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今年だけで100本以上遊んだゲーム批評家が選ぶ、2021年ベストゲームTop10

2021年は既に記事で述べたとおり、今年は延期が重なってマスで大きく盛り上がるゲームこそ少なかったものの、だからこそ、「私たち」ではなく「私」へ向けられた作品、ビデオゲームの底力を信じるような作品が目立ったと思う。

筆者は今年だけで100本はプレイし、メーカー、ジャンル、ハード、国家に偏らず実に様々な作品に触れたが、今年は例年になく豊作であり、特にインディーゲームからは革命的とさえ言える傑作に恵まれていた一方、大作においても妥協なく個性を伸ばした名作も多い。

言い換えれば、ビデオゲームの価値ははもはや「どれほどバズったか」だけで推し量ることが難しくなっている、ということだ。率直に言えば、現代のSNSやメディアが捉えきれていないとさえ感じずにいられない。

そのような前提を共有しながら、2021年、ビデオゲームを批評し続けてきたJiniにとって最も優れた作品とは何か、僭越ながら論じていきたいと思う。


10位:ライダーズリパブリック

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「ええか小野田くん 全力いうのはな 汗も 血も 最後の一滴まで絞り切ることや!!」

昔、「日本でFPSが流行らないのは、日本人にとって銃が馴染み深くないから」といった話をよく聞いた。だったら剣と魔法は馴染み深いのか?と思ったりもしたが、この仮説が正しい場合、どうしても言いたいことがある。

「何故、自転車に乗るゲームがないんだ!?」と。車に乗るゲームはある。戦車や戦闘機にだって乗れる。それよか、私たちのうち誰もが乗る乗り物、チャリを漕げるゲームがあったっていいだろう!少なくとも、私はゲーム内でチャリを漕ぐのが大好きだ。『GTAV』でチャリが復活した時など歓声を上げたし、ランボルギーニ(のパチモン)を買ってもチャリに乗り続けた。チャリは人類の友達。私たちはずっとチャリに乗るべきだ。

そんな夢がついに……ついにかなったぞ!そう、『ライダーズリパブリック』は自転車を含め、スノボ、スキー、更にジェットパックすら用意され、オープンワールドで自由に走り放題って最高なゲームだ。しかも、舞台となるオープンワールドはセコイア、ヨセミテ、ザイオンなどアメリカ大陸の国立公園が次元融合した「ぼくのかんがえたさいこうのオープンワールド」なのだから、もうたまらない。さぁペダルを踏め!


9位:Sable

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「俺たちのマシンの声はな、永遠なんだよ。そう形作られるもっと前からな。」

エンターテインメントはいつだって波乱万丈でなければいけない。観客はエンタメに非日常を期待しているからだ。だから、魔王が世界を支配するし、エイリアンが人類を殲滅しようとする。けれどエンタメで飽和する現代において、この感性は必ずしも正しくないかもしれない。

『Sable』は遊牧民の若者が、ホバーバイクにまたがって、何もない砂漠をただ放浪するだけのゲームである。やることと言えば、ゴミ拾いをしてホバーバイクを強化したり、別の集落でお手伝いをするぐらいで、やっぱりそれも大したことはない。プレイヤーが何をしようと世界は変わらず、そもそも世界は変化を望んでもいない。

一言で言えば、「戦闘のないゼルダBotW」、あるいは「スターウォーズEP7でレイがジェダイにならずスカベンジャーを続ける話」になるのだけど、今このようなゲームが遊べることはすごく贅沢に思う。フランスのバンデシネ作家、メビウスのようなアニメーションは美麗で、ホバーバイクを動かしている感覚も見事なのだけど、この何もない砂漠には、私たちが求める「生活」が存在している。


8位:Ready or Not

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俺にこの引き金を引かせるな

『Ready or Not』は警察の特殊部隊、SWATを操作するFPS。この作品のすごいところは、主人公が警察である以上、警察のルールに従わなければいけないこと。つやみ、無闇やたらに射殺すればいいわけではなく、無関係な市民への誤射は当然許されず、武装した犯罪者にすら一度降伏を促さなければいけない。

目に見える的をとりあえず撃ちさえすればいい、というFPSに比べて、Ready or Notは実にテクニカルなFPSだ。むしろ撃ってはいけないという点ではアンチFPS的とさえ言える。この人間は撃っていいのか、撃ってはいけないのか。こうやって逡巡するうちに、単なるラグドールがまるで人間かのように感じる。

本作は元々PCゲーム業界の老舗Sierra Studios、及びIrrational Gamesが開発した『SWAT』シリーズに強い影響を受けている。同シリーズは根強いファンに惜しまれながらも2005年を最後にシリーズが途絶え、長く続編が求められていた。その名シリーズをここに蘇らせたに留まらず、現代的FPSのトレンドや進歩を取り入れ、見事ここまで完成させたものだと思う。


7位:Road 96

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「旅は独りでやらなきゃいけないことなんだ。大人になるために」

群像劇のメリットは、物事の正しさを様々な視点から議論できることだ。コロナ禍でも注目されたアルベール・カミュの『ペスト』はこのメリットを十全に発揮した作品で、絶望的な状況を前にして、逃げ出すのか、立ち向かうのか。これは神の意志なのか、それとも人間の過失なのかという問いが、様々な人間の視点を介して語られる。

ただしゲームで群像劇を実現するのは難しい。『SIREN』や『十三機兵防衛圏』が見事な群像劇を作っていたが、プレイヤーが直接作中の人物を操作する手前、視点がコロコロと変わって物語の掌握が困難だという欠点は依然として残っている。そこで紹介したいのが『Road 96』だ。

『Road 96』は架空の独裁国家から亡命を試みるアドベンチャーゲームだ。ただし主人公は貧乏な若者なので、亡命のルートは工夫しなければいけない。ただ歩いていけば体力が尽きるし、かといってバスに乗ろうにもお金がない。ヒッチハイクならタダだが何をされるかわかったもんじゃない。その亡命の過程で様々な人に出会い、彼らの物語に耳を傾けていく。

そして主人公は一度国境に辿り着くと、その結果の如何を問わず、そのまま物語から退場してしまう。そして次の瞬間には別の若者へと視点が移り、物語が続行されるのだ。これは実にクレバーなアイディアで、群像劇として様々な人間の価値観や正義感を垣間見ながら、さりとて視点はほとんど変わらずその物語に耳を傾けられる。


6位:モンスターハンターライズ

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hook of the year

これはもう何度も言っているのだが、『モンスターハンター』は単なるお祭りパーティゲームではない。友達と集まって何となくワイワイやるという認識は実に誤っている。いや、確かに他人と食えば上手い料理なのだが、自分ひとりで食ったってもちろん上手い。そういう当たり前の話だ。

言うまでもなく『モンスターハンター』は様々な武器を用いてモンスターを狩るゲームである。そしてこの狩りとは、純然たるMelee Action(近接アクション)を指す。つまり的確なリーチから武器を振るい、激しい攻撃を避け続ける、極めてシンプルかつピュアなゲームデザインなのだ。また長いシリーズの間で、各アクションはまるで宝石のように磨かれ、『モンスターハンターワールド』で大きく進化したUXはこの純粋なアクション体験に没頭させてくれるのは、この上なく贅沢といえる。

何よりとびっきり素晴らしいのは、『ライズ』に登場した「翔蟲」及び「翔蟲」アクションだ。要するに今絶賛流行中のグラップリングフックだが、「翔蟲」は何もないところにフックを引っ掛け、他のあらゆるフックアクションよりも遥かに自由に、高度に、気持ちよく天を翔けることができる。

同じトレンドでもこれほど面白く構築できるなんて。『モンハン』のアクション性がいかに優れているのか、その格を見せつけていたといえるだろう。


5位:ラチェット&クランク パラレルトラブル

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楽しい、難しい、たまーに泣ける。これがPS5のゲームだ。

皮肉なもので、新しいゲームが出るほど、むしろ古いゲームが評価されることがある。

例えば『ダークソウル』は似たような後輩が出る度に、かえって「あぁ、ダクソってすごかったんだなぁ」と思わせる作品である。同様の例は『ラチェット&クランク』だ。TPS、三人称のシューティングゲームを遊ぶたび、やはり「あぁ、ラチェクラったすごかったんだなぁ」と思う。

『ラチェクラ』の美点は、まず武器だ。これはTPSでもFPSでも同じだが、シューティングゲームの武器と言えば、ピストル、アサルトライフル、ショットガン……と続く。1993年の『DOOM』から30年近くずっとこうなので、無論飽きてくる。しかし『ラチェクラ』は違う。新作が出るごとに必ずユニークで面白い武器が大量に導入され、その都度、戦い方を工夫するのが楽しくて仕方ない。

例を挙げると、どんな敵でも植物できる自動タレットの「グリーンスプリンクラー」、タイミングよく追加入力で何度もダメージを与える「リコシェット」、そして全てを貫通するエネルギー砲「ネガトロンコライダー」。クリエイター陣も厳選を重ねたという武器(ガラメカ)は個性豊かで、とにかく撃って楽しい。Dual Sense越しの反動もたまらなく、しかも使うほどに進化して更に個性的になる。

『ラチェット&クランク』(というより、Insomniac Games)は世界観こそ北米的だが、その細部への工夫は雑な言い方だが、日本のディベロッパー的だ。PS5の流通不足と、その世界観への「偏見」で過小評価されているが、間違いなく2021年で最も完成されたゲームデザインである。


4位:Before Your Eyes

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その一瞬だけは、見逃さないでほしい

あなたは三途の川にいる。船頭はあなたに自分の過去の記憶を語らせよと言う。そうすれば「門番」はあなたを死者として迎え、恐らくは楽園のような場所へ逝くのであろう。そこであなたは、ぽつぽつと自分の過去を語り始める。最初の記憶は、母親と過ごした浜辺の光景だった。

『Before Your Eyes』は複雑な操作がほとんど不要なゲームで、代わりに、Webカメラと連携する。Webカメラの前でプレイヤーが瞬きをするとそれを認識し、ゲームのインタラクションとして反映するのである。プレイヤーは過去を追想するあいだ、このようなまばたきを通じて記憶の断片を手繰り寄せていく。

まばたき、という生理現象を、単なるメカニクスとしてではなく、ストーリーテリングとして用いる発想もさながら、かくして手繰り寄せる人間の記憶は間違いなくその人のものであって、自分のものではない。本作が傑作足りえたのは、そこで勘違いをしなかったからである。

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