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詩の部屋

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「詩の部屋」をテーマにした7行詩の連作です。
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#ポエム

詩の部屋 26 (2023年1月18日投稿)

  ○ 76 仕方がないので庭の椅子に座って アライグマの食事を眺めている ネギを齧りながらこちらを見て お茶も出ないのかよという表情をする 黙っていても注文が多い 知らんぷりをしているとどこかから ポケットウィスキーの瓶をだして一口飲んでいる   ○ 77 一通り野菜を食べ終わると アライグマはやれやれという様子で 庭に大の字になる やれやれはこっちで追い出せばいいのか ほっといていいのか全く分からない とりあえず私も椅子にもたれる 鳥たちは木のてっぺんで世間話を続け

詩の部屋 25 (2023年1月17日投稿)

  ○ 73 ピザトーストを食べていると 猫がキッチンへやって来る 直ぐにコーラの入ったコップのところへきて うまそうに飲み始める 今までに見たことのない顔 お前、そんな顔もできるんだ その顔を見ながらもう一口ピザトーストを齧る   ○ 74 食事を終えてお茶でも入れようと思っていると 庭の方で大きな音がする 慌てて外へ出てみると何か大きなものがいる 大型犬ほどのアライグマ 手には大きな新聞紙の包みを抱えている ふてぶてしい顔で私を一瞥すると 座り込んで包みを開け始める

詩の部屋 24 (2023年1月16日投稿)

  ○ 70 ピザトーストのお供になる飲み物を探そうと 冷蔵庫を開けるとオレンジジュースの容器 それとコカ・コーラの瓶が入っている コップを二つ出して一つにオレンジジュースを もう一つに瓶入りのコーラを注ぐ オレンジジュースはずっと黙っているが コーラは独り言が止まらない   ○ 71 テーブルに二枚のピザトーストと オレンジジュース コーラの入ったコップは猫のため 「あいーん」でない方のピザトーストを齧る 溶けたチーズの熱さと濃い味が喉を伝って ゆっくりと身体の中へと

詩の部屋 23 (2023年1月11日投稿)

  ○ 67 もう正午になろうとしているので 冷蔵庫を開けてみるとチーズの袋 ピザソース、サラミまで入っている 朝のパンがまだ残っているので薄く切ってピザトーストを作る 袋を開けるとチーズの形は ひらがなとアルファベットと記号 使ってほしそうにこちらをジッと見ている   ○ 68 パンの上にピザソースをたっぷり塗って 薄く切ったサラミと玉ねぎものせる 手のひらの上にチーズを少し取る 「あ」「い」という文字が目につくが 何か物足りない気がして別のチーズをつまんで トースト

詩の部屋 22 (2023年1月10日投稿)

  ○ 64 椅子に座ってジュースを飲みながら庭木を眺める 太い木 細い木 分厚い葉 薄い葉 名前を知らないと全てを「木」と呼ぶが それらは幹を振り上げ葉を突き出し それぞれの違いを見せつけてくる 一つ一つにあだ名をつけようと思うと みな、しかめっ面をして向こうを向いてしまう   ○ 65 キッチンの勝手口から室内に戻る 猫も後ろをついてきたので 扉を開けてお先に、と手招きする いつも通りにお礼もなく彼は入って 私も続いて入るとドアのホワイトボードに 「カギをかけて!」

詩の部屋 21 (2023年1月9日投稿)

  ○ 61 そばに積まれた植木鉢と スコップを手に取る 大きく太い庭木の根元を何度か掘って その土を植木鉢に入れる 赤い花の写真がある袋を破って 小さく黒い種を数粒蒔く テーブルの上の言葉も集めて振りかけておく   ○ 62 じょうろを探して庭のあちこちを見回す 庭の奥に真っ青なのがあって 水場の横に立てかけてある 勢いよく水を入れるといろいろな音が溢れて 音楽が庭いっぱいに広がる その水を植木鉢にかけると 別の音がハーモニーを重ねていく   ○ 63 ひと仕事を

詩の部屋 20 (2023年1月7日投稿)

  ○ 58 庭へ行くとそこに大きなテーブルと二脚の椅子 窓からは死角で見えなかったもの もう古くてすっかりボロボロで 私は恐る恐る椅子に腰を下ろす テーブルには何かが写っているようで よく見るとただの木目で 私はここでもずっとボーっとしている   ○ 59 ぼんやりと庭木を眺めてから もう一度庭のテーブルの上を見る すると風が吹くたびに様々な文字が浮かび上がる それは荘子なのかソクラテスなのか ただ単なる誰かのグチでしかないのかもしれない、 天然パーマでぼさぼさ頭の男

詩の部屋 19 (2023年1月6日投稿)

  ○ 55 猫はコーヒーを飲みながら 何か考えごとをしている 私は考えることが何もない だから彼の様子をずっと見ている 独り言をぶつぶつ言っているのは聞こえないふり それでも気に入らないのか黙って向こうへ行ってしまう またひとりになったので猫の帰りを待っている   ○ 56 すっかりやることがなくなったので キッチンへ行ってみる よく見ると裏へ出る勝手口がある ドアにはホワイトボードがぶら下がっていて 上の方に書かれている小さな文字 「鍵を開けるためには何か一文字書く

詩の部屋 18 (2023年1月5日投稿)

  ○ 52 残っているミルクティーをゆっくり飲む ここには何もないのでやることがない 時間だけはたくさんあるので どうでもいいことにしっかりと使う コーヒーはすっかり冷めたのに 猫はまだやって来ない 彼と交わす話題をいくつも思い浮かべておく   ○ 53 詩の部屋の窓を開けると 外の空気はまだ冷たさが残っている 庭のずっと向こうを飛んでいる鳥は 昨日やって来ていたのとは違う 彼ら彼女らは自分たちの塒(ねぐら)を出て 今日一日やることがたくさんある 私は手持ち無沙汰に鳥

詩の部屋 17 (2023年1月3日投稿)

  ○ 49 まだぼんやりとしたままの頭を抱えて なぜこの部屋にいるのかを考えそうになる その前に気になるのは窓のカーテンが いつの間にか閉まっていること それからカーテンの柄が水玉模様なこと とりあえずカーテンを開けると晴れていて 私はお腹が空いたということに切り替わっている   ○ 50 キッチンのテーブルの上を見ると もうパンが盛られている皿がある 冷蔵庫にあるトマトを半分にして ハムは薄く一枚だけ切り出す ミルクティーを一人分とコーヒーを一人分入れて コーヒーは

詩の部屋 16 (2023年1月1日投稿)

  ○ 46 ノートの前で肘をついていると 文字の一つが目の前にやって来る よく見るとノートの一角を指差していて そこにうっすらと何かが写っている 私は慌てて鉛筆でその写っているものをなぞる するといくつもの素晴らしい詩が浮かび上がる 目が覚めるとその一節すら思い出せずに   ○ 47 ぼんやりと目を開けても ここがどこなのかしばらく分からない 見たこともない天井があって 寝心地もいつもと違う 辺りを見渡しているうちに 記憶の断片が繋がって 私は一応机の上にノートのない

詩の部屋 15 (2022年12月31日投稿)

  ○ 43 猫は椅子の上に座って顔を洗って 髭を整えてから手を舐めている 机の上にあるカップには 紅茶が半分以上残っていて コーラの方が良かったのだろうかと反省する 猫もコーラを飲んだらげっぷをするのだろうか 最後にげっぷをしながら歩いた夜のことを思い出してみる   ○ 44 詩の部屋のソファに横になって目をつぶる 浮かんでくるのは色々な文字が 様々な服装をして歩き回っている様子 互いに顔を合わせると 聞いたことのない言葉を交わしている たぶんそれは私の知らない挨拶な

詩の部屋 14 (2022年12月30日投稿)

  ○ 40 詩の部屋にやって来て初めての夜 町は遠いのか車の音は全くしない 外から聞こえてくるのは虫の音と 詩がお互いにその名を呼び合う声 あるものは優しく、あるものはか細く ロマンティックではなく完全にリアルで 誰かはずっと誰かの名を呼び続けていて   ○ 41 猫はすっかりトランプに飽きたのか 部屋の中をグルグルと歩き回っている 私は起き上がってキッチンへ行き 紅茶を二人分入れる 猫はありがとうも言わずに 窓の向こうを見ながら飲んでいる お互いに黙っていると鳩時計

詩の部屋 13 (2022年12月29日投稿)

  ○ 37 炊き立てのご飯をよそいながら ここに住んでいたのはどんな人なのか などと考えてみる 焼いたばかりの肉を一口 頭に浮かんでくる川にはかつて行った気がする みそ汁を一口すするときには どうしてここにいるのかは忘れている   ○ 38 食事を終えるともうすっかり陽は暮れていて 私は詩の部屋のもう一つのドアを開ける その部屋には何枚かの毛布が積まれていて かつて言葉だったものがたくさんくっついている 私はそれらが落ちないようにそっと 二枚の毛布を詩の部屋へと運んで