが)今日では国立情報学研究所のJREC-INの求人公募情報で簡単に検索できます。もちろん、すべての公募を網羅しているわけではないですが、国公立大学は概ね公募情報を掲載しています。

このサイトを眺めてみると、研究にも社会の情勢や流行が影響していて「時期により求められる分野というのがあるんだな」とか「最近、英語で授業ができる人が求められるケースが増えたな」とか「女性限定公募をしているな」とか「テニュア・トラック(任期終了前に審査を行い任期の定めのない教員として採用される)が増えたな」とか、何らかの気づきがあるはずです。

また、分野によっては「実務経験」が重視されるところがあるのも分かります。「外国でのフィールドワーク経験」「旅行業に従事した経験」「学校教員の経験」「キャリアコンサルタントの経験」「特許を活かした起業の経験」「国際援助の経験」「作業療法士や理学療法士の経験」など、分野に応じて多様な経験を求めていることが分かります。

大学の教員に求められる人材は多様ですので、一概には言えませんが、最近では特に文系分野で「専門性+語学力(英語での指導や論文作成能力)」があるといいのだろうな、と思う公募が増えている気がします。理系は英語で論文を書き、国際誌に投稿する文化が定着しているように思いますが、文系の領域ではこれから増えていきそうです。

それから、異なる分野の研究者や行政・企業とコラボする力、地域とのコミュニケーション力なんかも重宝されているかなという印象を受けます。これらの求められる特徴も時間がたてば、当然変化していくでしょう。大学のダイバーシティの重要性が高まっているので、学生はもちろん、教職員についても年齢、性別、国籍などの多様性に対応できる人材が求められるようになっています。

求人公募検索サイトの紹介

ということで、あまり参考にならなかったかもしれませんが、気になることがあるのであれば、自分でいろいろ情報収集をしてみるのも一つの方法だと思いますよ。以下に、求人公募検索サイトのリンクを紹介しておきます。

このページには検索欄があります。例えば、「研究分野」のタブから大分類を見ると、上から「総合人文社会」「人文学」「社会科学」「総合理工学」・・・・「その他」と選択肢が出てきます。仮に「総合人文社会」を選んで、小分類を「全て」にしたまま「検索」のボタンを押すと、教員の公募情報が表示されます。赤字で「NEW」と表示されているのが、最新の情報です。

気になった公募をクリックすると、公募情報のページが表示されます。そして、機関の説明、仕事内容(担当する授業、役割)、採用人数や採用時のポスト、着任時期などの情報が紹介されています。続いて、応募資格の記載があります。参考までにいくつか例を挙げておきます。

ある公立大学の場合(地域貢献、実務重視)

担当する教育分野に関し、専門的な知識、技術等を有し、以下のすべての条件を満たす方
(1)大学院修士課程修了以上の学位を有する方
(2)大学や短大での教育・研究歴のある方、又はこれと同等以上の業績・経験を有し、教育・研究上の能力が十分あると認められる方
(3)教育、研究、学内運営及び地域貢献に積極的に取り組んでいただける方
(4)本学の教育目標、並びに教育研究上の目的に共感し、教育に対し強い熱意と意欲を持って取り組んでいただける方
(5)XX学の視点から、地域の活性化など地域に関わる教育・研究に取り組んでいただける方が望ましい
(6)長期継続勤務によるキャリア形成を図る観点から、採用予定日で40歳以下の方が望ましい(雇用対策法施行規則第1条の3第1項3号のイ)

ある私立大学の場合(外国経験重視の場合)

本学の建学の精神と教学の理念を理解し、熱意を持って教育に取り組む意欲があること。
・募集領域に直接関連する領域における博士号を有するか、それに相当する業績を有していること。
・海外での研究経験を有すること。母国以外の大学院に学生として在籍した経験を含む。
・日本語での教育業務が実施可能であること。
・採用後、勤務地周辺に居住し、通勤が可能であること。

ある国立大学の場合(女性限定公募)

(1)女性であること。
※「男女雇用機会均等法」第8条(女性労働者に関わる措置に関する特例)の規定により、研究者の女性割合を積極的に改善するための措置として女性に限定した公募を実施します。
(2)博士の学位を有する者。又はこれに準ずる研究業績を有する者。
(3)大学院において、教育・研究の指導ができる者。
(4)教育研究機関等での勤務経験を有する者が望ましい。
(5)採用後は、勤務校の近郊に居住できる者。

ある国立大学の場合(任期なし、学部教員)

(1) 博士の学位を有する者
(2) 学術的およびエビデンスベースの教育・研究、社会への提言に取組んでいる、あるいは着任後取組む者で、そのための調査、分析技能(統計解析等)を有する者、また外国語科目(外書講読等)を担当可能な者。
(3) 教授については、10年以上の教育又は研究歴を有する者であること。准教授については、5年以上の教育又は研究歴を有する者であること。講師については、大学院の修士修了者にあっては1年以上の教育又は研究歴を有する者、大学の学部卒業者にあっては4年以上その職務に関連ある業務に従事した経験及び研究論文を有する者であること。
(4) 上記科目の担当、および主指導教員として修士(博士前期)課程の教育が可能な、優れた研究業績を有する者。
(5) 在職中は、科学研究費助成事業を含む外部資金に代表者として応募すること。

ある国立大学の場合(任期付き、センター業務)

以下の条件をすべて満たすこと。
(1)職務内容に関して経験と実績を有し、大学教育に関して十分な見識を有するもの
(2)上記職務内容に対して熱意をもって取り組めるもの
(3)学士以上の学位を有する者(職務内容に関わる修士以上の学位又はこれと同等の実務経験・実績を有する者が望ましい)

任期の定め

公募情報には、採用に関して任期の有無、テニュアトラックなどの記載があります。任期なしの記載がある場合でも、助教や講師での採用の場合には任期が付く場合もあります。この場合でも、任期終了後に任期の定めのない雇用の可能性が明記されていることもあります。

常勤(任期なし)
専任講師の場合は嘱託教育職員(任期3年)での採用。ただし任期中の研究教育業績によって、任期後に正規職員として採用される場合があります。准教授の場合は正規職員としての採用となります。
常勤(任期なし)
常勤(任期あり)
令和X年3月末日まで。ただし、任用は年度毎に更新するものとする。
常勤(任期あり)
最大5年
常勤(テニュアトラック)
任期5年間(ただし、この期間の研究・教育実績によりテニュア(任期なし)への審査を検討します。)。十分な業績のある場合にはテニュア同時審査を行います。テニュア採用の場合は任期なし。ただし、定年は65歳。  ※試用期間あり:6ヶ月

提出書類

求められる「提出書類」からも情報が得られます。推薦状や本人について照会できる者の情報を求められることもあります。2000年ごろまでは良く見られましたが、最近は以前に比べ推薦状を求められることが少なくなった気がします。研究業績についても、主要な業績を3編とあれば、公募分野に関係する査読付きの論文を3編提出するのがいでしょう。ときどき、段ボールで著書や論文を返送希望で送り付ける人もいますが、参考資料を送付しても良いというような特段の記述がない場合は止めておくか、照会先に確認したほうが良いかもしれません。あくまで、見聞きした限りですが。

【提出書類】
(1)履歴書(指定様式)
(2)教育研究業績書(指定様式)
(3)主要研究業績3編(コピー可)
(4)(3)の主要研究業績の概要(各 400字程度)
(5)推薦状1通。または本人の研究業績などについて問い合わせができる人物2名の連絡先。どちらの場合も所属・職位を明記すること。
(6)これまでの研究の概要、および本学での研究の抱負(A4用紙1枚)
(7)これまでの教育の概要、および本学での教育の抱負(A4用紙1枚)
※その他、追加書類等を求めることがある。

【応募方法】
応募は原則郵送としますが、オンラインでの応募も可能です。
オンラインでの応募の場合は、「JREC-IN Portal Web応募」機能を用いて行ってください(電子メールでの応募は受け付けません)。
(1) 履歴書 1通 (写真添付,連絡のとれる携帯電話番号と電子メールアドレスを記載のこと) 
(2) 研究業績一覧表 1通(主要なもの3~5点に○を,また査読付業績には◎を付加すること)
(3) 主な著書,論文等の原本又はコピー 各1部(そのうち主要なもの3~5点についてそれぞれ500字程度の概要を添付のこと)
(4) 研究・教育についての抱負(A4判・2000字程度) 1部

男女共同参画

近年の教員公募では研究機関における男女共同参画の取組についての記載が増えています。研究者に占める女性の割合が国際社会に比較しても低いことから、女性研究者の採用を推進しています。

記載では「女性の積極的応募を歓迎します」「業績表の評価が同等であれば女性を積極的に採用します」等が多いですが、アファーマティブ・アクションというかたちで「女性限定公募」を実施する場合もあります。

育児・介護休業からの復職支援(研究支援)、研究と生活の両立支援など、男女かかわらず研究の継続とワークライフバランスを支援する動きが出てきています。この辺が気になる方は、こうした取組を積極的に行っている機関の公募も検討してみると良いかもしれません。次はある大学の記載例です。

男女共同参画社会基本法の趣旨及び本学人事の基本方針に則り,女性の積極的な応募を歓迎し,業績等(研究業績,教育業績,社会的貢献,能力,資格等)の評価が同等と認められた場合には,女性を積極的に採用します。
女性活躍推進法の趣旨に則り、女性の積極的な応募を歓迎します。また、本学は、女性活躍推進法の趣旨に則り、ワークライフ・バランスに関する諸制度を整備しています。

おわりに

あまり役にたたなかったかもしれませんが、研究者を目指す者(学生さん含む)が公募情報を見ておくことは、どのような人材が求められているか、どのような実績が求められているか、どのような準備をすればよいかについての情報を得るためにも有効だと思います。何ら参考にしていただければと思います。

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