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なぜ無料で読める攻略サイトがありながら、攻略本に行列ができるのか? 血と涙のゲーム攻略情報史


情報を伝える手段としてネットが台頭してからもう何十年も経つ。

例えば、youtube、ニュースサイト、SNSなどの媒体はいずれも、数分のうちに情報が拡散する速さ、スマートフォンやPCからアクセスできる気楽さ、そして何より利用するのにお金がかからないという強味で、情報媒体の勢力図を一気に塗り替えた。さながら、ネアンデルタール人が石を投げ合っていたら、現代人がM-16で銃弾をぶっ放してきたというような理不尽さである。

かくして書籍、新聞、雑誌といった「紙」のメディアはオールド・メディアと呼ばれ、衰退の一途をたどっていく。それはゲーム業界とて例外ではない。むしろ最も顕著に打撃を受けたといってもいい。4gamerなどのニュースサイトが登場したことで昔は何冊もあったゲーム月刊誌は多くが廃刊となり(2020年2月には電撃が休刊に)、書店におけるゲーム攻略本の棚も、後述する「企業系ゲーム攻略サイト」の登場でどんどん減らしていった。

……と思っていたところに、にわかに信じがたいニュースが飛び込んでくる。営業を再開した新宿の紀伊国屋本店で長蛇の列が生まれたのだが、そのほとんどは『あつまれ どうぶつの森』の攻略本を求める客だったというのだ。ホリエモンの持論本でなく、東野圭吾の小説でもなく、あの片隅へ追いやられたゲーム攻略本のために長蛇の列とは、中々想像に難い。

こうした攻略本の「逆転劇」には『あつまれ どうぶつの森』の人気もさながら、実は書籍よりも先に見えてきたインターネットメディアが自滅しつつあることがある。早い、易い、安いの三拍子揃ったニューメディアの一体どこに課題があるのか探した我々の前に、そこには「調査中」で並ぶハリボテページが現れたのだった。



ゲーム攻略をめぐる闘争史

難しいゲームを遊んでいると、ついカンニングしてしまう人は少なくない。水の神殿の扉はどうやったら開くのか?アルセウスは実在するのか?プーギーをなでると報酬がよくなるのか?人類はなぜ自我を持ったのか?

あぁ気になる、もう辛抱ならんということで手を伸ばすのが、昔は攻略本だった。何とか完全攻略とか、あれこれパーフェクトブックとか、妙にけばけばしい装丁の本が書店に並べられており、これがゲームを攻略するうえで多いに役立った。小中学生の経済事情では1000円いくらの攻略本は決して安いものではなかったが、それでも兄弟や友人間でシェアして何とかする程度には、参考にする価値のある書籍だったのだ。

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攻略本の中には『アルティマニア』のように攻略情報に加え、設定資料集的な豊富なコンテンツを掲載するものもあった。


ところが21世紀に入って、PS2やドリキャスなどゲームハードですらインターネットに繋げるほどインターネットが身近なものになると、利用するカンニングペーパーは攻略本から個人で作ったファンサイトへ変わっていく。

ゲームファンが自分でサイトを作り、そこに攻略情報をまとめた個人攻略サイトの台頭だ。情報の量・質ともにピンキリだが、おおむね情熱と執念を感じるものが多く、ただ攻略情報だけではなくイラストやミニゲーム、掲示板まで載せた豪華なサイトも多く作られた。

そうなると発売までラグがあり、決して安くない攻略本は少し見劣りする。お小遣いを1円でもゲームに使いたいと考える子供たちが、こうした個人攻略サイトを利用するようになったのは無理もない。


とはいえ個人攻略サイトを作るのは手間も技術もお金もかかる。そもそもインターネットとは各所から情報を集積して共有するために作られたものなのだから、皆で一緒にサイトを作った方が効率的ではなかろうか?

そこで2000年後半から自然とぽつぽつ作られたのが「攻略Wiki」の存在である。@wikiなど、各ユーザーがログインすればだれでも執筆できるサービスを利用して、ゲームタイトルごとに「〇〇 攻略Wiki」が作られるようになった。

これらは個人攻略サイトより濃度は劣るが安定しており、何よりユーザーが発見した攻略法が各地から集積されたことで攻略のスピードが格段に上がった。間違いもすぐ訂正されるというメリットも見逃せない。特に当時からPS3、Xbox 360などコンシューマーでのオンラインプレイが当たり前になったので、情報のスピードは特に重要だったのだ。個人的にはこの辺で大ブレイクした『Call of Duty 4』あたりが印象的で、しょっちゅう武器のアタッチメントとかPerkの相性を調べ、時にコメント欄で「こっちの方が強いのではなかろうか」と議論していたのを思い出す。

コメント 2020-05-11 224859

引用元:https://w.atwiki.jp/cod4/pages/11.html


しかしこの個人攻略サイト辺りから少しずつ不穏な空気が流れだす。まず目下問題視されたのが、某はちまや某JINといった所謂ゲハブログの存在だ。

こいつらはもともと当時利用者が激増していた2ちゃんねるのスレッドをまとめるサイトだったのだが、サイトに広告を張り付けて銭ころを稼ぐアフィリエイトで大儲けできることがわかると、ただまとめるだけに飽き足らず、勝手にスレッドになかった書き込みをつけ足したり、ありもしないタイトルに変えて、ゲームファンの主にハードをめぐる対立の憎悪をかきたてるイエロージャーナリズム(というかうんこ色ジャーナリズム)を発揮するようになった。

こうしてネットで銭ころが稼げることが判明すると、次に目をつけられたのが攻略サイトだった。ゲーム市場は着々と伸びを見せていて、さらに攻略情報は何より需要のある情報。さらにスマホが普及し始めたことで『パズル&ドラゴンズ』、通称『パズドラ』をはじめとしたソーシャルゲームが爆発的に売れたこともあって、攻略サイトが次々に生まれてはその収益で人を雇い、さらに情報を増やして収益を増やすという、ちょっとした攻略サイトバブルが発生する。


そこまではまだ健全なコンテンツが作られているのだが、問題は同業他社で競合し始めてからである。あらゆる企業活動がそうであるように、法人化、まして株を発行した株式会社ともなれば、とにかく利益をあげねばならん。利益とは単純に、コストを抑えてパフォーマンスを出すことで生まれる。

そこで一部の企業系攻略サイトはコストを徹底して切り詰め、薄利多売を突き詰める道を選んだ。

まず何でもいいからページを公開する。嘘が混ざってようが、中途半端であろうが、とりあえず記事を書いて出さないことには広告を読んでもらうためのPVが稼げない。

コストを抑えるためにライターも能力より安さで選ばれ、時給にして数百円、下手すればそれ以下という安さで雇われた子供たちが書くものだから、とにかく質より量で彼らも稼ごうとする。その結果、もう情報すら一切載せずすべての欄を「調査中です」で埋めたページすら掲載するようになってしまう。

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適当でもいいや、何も書かなくてもいいや、そうやってコストを切り詰め続けた彼らの中には、自分で情報を集めることすらせず、既存の個人攻略サイトや攻略Wikiの情報をコピーして、自分たちのサイトにペーストするという輩もいた。ゲハブログやNAVERまとめのようなパクリコンテンツが横行する中だから、別段珍しくもなかったのだが。

そうなると個人やコミュニティで攻略サイトを作ってきた有志たちとしてはたまったものではない。「我々はゲームを楽しむために無償で労力を提供したのであって、半グレたちを養うために提供しているわけでない」そりゃそうだ。こうして攻略サイトは次々更新が止まり、代わりに企業系攻略サイトだけが残る。あとはご存知の通り、ぺんぺん草一つ生えず、巨大化したゴキブリがうろつき、モヒカン頭の男が釘バットを振り回すウェイストランドの光景だ。

ゲーム攻略媒体をめぐる闘争史とは概ねこんな具合である。

まず攻略本が中心であり、次に個人攻略サイトや攻略Wikiに移り、それらを収益に特化した企業系攻略サイトが駆逐した。この歴史を一言で言うなら「正直者が馬鹿を見る」そのものだ。

上記の内容は読者の方であれば「ゲーマー日日新聞」の記事で既知のものだったかもしれないが、ここで一つ新しい見解を加えたい。実は企業系攻略サイトはラスボスではなかった。彼らはドラクエでいうバラモスであり、確かに悪童には違いないが、それとは別にゾーマがいたのである。


魔王Google
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そのゾーマというのがGoogleである(断言)。

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