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ついにgamescomに行ってきた

8月21日、我々はケルンにいた。今や世界最大のゲームショウとなったgamescomにぶらりと立ち寄ったドイツのインディーゲームのクリエイターたちに(アポを取ったうえで)取材するクレバーな作戦のためだ。この取材にかんしては後々、記事として公開する予定なので楽しみに待っていてほしい。

とはいえ、gamescomである。以前から筆者はgamescomに興味があった。何故なら、gamescomに訪れた者はみな「gamescomは今もっとも面白いゲームショウだ。ぜひ行くべきだ」という。しかし、なぜ行くべきか、何が面白いのかと問うても「それは実際に見ないとわからない」と返す。その意地悪い問答から、実際に自分の目で見てみたいと思っていたのだ。

そしてついに、gamescomに念願かなって訪問する機会に恵まれた。はるばる14時間のフライトを経て(北極を縦断した)、日本から遥かに遠いケルンまでやってきた。ではgamescomはその期待に応えるものだったのか。一体何が面白かったのか。

確かに、「gamescomの面白さは、実際に見ないとわからない」のだ。


ケルンメッセとgamescom

まずGamescomとはどんなイベントなのか、表面的な説明をしよう。

Gamescomはドイツのノルトライン=ヴェストファーレン州にあるケルン・メッセで開かれる。徒歩圏にはかの有名なケルン大聖堂がそびえており、実際にかの大聖堂から迸る静謐さを背中に受けて我々はメッセへと向かった。

驚くのはメッセの広さである。大小あわせて1〜11のホールが独立した建築物として存在し、それらが通路で接続されている。すべてあわせれば実に幕張メッセの約4倍の大きさがあるのに、ホールによっては2階建てになっているから実際にはもっと広い。それゆえ人口密度は低く、各ブースも広さにゆとりがあって、幕張と比べて居住性は格段に高い。

Gamescomのホールは具体的に以下のように分かれている。

2~4:ビジネスエリア
5:販売店・コスプレエリア
6~9:エンタメエリア(資本)
10:インディーエリア・ファミリーエリア 
11:ソーシャルエリア


順を追って説明しておこう。まずgamescom最大のブースを占領しているのが6~9、エンタメエリアだ。これは基本的に、東京ゲームショウなどでもよくみる大手パブリッシャーによるブースを想像してもらえればいい。ゲームショウと聞いてもっとも想像しやすい展示といえるだろう。

とはいえ、これもgamescomだと大きく印象が変わった。

TGSの企業ブースの場合、例年最も存在感があるのがCESA関連企業……具体的には、カプコン、セガ、バンナム、コエテク、スクエニといった企業による出展である。これはそもそも、TGSそれ自体がCESAの大きな影響のもと作られているからということもあり、プラットフォーマーたちが撤退して以降はまさにこの流れが顕著だった。これは今は亡きE3においても同じで、こちらの場合はEA、Activision、Take-Two、Epic Gamesといった存在が占めていたのである。

良くも悪くも、TGSもE3も自国における最大手のサードパブリッシャーの独壇場という印象が強い。それに対してGamescomの場合、こういう「国の色」が驚くほど薄い。ちょうど先月「Ubisoftとアサシンクリードの真実」という記事の中で欧州ゲーム市場について批評した、「欧州は世界第2位のゲーム市場でありながら、しかしゲーム産業としては劣る〈ゲーム貿易赤字地域〉である」という指摘が、偶然にもはっきりと観測できる結果となった。

それこそ渦中のフランスUbisoftを除けば、gamescomの企業ブースは「群雄割拠」と呼ぶのが相応しい。西からはアメリカの大企業ブースが、そして東からは日本の大企業ブースが混在し、どちらかがイニシアチブを取るわけでない。そしてその間隙に、中国を筆頭にした第三勢力が介在していることによって、実際もっとも世界のゲームパブリッシャーの勢力図を客観視できる場となっていたのである。

例えば、Xboxブースはアメリカ最大のブースでありながら、唯一のプラットフォーマー出展ということもあって、尋常ならざる巨大さだ。圧倒的な試遊エリアのほか、Bethesdaを筆頭に傘下のパブリッシャーたちも勢ぞろいということもあって、さながら軍隊のパレードのような迫力があった。

一方、日本のブースも強い。カプコン、セガ、バンナムなど、一通りのパブリッシャーたちが出展している。当事者に話を聞いたところ、元々Gamescomにそこまで力は入れていなかったが、E3の開催中止に伴って欧米へのプレゼンスを高めるため急遽Gamescomに予算をぶっこむことになったという。

日本企業の中でも目を引くのが、カプコンだ。Gamescomの会場、ケルンメッセはTGSの幕張よりも面積はおろか天井も極めて高く、それゆえに設営の自由度が高い。残念ながらTGSに慣れた日本ブースはどれも欧米のそれと比べてかなりしょぼかったのだが、カプコンのブースは『モンスターハンターワイルド』を主軸にバックグラウンドまでかなりウワモノに気合が入っていた。一方、スクウェア・エニックスはかなり限定的な規模だった。

そして第三勢力から圧倒的な存在感を放っていたのがUbisoftと中国……特にHoYoVerse(miHoYo)とLevel Infinite(テンセント)だ。やはり数少ない大手欧州パブリッシャーとしてUbisoftの存在は現地人にとって頼もしいものだろうし、一方で中国はTGSにおいても大きなブースを構えており、まだまだ世界でのプレゼンスを高める気合を感じさせる。なお、アサシンクリードブースで特に事件などはなく、みな平和に楽しんでいた。

ヨーロッパとしてはKingdom Come Delivarance2のブースが巨大だったのが印象的。もっとも完成度の高いブースだったのではないか。


次に興味深かったのが、インディーブースだ。

gamescomのインディーブースは、まずなんといっても「大きい」。TGSにおけるインディーブースが小さいうえに通路が狭く、さながら祭りの出店のような規模だったのに対して、gamescomは最小規模でもその数倍はあり、開発者たちもある程度余裕をもって応対していたのが印象的だ。

そしてアクセスも良い。筆者はTGSのインディーへの扱いは(マシになったといえ)かなり軽蔑するほど嫌悪しているのだが、それは何よりも、ものすごくアクセスが悪く、来場者が遊びづらいという点にある。これは幕張メッセの構造上の問題でもあるが、大企業が入るメインブースのホール1~8に対して、インディーが入るサブホールの9~11はエントランスをまたいで数百メートル歩かなければいけないし、メインホールとの往復も難しいのだ。

しかしGamescomのインディーブースはそんな悪辣な環境ではなく、インディーブースが入るホール10はメインエントランスから最も近く、メッセ全体の中央部分にあるため、人の往来の中で「ついでに」立ち寄ることがとても容易い。だから来場者にかんしてもメインブースと負けず劣らず集まっていて、対等に接してもらえているように感じられた。

そのうえ、面白いのは個人の開発者だけではなく、パブリッシャーなどが独自にまとまった敷地を借りて、独自に展示している点だ。これは日本でもしばし見かけるが、Gamescomはよりうまく機能している。特に面積の約10分の1程度を独占し、共通化したブースに37か国、170ものディベロッパーの試遊台に加え、開発者たちの休憩所、無償のドリンク、そしてビジネス用ミーティングブースをを詰め込んだ「Indie Arena Booth」は零細の個人開発者にとって非常に頼もしい存在だった。

なお今回、このIndie Arena Boothにも別件で取材予定のため、こちらも期待していただければ幸いだ。


最後に、もっとも異様であり面白く感じた部分として、物販ブースがある。

物販ブース、と一言に言っても別にgamescom公式のグッズを売っているわけでも、ゲームを売っているわけでもない。それどころかTGSのように、ゲーム関連のグッズですらない。その代わり、フィギュア、プラモデル、Tシャツ、同人誌、ぬいぐるみといった諸々が大小さまざまな出店によって陳列されている。さながら、リトル・アキハバラ(ドイツ語っぽく呼ぶなら、クライン・アキハバラか)がケルンに期間限定で顕現しているのである。

なんだこれ

一言で言って、これは全くの異様だ。まずもって、ゲームと関係がない。いや全く関係がないわけでないが、ビデオゲームというよりは「otaku」的なものでしかなく、それがビデオゲームのために作られた期間限定の祭典にこれほど堂々と鎮座するのかがわからない。しかも、ブースのほとんどは利益のためというよりは、どう考えてもコレクションを自慢したいがための、そしてそのために絶大な苦労をして巨大なガラスケースとコレクションをここまで運搬しているのだ。出す人間、見る人間、それを許可するgamescom、本当に誰も経済的な利益を享受していない。

しかし、だからこそ楽しい。日中米の大資本が角を突きつけあうブースの隣に、わけのわからないオタクたちが思い思いにotakuであることを主張し、それをここにいる全員が肯定しているという日常性がある。それは根幹的にゲームの見本市という常識を歪め、何か、よくわからない「gamescom的な何か」へと変えていく。それが、gamescomそれ自体の唯一性へと還元されていく。


つまり、gamescomとは何か

gamescomを訪れた者は、皆それを絶賛するが、しかし「gamescomとは何か」「それのどこがすごいのか」という疑問に対して具体的な答えを持たない。多くは「実際に行って見てこい」という。そして筆者は実際に見た上で、「gamescomとはgamescom的なもの」としか言いようがないことを悟った。

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