お気に入りの短歌2

油彩画の画面の中に梨がある これ以上言うことができない

佐クマサトシ『標準時』


「これ以上言うことができない」って思うことってよくある。それを下の句でビシッと言ってしまう思い切りのよさ。僕は佐クマサトシの短歌を読んでいて「これ以上言うことができない」と思うことがよくあって、それを自ら言っているように感じて、かっこいい…ってなってしまった。

注意力をできるだけ散漫にして よけられない夏がこっちへ来る

青松輝『4』


当たり前だけど夏はよけられない。またあの、下手したら永遠と勘違いしてしまうような夏がきてしまって、ぼくを傷つけるかもしれない。なるべく気づかないふりを。なるべく傷つかないように。注意力をできるだけ散漫にする。

お遊戯がおぼえられない君のため瞬くだけでいい星の役

穂村弘『ドライドライアイス』

「君のため」によって主体が浮かび上がってくる。「君」が「星」であることだけでなく、恩着せがましくも「君」の輝き「だけ」を、お遊戯の役に写し取ろうとしている主体のエゴ。

目がさめるだけでうれしい 人間がつくったものでは空港がすき

雪舟えま『たんぽるぽる』

「空港」のモチーフは遠くにすんでいる人間どうしを繋げるものをシンボリックに表していて、三句以降は人間以外の(超常的な)視点とも取れる。だからこそ包容力があってやさしくてあたたかい。「覚める」「嬉しい」「作った」「好き」をひらくことでその柔和なイメージを助けている。なんかよくわかんないけど、なんかポカポカしていてすき、ってなるのが雪舟えまの短歌には多い気がする。

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