ロシア経済制裁⓶
SWIFTからの排除は実際どれほどの効果があるのか、過去にSWIFTから排除され、今もなおその制裁下にあるイランの事例をみてみました。
1.イランのSWIFT排除
イランは1990年代から核開発が進められ、2000年代から世界各国からの経済制裁を受けてきました。そして2012年に濃縮ウラン開発施設の新設など核開発の動きが強まったため、2012年3月17日よりイランはSWIFTから排除されました。その時は今回のロシアへの経済制裁とは異なり、イランの中央銀行を含むおよそ30の金融機関が排除されました。この事例が初めてのSWIFTによる大規模な経済制裁でした。
2011年頃からのイランの輸出額を見るとSWIFTから排除された2012年の夏頃から輸出額が激減しています。SWIFT排除により対外輸出の貿易額は30%減り、原油の輸出に限定すると貿易額は半減しました。2011年のイランでは、原油が全体の輸出の69%を占めていました。
イランのSWIFT排除は大きな成果があったという見方をする人は多いようですし、データに示される通り大きな経済的ダメージを受け、2015年には経済制裁の緩和と引き換えに核合意に至っています。
2. ロシアとの比較
しかし、今回のロシアへの経済制裁がイランのものと同程度の効果があるかどうかはわかりません。注視しなければならない事は主に以下の3つだと思います。
貿易取引相手国
SWIFTから排除されていない銀行
SWIFT以外のネットワー
まず、1. について、
イランの2011年の主な貿易相手国は中国、台湾、インド、日本などでした。上位2国は貿易総額の33.1%を占めていました。この時の中国はGDP世界2位ではあったものの、日本を追い越したばかりで日本との差は2兆ドルほどでした。(2019年のGDPでは日本との差は9兆ドルにまで開きました。)
一方2020年のロシアの最大の貿易相手は EUで、ロシアでは貿易総額の37.3%を占めていました。SWIFTからの排除を含む経済制裁の主導権を握っているのはアメリカや EUです。イランと比べ EUとの関係性が密接なロシアでは制裁がイランのものほど厳しいものでなくなる可能性は無視できないと思います。
2.について、
イランのSWIFT排除では全ての金融機関が排除されましたが、今回の制裁ではロシア最大の銀行ズベルバンク、天然ガス独占企業の傘下のガスプロムバンクの制裁は見送られました。ロシアから多くの天然ガスを輸入しているドイツ、イタリア、ハンガリーの消極的な態度が影響したものです。こういった制裁を受けていない銀行へ取引を移行することで経済的損失を可能な限り防ぐことが考えられます。
3.について、
2012年頃からSWIFTが世界最大のネットワークであることに変わりはありませんが、新たなネットワークが参入してきたことは大きな変化の一つです。ロシアが運用するSPES、中国が運営するCIPSなどです。SWIFTから排除されることにより経済ダメージを受けることはおそらく確実ですが、こういった他のネットワークを通してそのダメージが小さくなることも考えられます。
次回の記事ではこの3.についてより深くみていきたいと思います。
<参考文献>
https://tradingeconomics.com/iran/exports
https://ec.europa.eu/trade/policy/countries-and-regions/countries/russia/
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