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ゲーム正しい歴史考証が必要な理由『CoD:ヴァンガード』レビュー

ゲームにおいて、歴史考証は大抵いい加減なものである。

例えば第二次世界大戦を舞台にした『Call of Duty: Vanguard』で、400丁しか作られてないアサルトライフル「Breda M1935 PG」をそこいらの兵士が使いまくってることもその一例だ。

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しかしゲームの歴史描写がどうのこうのとケチをつける人間には「ゲームが面白いのであれば、歴史考証なぞ何だって良いではないか」等と批判されるものだ。尤もな批判だ。

しかし筆者はこうも考えている。歴史考証ではなくゲームデザインの上でも、正しい歴史考証が作用するのではないか?と。

今回はそんな『Call of Duty: Vanguard』の歴史描写の引っかかりから、対戦型FPSの「アサルトライフル」はどのように製造され、そして第二次世界大戦という歴史をテーマとした「アサルトライフルが存在しないFPS」がどう楽しいゲームとなっていたか、過去の名作から考察したい。


突撃銃(アサルトライフル)とは、小銃の中でも全自動射撃と半自動射撃の機能を両立しつつ、そのために用いる弾薬サイズを減らしたものを指す。現代における大半の軍、ゲリラ、カルテルはアサルトライフルを標準装備に位置付けられており、我が国でも自衛隊が現状、89式5.56mm小銃なるアサルトライフルを主力装備としている(後に20式に更新)。

そして大半のFPSにおける「たくさん弾が出る銃」の正体はほぼこいつか機関銃であり、M4A1、AK-47、『Halo』のMA5、『Counter-Strike』のCV47、『VALORANT』のヴァンダルやファントム、とにかくゲーマーは一度は何らかのアサルトライフルを構え、撃ち、その制圧力に救われた経験があるだろう。

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こんな見た目でもARです。一応。

こんなにも便利で楽しいアサルトライフルだが、銃の歴史においてアサルトライフルが登場したのはかなり後になってからのことである。

その起源は諸説あるものの、少なくとも本格的に軍で運用できるようになった最初のアサルトライフルは、ナチス政権下にあったドイツ国防軍の、Sturmgewehr 44(StG44)であったとされる。最大30発装填できる湾曲箱形弾倉には新開発された7.92x33mm弾が詰められ、安定して500-600発/分でのフルオート射撃が可能。更にGwZF4スコープなどアタッチメントによる拡張性、40万丁以上製造できた量産性から、まさにアサルトライフルの父とも呼ぶべき画期的な傑作銃だった。

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言い換えれば第二次世界大戦、それも末期に至るまでアサルトライフルは戦場の花形ではなかった。では当時の歩兵たちが何を装備していたのかといえば、ほとんどはボルトアクションで作動するライフル(射撃の度にボルトを自分でガシャッと操作するライフル)、そして一部が粗雑な短機関銃を装備していた。例えば、ドイツ軍のKar98k、日本軍の三八式や九九式、ソ連軍のM1891/30(「モシンナガン」の方が聴こえはいいか)などである。特にKar98kは1000万丁と、StG44の25倍生産されている。

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このようにアサルトライフルは比較的新しい銃であり、第二次世界大戦においては戦争末期で一部運用されたに過ぎない。にも関わらず、最新作『Call of Duty: Vanguard』や『Battlefield V』など昨今の第二次世界大戦を舞台とするゲームにおいて、アサルトライフルはあたかも戦場で普及していたかのように描写されがちだ。実際、これらの戦場に潜ってみればキルログには死因がアサルトライフルである旨が無数に流れている。

事実から言えば、第二次世界大戦のゲームでこれだけ自動小銃が出回ることは描写としておかしい。歴史や軍事に関心のある識者なら「歴史考証の不足だ!けしからん!」という気持ちはないでもないだろう。

とは言え、ゲームを評価する上で尊重すべきは、1にも2にも「面白いか、どうか」ではないだろうか。歴史的にいくらおかしかろうと、ゲーム全体が面白いなら構わないだろう、と思う。

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