ゴッホ展④ レモン
それにしても、レモンはどうしてこれほど強い生命力をみなぎらせているのだろう。
高村光太郎の『レモン哀歌』、梶井基次郎の『檸檬』、米津玄師の『lemon』…。太陽をたっぷりと浴び、その果肉を固く瑞々しく凝縮させたあの果物は、時代も国も超えて、生命力の象徴である。そしてそれは、絶望に近ければ近いほどより強い。
『檸檬の籠と瓶』において、ゴッホはレモン自体をビビッドに描くのではなく、それが置かれたテーブルクロスや背景の壁を、さらに明るい黄色で塗りつぶした。彼は、レモンを描いたのでなく、レモンのもつエネルギーそのものを描いたのだ。
ヘレーネはこの絵を見て、「“天国のような絵”という表現が見れば見るほどぴったりとくる」と言ったそうだ。ここでの天国は、おそらく死後にいき着く場所ではない。それは、この世を生きるための原動力だ。
天国とレモン。
網膜を一瞬で明るく照らしだし、この世を生きるに足ると思わせてくれるもの。
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